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第6話 スキル
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俺は勢いよく床を蹴り、前方に飛び出した。
それを視認したのか、《ゴーレム・キングMk-zero》も行動を開始する。
機械的な動きで顔をこちらに少し向けると、ゴーレムは大きな巨体に見合わないスピードで真正面から俺に迫ってきた。
高さ3メートル近くある鋼の塊と相見えると、改めてその強靭そうな外見と、迫る威圧感で恐怖を覚えそうになるが、ここで立ち止まるわけにはいかない。
ゴーレムのすぐ近くまで接近すると、ここで俺のシークレットスキル、《ギア・チェンジ》が発動した。
何回か使用しての考察は、このスローモーション状態は自分でコントロールすることは出来ず、敵とのある一定の間合いへ縮まった時に発動するらしい。
見るからに約2メートル手前ーーといったところか。
まず俺は体を沈み込ませ、ゴーレムの足元へ滑り込む。
そしてその距離50センチほどとなったところで、攻撃に転じる。
右手に握られた剣を、ゴーレムの左脚に命中させ、そこから思いっきり上に切り上げた。
太もも、腹部、胸部と順々に剣が走り、首元を最後に空中に剣が抜けていく。
俺のジャンプは予想以上に向上していた。
これもレベルの恩恵なのだろうがそれ以外の要因もあった。
この城に侵入する少し前、俺と芽衣はステータスポイントの振り分けを行ったからだ。
ステータスポイントとは、レベルアップの際に得られるステータスを向上させるポイントのことである。
最初からレベルが高かった俺達のポイントは既に300に迫っており、貯められたままに放置されていた。
俺はスピード重視の攻撃力寄りに、芽衣はスピード重視のテクニック寄りに、全てのポイントを割り振った。
それも影響してか、現実世界では実現不可能な跳躍を成功させることができた。
その後すぐに後ろに飛び、ゴーレムの様子を伺う。
「どうだ……?少しは……」
するとHPバーは見事なほど全快であり、恐ろしい硬さを誇るゴーレムの身には傷一つ残っていない。
「硬すぎるな……あれにダメージを与えるのは容易じゃないぞ……」
すると芽衣はこちらをちらっと見てから言った。
「次は私の攻撃を食らわせてみるわ」
顔が完全に戦闘モードに入っている芽衣だったが、俺はその輝かしい美貌に不覚にも少し見惚れてしまった。
違う違うと自分に言い聞かせ、もう一度芽衣を見ると、目を瞑りながら、精神統一を行っていた。
瞳を開けると、その量の目から熱い闘志と気合がビリビリ伝わってきた。
そして前方に飛び出した。
目にも留まらぬ速さでゴーレムの懐に到達した芽衣は、その勢いのままに高速剣技でゴーレムのあらゆる箇所を切り刻んでいく。
しかし、これをもってしても全く微動だにしないゴーレムは、上半身を回転させ、芽衣を吹き飛ばした。
空中に放り出された芽衣は、そのまま俺の目の前まで飛ばされてきた。
俺は自分の実を犠牲にして芽衣の下敷きとなる形で受け止める。
これにより少しHPが減少したが、まともに攻撃を受けた芽衣程ではない。
「大丈夫か!?すぐに回復を!」
すでに黄色のゾーン、半分以下までにHPを減らされていた芽衣に回復アイテムを使用させ、それのおかげで全損は避けられた。
「全然ダメよ……初期装備とまだ不慣れな戦闘……私達にはまだ早すぎたのかも……」
芽衣の顔からは既に、先程の気合が消滅していた。
だか……俺にはまだ秘密兵器がある……
「昨日は一睡もしないで、一晩中ずっとこの世界の情報収集をしてたんだ。そしたら見つけたんだ。スキルの使用方法を」
そう俺は昨日、既にスキルについてはある程度、知識を得ていた。
しかし急に実践でやるとなると、話は違うので今まで黙ってはいたが、そうも言っていられなくなってきた。
「俺がスキルをあいつにぶち込む。その隙に奴の首元を狙って芽衣のありったけの力で剣を振ってくれ」
更に、俺は見逃さなかったーー。
芽衣の超速の剣を受けているゴーレムが、首元に命中した瞬間、ほんの少し……半歩だけ後ろに後退したことをーー。
「首?首がなんだっていうの?」
「奴は首に弱点がある……俺が隙を作るからそこを狙うんだ」
しかし、俺の攻撃が中途半端であると、俺もろとも芽衣もゴーレムの攻撃をまともに受け、瀕死に追い込まれるのは必須だろう。
それを防ぐためには圧倒的火力の攻撃を浴びせることが必然となる。
それにはやはりスキルしかないーー。
この世界ではスキルは2種類あり、レベルアップによって使用可能になるものと、アイテムの巻物を使って使用可能になるものだ。
もちろん後者の巻物などというものはこの場に存在しないので、レベルアップのほうを使うしかあるまい。
この世界ではレベル10ごとに1つスキルが追加されるので、現在レベル50の俺は、5つのスキルを持っていることになる。
昨日宿で確認した、5つのスキルのことだ。
その中でも、やはり最大火力を出すためにレベル50で覚えた一番の攻撃力を誇るスキルを使うことに決めた。
「芽衣……俺が合図したら一緒に走り込むぞ……カウントは5からだ」
芽衣は頷くと、目に闘志が復活したようだった。
「いくぞ、5……」
スキルの発動に一番大事なことーー。
それは型をスキル使用前に構築することだ。
これが失敗すれば如何なるスキルも使用することが出来ない。
誰もが所持している初期スキル《スライドアッパー》を例にすると、まずスキル発動前に自分の剣で下から上に切り上げる動作を行うと、剣に光が集約してスキルが開始される。
開始された後は剣についていけば自動でスキルを完成させてくれる。
「4……」
しかしこれは繰り返し日々の鍛錬が必要で、使用すればするほど威力は向上していき、精度も高くなる。
「3……」
俺のようにいきなり使ったこともないスキルを実戦で使用するのははっきり言って無謀なバカだ。
しかし通常攻撃が通用しない相手なのだ……これしかもう方法がない。
「2……」
今から使用するスキルの名称は、《アクセルブロウ》。
型は十字に剣を振った後、剣を後ろに大きくテイクバックすることで発動する。
もちろんスキルの威力が高く、レアなスキルほど、事前の型は難しさや複雑さを増すが、それは仕方のないことだろう。
「1……」
残り1秒になり、俺は型を開始……そしてそれが終わったとき、俺の声が城にこだまする。
「GO!」
一斉に飛び出した俺と芽衣はもはや、青白いボディーに身を包む敵にしか眼中に無かった。
それを視認したのか、《ゴーレム・キングMk-zero》も行動を開始する。
機械的な動きで顔をこちらに少し向けると、ゴーレムは大きな巨体に見合わないスピードで真正面から俺に迫ってきた。
高さ3メートル近くある鋼の塊と相見えると、改めてその強靭そうな外見と、迫る威圧感で恐怖を覚えそうになるが、ここで立ち止まるわけにはいかない。
ゴーレムのすぐ近くまで接近すると、ここで俺のシークレットスキル、《ギア・チェンジ》が発動した。
何回か使用しての考察は、このスローモーション状態は自分でコントロールすることは出来ず、敵とのある一定の間合いへ縮まった時に発動するらしい。
見るからに約2メートル手前ーーといったところか。
まず俺は体を沈み込ませ、ゴーレムの足元へ滑り込む。
そしてその距離50センチほどとなったところで、攻撃に転じる。
右手に握られた剣を、ゴーレムの左脚に命中させ、そこから思いっきり上に切り上げた。
太もも、腹部、胸部と順々に剣が走り、首元を最後に空中に剣が抜けていく。
俺のジャンプは予想以上に向上していた。
これもレベルの恩恵なのだろうがそれ以外の要因もあった。
この城に侵入する少し前、俺と芽衣はステータスポイントの振り分けを行ったからだ。
ステータスポイントとは、レベルアップの際に得られるステータスを向上させるポイントのことである。
最初からレベルが高かった俺達のポイントは既に300に迫っており、貯められたままに放置されていた。
俺はスピード重視の攻撃力寄りに、芽衣はスピード重視のテクニック寄りに、全てのポイントを割り振った。
それも影響してか、現実世界では実現不可能な跳躍を成功させることができた。
その後すぐに後ろに飛び、ゴーレムの様子を伺う。
「どうだ……?少しは……」
するとHPバーは見事なほど全快であり、恐ろしい硬さを誇るゴーレムの身には傷一つ残っていない。
「硬すぎるな……あれにダメージを与えるのは容易じゃないぞ……」
すると芽衣はこちらをちらっと見てから言った。
「次は私の攻撃を食らわせてみるわ」
顔が完全に戦闘モードに入っている芽衣だったが、俺はその輝かしい美貌に不覚にも少し見惚れてしまった。
違う違うと自分に言い聞かせ、もう一度芽衣を見ると、目を瞑りながら、精神統一を行っていた。
瞳を開けると、その量の目から熱い闘志と気合がビリビリ伝わってきた。
そして前方に飛び出した。
目にも留まらぬ速さでゴーレムの懐に到達した芽衣は、その勢いのままに高速剣技でゴーレムのあらゆる箇所を切り刻んでいく。
しかし、これをもってしても全く微動だにしないゴーレムは、上半身を回転させ、芽衣を吹き飛ばした。
空中に放り出された芽衣は、そのまま俺の目の前まで飛ばされてきた。
俺は自分の実を犠牲にして芽衣の下敷きとなる形で受け止める。
これにより少しHPが減少したが、まともに攻撃を受けた芽衣程ではない。
「大丈夫か!?すぐに回復を!」
すでに黄色のゾーン、半分以下までにHPを減らされていた芽衣に回復アイテムを使用させ、それのおかげで全損は避けられた。
「全然ダメよ……初期装備とまだ不慣れな戦闘……私達にはまだ早すぎたのかも……」
芽衣の顔からは既に、先程の気合が消滅していた。
だか……俺にはまだ秘密兵器がある……
「昨日は一睡もしないで、一晩中ずっとこの世界の情報収集をしてたんだ。そしたら見つけたんだ。スキルの使用方法を」
そう俺は昨日、既にスキルについてはある程度、知識を得ていた。
しかし急に実践でやるとなると、話は違うので今まで黙ってはいたが、そうも言っていられなくなってきた。
「俺がスキルをあいつにぶち込む。その隙に奴の首元を狙って芽衣のありったけの力で剣を振ってくれ」
更に、俺は見逃さなかったーー。
芽衣の超速の剣を受けているゴーレムが、首元に命中した瞬間、ほんの少し……半歩だけ後ろに後退したことをーー。
「首?首がなんだっていうの?」
「奴は首に弱点がある……俺が隙を作るからそこを狙うんだ」
しかし、俺の攻撃が中途半端であると、俺もろとも芽衣もゴーレムの攻撃をまともに受け、瀕死に追い込まれるのは必須だろう。
それを防ぐためには圧倒的火力の攻撃を浴びせることが必然となる。
それにはやはりスキルしかないーー。
この世界ではスキルは2種類あり、レベルアップによって使用可能になるものと、アイテムの巻物を使って使用可能になるものだ。
もちろん後者の巻物などというものはこの場に存在しないので、レベルアップのほうを使うしかあるまい。
この世界ではレベル10ごとに1つスキルが追加されるので、現在レベル50の俺は、5つのスキルを持っていることになる。
昨日宿で確認した、5つのスキルのことだ。
その中でも、やはり最大火力を出すためにレベル50で覚えた一番の攻撃力を誇るスキルを使うことに決めた。
「芽衣……俺が合図したら一緒に走り込むぞ……カウントは5からだ」
芽衣は頷くと、目に闘志が復活したようだった。
「いくぞ、5……」
スキルの発動に一番大事なことーー。
それは型をスキル使用前に構築することだ。
これが失敗すれば如何なるスキルも使用することが出来ない。
誰もが所持している初期スキル《スライドアッパー》を例にすると、まずスキル発動前に自分の剣で下から上に切り上げる動作を行うと、剣に光が集約してスキルが開始される。
開始された後は剣についていけば自動でスキルを完成させてくれる。
「4……」
しかしこれは繰り返し日々の鍛錬が必要で、使用すればするほど威力は向上していき、精度も高くなる。
「3……」
俺のようにいきなり使ったこともないスキルを実戦で使用するのははっきり言って無謀なバカだ。
しかし通常攻撃が通用しない相手なのだ……これしかもう方法がない。
「2……」
今から使用するスキルの名称は、《アクセルブロウ》。
型は十字に剣を振った後、剣を後ろに大きくテイクバックすることで発動する。
もちろんスキルの威力が高く、レアなスキルほど、事前の型は難しさや複雑さを増すが、それは仕方のないことだろう。
「1……」
残り1秒になり、俺は型を開始……そしてそれが終わったとき、俺の声が城にこだまする。
「GO!」
一斉に飛び出した俺と芽衣はもはや、青白いボディーに身を包む敵にしか眼中に無かった。
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