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第3話 友達
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モンスターとの戦闘後、少女と安全圏に向かう道中、メニューからアイテム欄を選ぶと、そこにはすでに3つのアイテムが収容されていた。
上から、《初心の書》、《回復ポーション小》、《知識の書》となっている。
とりあえず手始めに《初心の書》を開いてみることにした。
文字をタップすると、その情報と並びに開く、キャンセルボタンが表示される。
説明を読む限り、この本はゲーム開始時にプレイヤー全員に配布されるアイテムのようだ。
多分ゲームの基本的な事項などが記載されているのだろう。
中を開くと予想通りの記載があり、ゲームシステムの説明や、スキル、アイテムなどの基本的情報がずらりと並んでいた。
俺はその中から安全圏の三文字を探し出し、目を通した。
安全圏はどうやらその言葉通り、モンスターなどの敵が湧かない街や都市などを指し、全国各地に存在するという。
マップと掛け合わせ検索すると、最寄りの安全圏は《東京》……という都市らしいーー。
らしいというのは、俺の脳内に存在する東京とはすこし異なっていたからだ。
どうやらこの東京という都市は、東京駅を中心として半径2キロの円の中に存在し、東京都を示すものではないらしい。
ゲーム中の単なる村の名前の一つという認識の方がピンとくる。
そして東京都があった場所には他に二つ、他の街や都市が存在する。
《新宿》と《八王子》だ。
どちらの都市もやはり元々駅がある場所を中心に構築されているようだ。
駅が中心になっているのなら電車も走らせてくれというのが本音であったが、この世界では全く機能しなくなっている。
移動手段は歩き……だけかと思われたが、先程説明を読んだところ、街によっては瞬間移動装置が設置されており、一度入った街なら行き来出来るという記述がなされていたので、少しは楽になる。
一体それが設置されている街がいくつあるか定かではないのだが。
そうこうしているうちに時は過ぎ、目的地が近づいてきた頃、俺は彼女に大切なことを聞き忘れていた。
「そういえば、名前……名前は何て言うの?」
そう、名前だった。
道中、少々たわいもない話で盛り上がったのだが、一番重要なことを聞き忘れていたようだ。
「私は望月凛花と言います。15歳。高校1年だよ」
歳を聞いて初めて気がついた。
同い年だったのだ。
俺は5月に誕生日を迎え、すでに16歳になっていたが、とても同い年とは思えなかった。
ショートの黒髪に、顔にはあどけなさが残っており、年下と仮定していたが、それは外れたようだ。
しかし考えてみると、今ここに存在しているのは高校生のみで、これは当たり前のことなのだ。
俺も高校1年で更に年下はいない。
この世界では俺より2歳年上までの人間しか存在しないと改めて認識した。
「何度も言ったけど……助けてくれてありがとう。
あそこでもう死んじゃうんだって……そう思ってた。でもこうしてまだ生きていられる。えっと……」
「橋爪大河。大河でいいかな」
あまり女の子と話す機会も今までなかったので、少し照れ臭かった。
「大河君のおかげでこれからまた生きていける。街に着いたら学校のみんなと連絡とってみるよ」
しかし今ネット、携帯などは電波が遮断されてしまったため使用出来ない。
代わりというには心許ないが、フレンド機能とチャット機能といわれる機能がこのゲーム内にも搭載されているということを大体彼女に伝えると、すぐに理解してくれた。
しかしこのようにゲームの世界と親しみのない人々もこのような機能を活用していかなければならないと思うと、かなり面倒ごとであり、不安、不便といった面も浮上してくるだろう。
しかし適応しなければこの世界では生きてはいけない。
俺は他にも、アイテムや武器、ステータスの一部など出来るだけのことをしようと彼女に伝えていった。
凛花もかなり頭がキレるようでメニューの中のメモ機能を駆使しながら一生懸命かつ真剣に俺の話を聞いてくれた。
そして概ねの説明が終わった時、俺達は《東京》を目視できるところまでやってきた。
しかし、目の前に広がる光景は予測と違い、それを超えてくるものだった。
《東京》の半径2キロの外円は外部との完全な遮断と区切りという意味を込め、高さ50メートルのコンクリート製の壁で覆われていた。
四方八方に回り込んでも完全な円形を保ち、東西南北の方向にプレイヤーが行き来する門が存在するだけで、他に進入する方法は無い。
確かにこれならモンスターも中には入れず、プレイヤー達の憩いの場を確保できるというわけだ。
俺たちはとりあえず南の門を目指して歩いた。
先程からは1度も出会っていないが、モンスターもポップするために慎重に、しかし足早に進んでいった。
そしてようやく門の前にたどり着くと、門もかなりの大きさだ。
高さ約5メートルはあるだろう。
俺は右手を門に不自然に開いている半径約20センチの窪みに触れた。
《初心の書》を読んだところ、門は開けるものもあれば、触れて中に瞬間移動する門もあるらしい。
窪みが存在する場合は中に瞬間移動するタイプだと記載されていたので、俺は迷わず手をかざした。
凛花も俺の手の上に手を重ねる。
すると今見ていた目の前の門は一瞬で消え去り、新たな光景が広がった。
街だーー。
新たな光景は俺と凛花を驚愕させ、沈黙に包ませた。
とても東京の世界観とは思えない。
ビルも信号も横断歩道も歩道橋も存在しない、まるでネットゲームのある村、あるいは街に来た感覚だった。
中はプレイヤーで溢れており、まだ不安からか賑やかな雰囲気は無いものの、NPCが運営する出店や宿泊施設などがあちらこちらに並んでいた。
よく見ると現実世界では目にしない、道具屋、武器屋、ギルドの仮屋なども並んでいるではないか。
繰り返すがまるで本当にネットゲームに迷い込んだ感覚だ。
しばらく進むと、レストランらしき装飾の建物があったので、空腹のお腹を鳴らしながら、俺達は中に足を運んだ。
凛花と向かい合わせに座ると、早速NPCと思われる店員がやってきて、水を置いた。
かなり手慣れている……という感想を俺は心の中で口にした。
メニューはどれもお馴染みの品ばかりで、パスタからご飯、パン、など現実と変わりない食品を口にすることができそうだった。
心配していた悩みも一つ解決し、俺はメニュー表をじっと見て、選んでいった。
すると凛花が少し迷っているようだったので、男らしく大胆な発言を試みた。
「どうした?俺が奢るから遠慮なく食えよ」
一瞬目を丸くしたが、凛花は少し沈黙してから言った。
「いやー、悪いよ……奢ってもらうなんて……」
いいからいいからと彼女を何とか納得させ、注文し、食事が運ばれてくる。
料金はまさかの先払いで目の前に表示される料金表の支払いボタンをタップすれば、勝手に俺の所持金から引き落とされるというものだった。
所持金が初期設定の3000メルから半分に減ってしまったが、それでも彼女の食事をする幸せな顔が見れたので良しとしておく。
ーーその後、店から出ると、凛花のフレンド検索機能から探し出した親友が店までやってきて、感動の再会を果たした。
その光景を見ていた俺は何だかこっちまで微笑ましくなった。
彼女らの話に一息つくと、俺はもう用済みだなと悟り、その場を後にしようとした。
すると彼女はそれにいち早く気づき、俺を呼び止めた。
「すまん、もう行かなきゃ。少しだけど一緒に入れて楽しかったぜ」
捻り出した一言を彼女にかけると、彼女は軽く微笑み言った。
「次は私が助ける番!約束だよ!絶対だから!」
「ああ、約束だ」
俺はこの世界で初めて会った人が彼女で良かったと心からそう思った。
上から、《初心の書》、《回復ポーション小》、《知識の書》となっている。
とりあえず手始めに《初心の書》を開いてみることにした。
文字をタップすると、その情報と並びに開く、キャンセルボタンが表示される。
説明を読む限り、この本はゲーム開始時にプレイヤー全員に配布されるアイテムのようだ。
多分ゲームの基本的な事項などが記載されているのだろう。
中を開くと予想通りの記載があり、ゲームシステムの説明や、スキル、アイテムなどの基本的情報がずらりと並んでいた。
俺はその中から安全圏の三文字を探し出し、目を通した。
安全圏はどうやらその言葉通り、モンスターなどの敵が湧かない街や都市などを指し、全国各地に存在するという。
マップと掛け合わせ検索すると、最寄りの安全圏は《東京》……という都市らしいーー。
らしいというのは、俺の脳内に存在する東京とはすこし異なっていたからだ。
どうやらこの東京という都市は、東京駅を中心として半径2キロの円の中に存在し、東京都を示すものではないらしい。
ゲーム中の単なる村の名前の一つという認識の方がピンとくる。
そして東京都があった場所には他に二つ、他の街や都市が存在する。
《新宿》と《八王子》だ。
どちらの都市もやはり元々駅がある場所を中心に構築されているようだ。
駅が中心になっているのなら電車も走らせてくれというのが本音であったが、この世界では全く機能しなくなっている。
移動手段は歩き……だけかと思われたが、先程説明を読んだところ、街によっては瞬間移動装置が設置されており、一度入った街なら行き来出来るという記述がなされていたので、少しは楽になる。
一体それが設置されている街がいくつあるか定かではないのだが。
そうこうしているうちに時は過ぎ、目的地が近づいてきた頃、俺は彼女に大切なことを聞き忘れていた。
「そういえば、名前……名前は何て言うの?」
そう、名前だった。
道中、少々たわいもない話で盛り上がったのだが、一番重要なことを聞き忘れていたようだ。
「私は望月凛花と言います。15歳。高校1年だよ」
歳を聞いて初めて気がついた。
同い年だったのだ。
俺は5月に誕生日を迎え、すでに16歳になっていたが、とても同い年とは思えなかった。
ショートの黒髪に、顔にはあどけなさが残っており、年下と仮定していたが、それは外れたようだ。
しかし考えてみると、今ここに存在しているのは高校生のみで、これは当たり前のことなのだ。
俺も高校1年で更に年下はいない。
この世界では俺より2歳年上までの人間しか存在しないと改めて認識した。
「何度も言ったけど……助けてくれてありがとう。
あそこでもう死んじゃうんだって……そう思ってた。でもこうしてまだ生きていられる。えっと……」
「橋爪大河。大河でいいかな」
あまり女の子と話す機会も今までなかったので、少し照れ臭かった。
「大河君のおかげでこれからまた生きていける。街に着いたら学校のみんなと連絡とってみるよ」
しかし今ネット、携帯などは電波が遮断されてしまったため使用出来ない。
代わりというには心許ないが、フレンド機能とチャット機能といわれる機能がこのゲーム内にも搭載されているということを大体彼女に伝えると、すぐに理解してくれた。
しかしこのようにゲームの世界と親しみのない人々もこのような機能を活用していかなければならないと思うと、かなり面倒ごとであり、不安、不便といった面も浮上してくるだろう。
しかし適応しなければこの世界では生きてはいけない。
俺は他にも、アイテムや武器、ステータスの一部など出来るだけのことをしようと彼女に伝えていった。
凛花もかなり頭がキレるようでメニューの中のメモ機能を駆使しながら一生懸命かつ真剣に俺の話を聞いてくれた。
そして概ねの説明が終わった時、俺達は《東京》を目視できるところまでやってきた。
しかし、目の前に広がる光景は予測と違い、それを超えてくるものだった。
《東京》の半径2キロの外円は外部との完全な遮断と区切りという意味を込め、高さ50メートルのコンクリート製の壁で覆われていた。
四方八方に回り込んでも完全な円形を保ち、東西南北の方向にプレイヤーが行き来する門が存在するだけで、他に進入する方法は無い。
確かにこれならモンスターも中には入れず、プレイヤー達の憩いの場を確保できるというわけだ。
俺たちはとりあえず南の門を目指して歩いた。
先程からは1度も出会っていないが、モンスターもポップするために慎重に、しかし足早に進んでいった。
そしてようやく門の前にたどり着くと、門もかなりの大きさだ。
高さ約5メートルはあるだろう。
俺は右手を門に不自然に開いている半径約20センチの窪みに触れた。
《初心の書》を読んだところ、門は開けるものもあれば、触れて中に瞬間移動する門もあるらしい。
窪みが存在する場合は中に瞬間移動するタイプだと記載されていたので、俺は迷わず手をかざした。
凛花も俺の手の上に手を重ねる。
すると今見ていた目の前の門は一瞬で消え去り、新たな光景が広がった。
街だーー。
新たな光景は俺と凛花を驚愕させ、沈黙に包ませた。
とても東京の世界観とは思えない。
ビルも信号も横断歩道も歩道橋も存在しない、まるでネットゲームのある村、あるいは街に来た感覚だった。
中はプレイヤーで溢れており、まだ不安からか賑やかな雰囲気は無いものの、NPCが運営する出店や宿泊施設などがあちらこちらに並んでいた。
よく見ると現実世界では目にしない、道具屋、武器屋、ギルドの仮屋なども並んでいるではないか。
繰り返すがまるで本当にネットゲームに迷い込んだ感覚だ。
しばらく進むと、レストランらしき装飾の建物があったので、空腹のお腹を鳴らしながら、俺達は中に足を運んだ。
凛花と向かい合わせに座ると、早速NPCと思われる店員がやってきて、水を置いた。
かなり手慣れている……という感想を俺は心の中で口にした。
メニューはどれもお馴染みの品ばかりで、パスタからご飯、パン、など現実と変わりない食品を口にすることができそうだった。
心配していた悩みも一つ解決し、俺はメニュー表をじっと見て、選んでいった。
すると凛花が少し迷っているようだったので、男らしく大胆な発言を試みた。
「どうした?俺が奢るから遠慮なく食えよ」
一瞬目を丸くしたが、凛花は少し沈黙してから言った。
「いやー、悪いよ……奢ってもらうなんて……」
いいからいいからと彼女を何とか納得させ、注文し、食事が運ばれてくる。
料金はまさかの先払いで目の前に表示される料金表の支払いボタンをタップすれば、勝手に俺の所持金から引き落とされるというものだった。
所持金が初期設定の3000メルから半分に減ってしまったが、それでも彼女の食事をする幸せな顔が見れたので良しとしておく。
ーーその後、店から出ると、凛花のフレンド検索機能から探し出した親友が店までやってきて、感動の再会を果たした。
その光景を見ていた俺は何だかこっちまで微笑ましくなった。
彼女らの話に一息つくと、俺はもう用済みだなと悟り、その場を後にしようとした。
すると彼女はそれにいち早く気づき、俺を呼び止めた。
「すまん、もう行かなきゃ。少しだけど一緒に入れて楽しかったぜ」
捻り出した一言を彼女にかけると、彼女は軽く微笑み言った。
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