7 / 7
第6話 スキル
しおりを挟む
俺は勢いよく床を蹴り、前方に飛び出した。
それを視認したのか、《ゴーレム・キングMk-zero》も行動を開始する。
機械的な動きで顔をこちらに少し向けると、ゴーレムは大きな巨体に見合わないスピードで真正面から俺に迫ってきた。
高さ3メートル近くある鋼の塊と相見えると、改めてその強靭そうな外見と、迫る威圧感で恐怖を覚えそうになるが、ここで立ち止まるわけにはいかない。
ゴーレムのすぐ近くまで接近すると、ここで俺のシークレットスキル、《ギア・チェンジ》が発動した。
何回か使用しての考察は、このスローモーション状態は自分でコントロールすることは出来ず、敵とのある一定の間合いへ縮まった時に発動するらしい。
見るからに約2メートル手前ーーといったところか。
まず俺は体を沈み込ませ、ゴーレムの足元へ滑り込む。
そしてその距離50センチほどとなったところで、攻撃に転じる。
右手に握られた剣を、ゴーレムの左脚に命中させ、そこから思いっきり上に切り上げた。
太もも、腹部、胸部と順々に剣が走り、首元を最後に空中に剣が抜けていく。
俺のジャンプは予想以上に向上していた。
これもレベルの恩恵なのだろうがそれ以外の要因もあった。
この城に侵入する少し前、俺と芽衣はステータスポイントの振り分けを行ったからだ。
ステータスポイントとは、レベルアップの際に得られるステータスを向上させるポイントのことである。
最初からレベルが高かった俺達のポイントは既に300に迫っており、貯められたままに放置されていた。
俺はスピード重視の攻撃力寄りに、芽衣はスピード重視のテクニック寄りに、全てのポイントを割り振った。
それも影響してか、現実世界では実現不可能な跳躍を成功させることができた。
その後すぐに後ろに飛び、ゴーレムの様子を伺う。
「どうだ……?少しは……」
するとHPバーは見事なほど全快であり、恐ろしい硬さを誇るゴーレムの身には傷一つ残っていない。
「硬すぎるな……あれにダメージを与えるのは容易じゃないぞ……」
すると芽衣はこちらをちらっと見てから言った。
「次は私の攻撃を食らわせてみるわ」
顔が完全に戦闘モードに入っている芽衣だったが、俺はその輝かしい美貌に不覚にも少し見惚れてしまった。
違う違うと自分に言い聞かせ、もう一度芽衣を見ると、目を瞑りながら、精神統一を行っていた。
瞳を開けると、その量の目から熱い闘志と気合がビリビリ伝わってきた。
そして前方に飛び出した。
目にも留まらぬ速さでゴーレムの懐に到達した芽衣は、その勢いのままに高速剣技でゴーレムのあらゆる箇所を切り刻んでいく。
しかし、これをもってしても全く微動だにしないゴーレムは、上半身を回転させ、芽衣を吹き飛ばした。
空中に放り出された芽衣は、そのまま俺の目の前まで飛ばされてきた。
俺は自分の実を犠牲にして芽衣の下敷きとなる形で受け止める。
これにより少しHPが減少したが、まともに攻撃を受けた芽衣程ではない。
「大丈夫か!?すぐに回復を!」
すでに黄色のゾーン、半分以下までにHPを減らされていた芽衣に回復アイテムを使用させ、それのおかげで全損は避けられた。
「全然ダメよ……初期装備とまだ不慣れな戦闘……私達にはまだ早すぎたのかも……」
芽衣の顔からは既に、先程の気合が消滅していた。
だか……俺にはまだ秘密兵器がある……
「昨日は一睡もしないで、一晩中ずっとこの世界の情報収集をしてたんだ。そしたら見つけたんだ。スキルの使用方法を」
そう俺は昨日、既にスキルについてはある程度、知識を得ていた。
しかし急に実践でやるとなると、話は違うので今まで黙ってはいたが、そうも言っていられなくなってきた。
「俺がスキルをあいつにぶち込む。その隙に奴の首元を狙って芽衣のありったけの力で剣を振ってくれ」
更に、俺は見逃さなかったーー。
芽衣の超速の剣を受けているゴーレムが、首元に命中した瞬間、ほんの少し……半歩だけ後ろに後退したことをーー。
「首?首がなんだっていうの?」
「奴は首に弱点がある……俺が隙を作るからそこを狙うんだ」
しかし、俺の攻撃が中途半端であると、俺もろとも芽衣もゴーレムの攻撃をまともに受け、瀕死に追い込まれるのは必須だろう。
それを防ぐためには圧倒的火力の攻撃を浴びせることが必然となる。
それにはやはりスキルしかないーー。
この世界ではスキルは2種類あり、レベルアップによって使用可能になるものと、アイテムの巻物を使って使用可能になるものだ。
もちろん後者の巻物などというものはこの場に存在しないので、レベルアップのほうを使うしかあるまい。
この世界ではレベル10ごとに1つスキルが追加されるので、現在レベル50の俺は、5つのスキルを持っていることになる。
昨日宿で確認した、5つのスキルのことだ。
その中でも、やはり最大火力を出すためにレベル50で覚えた一番の攻撃力を誇るスキルを使うことに決めた。
「芽衣……俺が合図したら一緒に走り込むぞ……カウントは5からだ」
芽衣は頷くと、目に闘志が復活したようだった。
「いくぞ、5……」
スキルの発動に一番大事なことーー。
それは型をスキル使用前に構築することだ。
これが失敗すれば如何なるスキルも使用することが出来ない。
誰もが所持している初期スキル《スライドアッパー》を例にすると、まずスキル発動前に自分の剣で下から上に切り上げる動作を行うと、剣に光が集約してスキルが開始される。
開始された後は剣についていけば自動でスキルを完成させてくれる。
「4……」
しかしこれは繰り返し日々の鍛錬が必要で、使用すればするほど威力は向上していき、精度も高くなる。
「3……」
俺のようにいきなり使ったこともないスキルを実戦で使用するのははっきり言って無謀なバカだ。
しかし通常攻撃が通用しない相手なのだ……これしかもう方法がない。
「2……」
今から使用するスキルの名称は、《アクセルブロウ》。
型は十字に剣を振った後、剣を後ろに大きくテイクバックすることで発動する。
もちろんスキルの威力が高く、レアなスキルほど、事前の型は難しさや複雑さを増すが、それは仕方のないことだろう。
「1……」
残り1秒になり、俺は型を開始……そしてそれが終わったとき、俺の声が城にこだまする。
「GO!」
一斉に飛び出した俺と芽衣はもはや、青白いボディーに身を包む敵にしか眼中に無かった。
それを視認したのか、《ゴーレム・キングMk-zero》も行動を開始する。
機械的な動きで顔をこちらに少し向けると、ゴーレムは大きな巨体に見合わないスピードで真正面から俺に迫ってきた。
高さ3メートル近くある鋼の塊と相見えると、改めてその強靭そうな外見と、迫る威圧感で恐怖を覚えそうになるが、ここで立ち止まるわけにはいかない。
ゴーレムのすぐ近くまで接近すると、ここで俺のシークレットスキル、《ギア・チェンジ》が発動した。
何回か使用しての考察は、このスローモーション状態は自分でコントロールすることは出来ず、敵とのある一定の間合いへ縮まった時に発動するらしい。
見るからに約2メートル手前ーーといったところか。
まず俺は体を沈み込ませ、ゴーレムの足元へ滑り込む。
そしてその距離50センチほどとなったところで、攻撃に転じる。
右手に握られた剣を、ゴーレムの左脚に命中させ、そこから思いっきり上に切り上げた。
太もも、腹部、胸部と順々に剣が走り、首元を最後に空中に剣が抜けていく。
俺のジャンプは予想以上に向上していた。
これもレベルの恩恵なのだろうがそれ以外の要因もあった。
この城に侵入する少し前、俺と芽衣はステータスポイントの振り分けを行ったからだ。
ステータスポイントとは、レベルアップの際に得られるステータスを向上させるポイントのことである。
最初からレベルが高かった俺達のポイントは既に300に迫っており、貯められたままに放置されていた。
俺はスピード重視の攻撃力寄りに、芽衣はスピード重視のテクニック寄りに、全てのポイントを割り振った。
それも影響してか、現実世界では実現不可能な跳躍を成功させることができた。
その後すぐに後ろに飛び、ゴーレムの様子を伺う。
「どうだ……?少しは……」
するとHPバーは見事なほど全快であり、恐ろしい硬さを誇るゴーレムの身には傷一つ残っていない。
「硬すぎるな……あれにダメージを与えるのは容易じゃないぞ……」
すると芽衣はこちらをちらっと見てから言った。
「次は私の攻撃を食らわせてみるわ」
顔が完全に戦闘モードに入っている芽衣だったが、俺はその輝かしい美貌に不覚にも少し見惚れてしまった。
違う違うと自分に言い聞かせ、もう一度芽衣を見ると、目を瞑りながら、精神統一を行っていた。
瞳を開けると、その量の目から熱い闘志と気合がビリビリ伝わってきた。
そして前方に飛び出した。
目にも留まらぬ速さでゴーレムの懐に到達した芽衣は、その勢いのままに高速剣技でゴーレムのあらゆる箇所を切り刻んでいく。
しかし、これをもってしても全く微動だにしないゴーレムは、上半身を回転させ、芽衣を吹き飛ばした。
空中に放り出された芽衣は、そのまま俺の目の前まで飛ばされてきた。
俺は自分の実を犠牲にして芽衣の下敷きとなる形で受け止める。
これにより少しHPが減少したが、まともに攻撃を受けた芽衣程ではない。
「大丈夫か!?すぐに回復を!」
すでに黄色のゾーン、半分以下までにHPを減らされていた芽衣に回復アイテムを使用させ、それのおかげで全損は避けられた。
「全然ダメよ……初期装備とまだ不慣れな戦闘……私達にはまだ早すぎたのかも……」
芽衣の顔からは既に、先程の気合が消滅していた。
だか……俺にはまだ秘密兵器がある……
「昨日は一睡もしないで、一晩中ずっとこの世界の情報収集をしてたんだ。そしたら見つけたんだ。スキルの使用方法を」
そう俺は昨日、既にスキルについてはある程度、知識を得ていた。
しかし急に実践でやるとなると、話は違うので今まで黙ってはいたが、そうも言っていられなくなってきた。
「俺がスキルをあいつにぶち込む。その隙に奴の首元を狙って芽衣のありったけの力で剣を振ってくれ」
更に、俺は見逃さなかったーー。
芽衣の超速の剣を受けているゴーレムが、首元に命中した瞬間、ほんの少し……半歩だけ後ろに後退したことをーー。
「首?首がなんだっていうの?」
「奴は首に弱点がある……俺が隙を作るからそこを狙うんだ」
しかし、俺の攻撃が中途半端であると、俺もろとも芽衣もゴーレムの攻撃をまともに受け、瀕死に追い込まれるのは必須だろう。
それを防ぐためには圧倒的火力の攻撃を浴びせることが必然となる。
それにはやはりスキルしかないーー。
この世界ではスキルは2種類あり、レベルアップによって使用可能になるものと、アイテムの巻物を使って使用可能になるものだ。
もちろん後者の巻物などというものはこの場に存在しないので、レベルアップのほうを使うしかあるまい。
この世界ではレベル10ごとに1つスキルが追加されるので、現在レベル50の俺は、5つのスキルを持っていることになる。
昨日宿で確認した、5つのスキルのことだ。
その中でも、やはり最大火力を出すためにレベル50で覚えた一番の攻撃力を誇るスキルを使うことに決めた。
「芽衣……俺が合図したら一緒に走り込むぞ……カウントは5からだ」
芽衣は頷くと、目に闘志が復活したようだった。
「いくぞ、5……」
スキルの発動に一番大事なことーー。
それは型をスキル使用前に構築することだ。
これが失敗すれば如何なるスキルも使用することが出来ない。
誰もが所持している初期スキル《スライドアッパー》を例にすると、まずスキル発動前に自分の剣で下から上に切り上げる動作を行うと、剣に光が集約してスキルが開始される。
開始された後は剣についていけば自動でスキルを完成させてくれる。
「4……」
しかしこれは繰り返し日々の鍛錬が必要で、使用すればするほど威力は向上していき、精度も高くなる。
「3……」
俺のようにいきなり使ったこともないスキルを実戦で使用するのははっきり言って無謀なバカだ。
しかし通常攻撃が通用しない相手なのだ……これしかもう方法がない。
「2……」
今から使用するスキルの名称は、《アクセルブロウ》。
型は十字に剣を振った後、剣を後ろに大きくテイクバックすることで発動する。
もちろんスキルの威力が高く、レアなスキルほど、事前の型は難しさや複雑さを増すが、それは仕方のないことだろう。
「1……」
残り1秒になり、俺は型を開始……そしてそれが終わったとき、俺の声が城にこだまする。
「GO!」
一斉に飛び出した俺と芽衣はもはや、青白いボディーに身を包む敵にしか眼中に無かった。
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。


【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。


〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる