華麗なるブルゴーニュ家とハプスブルグ家の歴史絵巻~ 「我らが姫君」マリー姫と「中世最後の騎士」マクシミリアン1世のかくも美しい愛の物語

伽羅かおる

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【第1章】幼き3人の姫君達

《初めのはじめ》

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  皆さんは、中世15世紀の頃、フランス語ではブルゴーニュ公国、ドイツ語ではブルグンド公国という、当時の欧州で最も裕福だった豊かで広大な公国があったことをご存知でしょうか。フランスのブルゴーニュ地方から現在のベルギーやオランダにかけて豊かな土地を支配していたのがヴァロワ=ブルゴーニュ家でした。

 ヴァロア朝第3代フランス王シャルル5世の弟・フィリップ豪胆公からヴァロワ=ブルゴーニュ家の歴史が始まったのは14世紀中旬——正確には1363年のことです。

  そしてこの物語の主人公の一人、ブルゴーニュ公国の人々から「我らが美しき姫君」と慕われ、ブルゴーニュ公国第5代当主でもある、マリー・ド・ブルゴーニュ(ドイツ語ではマリア・フォン・ブルグンド、オランダ語ではマリア・フォン・ブルホンディア、また英語ではメアリー・オブ・ブルグンディになりますが今回はフランス語での名前に統一します)が誕生したのは1457年で、ヴァロワ=ブルゴーニュ家はこの約100年の間に4人の当主がいました。

 中世の人々は王でさえも、長生きするほうが珍しいくらいなので、100年の間に4人もの当主が変わるというのは普通のことではありますが、それにしてもマリーの父シャルル突進公の一生はあまりにも速く過ぎ去ってしまいました。

 それは彼があまりにも過度な権力欲に取り憑かれたせいという理由の他はありません。彼がもう少し冷静に先のことを考え行動していたら、愛娘マリーとその孫達に囲まれて楽しく幸せな老後を送れたことでしょう。

 突進公と呼ばれたシャルルは当時欧州随一の財産家になっていたというのに、それだけでは飽き足りず、地位と領土を拡大したいばかりに無謀な戦争に明け暮れ、当時18歳の一人娘のマリーを残して44歳という若さで亡くなってしまったのです。

 欧州一の資産を相続することになったマリーには求婚者が殺到しますが、そのマリーのお眼鏡にかない、マリーを妻に迎えることになったのがハプスブルグ家の御曹司、後のマクシミリアン1世でした。

 当時、極貧と言っても言い過ぎではない、借金で首も回らない状態だった神聖ローマ皇帝ハプスブルグ家でしたが、マリーと婚姻したことにより、マクシミリアンの子供達によってブルゴーニュ家の領土、財産の全てはハプスブルグ家に引き継がれることになります。

 この詳しい話は本編にてお楽しみいただくとして、一つ少しだけ皆さん——特に女性の方達にとっても興味深いと思われる話で締めくくりたいと思います。

 婚約指輪が最初にヨ-ロッパの文献に登場するのは9世紀なのですが、実はマクシミリアンがマリーに婚約指輪を贈ったことから、この習慣が始まったと言われています。

 なので婚約指輪の風習を世に知らしめしたのは、この我らの「マリーとマクシミリアン」なのです。

 このダイヤモンドの婚約指輪は、聖母マリアとマリーとマクシミリアンの3つのMを意味する「M」字型で、小さなダイヤモンドが埋め込まれています。この豪華なMの字形の金のダイヤの婚約指輪の複製は今でもウィーンの美術館にて見ることができますが、なかなか重厚なゴシック調の素敵な金の指輪です。

 マクシミリアン1世の最愛の夫人であり、欧州随一の資産を誇ったブルグンド公国の女公爵マリーの話は意外にもあまり多くの方に知られていないようですが、この婚約指輪の話は彼女を一気に身近な、まるでつい最近まで私達と同じように生きていたかのように感じさせてくれる逸話だと思います。

 そして今回のお話は、マリーの側に仕える友人という名目でマリーと共に育った2人の姫アリシアとセシリアのお話でもあります。この2人はブルグンド公国の姫ではないのですが、複雑な事情を抱えているため、自分達がある国の姫ということは知らずに過ごしてきました。

 彼女達がどこから来たのか、どこの出自なのか、読者の皆さんが彼女達の出生の秘密を理解するのは、少し先のことになります。

 さてついに、マリーとマクシミリアン、アリシアとセシリアの中世ヨーロッパ王朝絵巻の始まりです。


※このダイヤモンドの婚約指輪は、聖母マリアとマリーとマクシミリアンの3つのMを意味する「M」字型で、小さなダイヤモンドが埋め込まれている。

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主な参考文献

「Maria von Burgund」 Carl Vossen 著    (ISBN 3- 512- 00636-1)
「Marie de Bourgogne」 Georges-Henri Dumonto著 (ISBN 2-213-01197-435-14-6974-03)

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