ソード・オブ・リアリティ

mihiro

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第2話 初陣

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まずメニュー画面を開こうとした俺は、ある事に気がついた。
そもそも、メニュー画面の出し方が分からないのだ。
単なるネットゲームであれば、何処かのボタンか、画面上に表示されているメニューボタンを押すだけで簡単にメニューは呼び出せる。
しかしこの世界ーー。
リアル世界にはボタンなど存在しないし……などと少々混乱気味に思考を巡らせていると、急に目の前に光のポリゴンが構築されていき、空中に文章が表示された。
ーーどうやらこれはヘルプ画面のようだった。
中には、メニューの表示の仕方や、レベルの説明、ステータスの内容など、ゲームの説明と思わしき多数の情報が掲載されていた。
突然表示されたのは、俺の意思ではなく、多分ゲームマスターの話が終わってから、数分後に全プレイヤーに自動的に表示されるようになっていたからだと思われる。
とりあえず俺は上から一つずつ目を通す事にした。
まず一つ目ーー。
画面最上部に書かれていたのは、メニューの表示の仕方だ。
メニューを表示するには、コールが必要らしい。
開くときは《open》、閉じるときは、《close》と言葉にして発することでメニューが開閉する仕組みらしい。
騙されたつもりでやってみるか……とやや気恥ずかしいので周りに人がいないか確認してから、俺はその短い英単語を口にした。
 
「オープン!!」

すると、二つの画面が上下一斉に目の前に出現した。
上画面は自分のレベルやステータスが、下画面は上からアイテム欄やフレンド欄などのメニューが並んでいる。
操作はスマホなどと同じ、スクロールすることで画面が動作するようだ。
そこで俺は下画面の確認を終え、上画面に再び目を移した時、とんでもないことに気がついた。

「初期Level50……!?」

これには大いに驚いてしまった。
ゲームマスターのSは確かに1からのスタートだと言った。
しかしこれは何だ……?
何かのバクか、それとも誰かに意図されてこの設定になったのか……
いくら考えても出ない答えだと判断し、俺は思考を止めた。
しかもここは戦場だ。
いつまでもこうしてここに居座るわけにはいかない。
とりあえず近くのセーフティエリアに移動しなければ安心は出来ない。
俺は素早く下画面をスクロールし、その中から装備をタップ。
すると下画面左側に、現在所持している武器や装備、
右側に自分自身の体全体が3D形式で表示されている。
そして左側の欄の一番上に表示される武器、《ノーマルソード》をスクロールし、右側の自分の手付近にある正三角形にはめ込む。
すると俺の背中に背負われる形で立体化した《ノーマルソード》が姿を現した。
続け様に、《ノーマルグローブ》、《ノーマルブーツ》、《ノーマルアーマー》をスクロールし、それぞれの部分に当てはめる。
すると俺の服装は一新され、本当にゲームの初期装備が如く、銀色の軽装備が俺の身を包んだ。
しかしこれはネットの世界ではない現実だ。
この防具に身を預け、この剣に魂を込め、敵を倒さなくてはならない。
その重さが俺の心に重くのしかかってくる。
次にスキルの欄を開こうとした、その時ーー。

「きゃああああああああっ!!」

何処からか甲高い女性の悲鳴が、俺の耳に届いた。
助けに行こうと考える前に、俺の足は自然と地面を蹴っていた。
30メートルほど先の曲がり角を左折すると、そこには地面にぐったりと座り込んだ女の子と、その先には未だかつて、現実世界では全く見慣れないシルエット。人間ではない、鋼色の肉体に身を包み、その右手には錆びれた片手剣。
俺は自分の頭のメモリーを起動し、あいつが何なのか思い出すまでに、数秒を要したが、ようやくピンときた。
主にゲームでは《オーク》と名付けられている、モンスターの一種だ。
未だに、目の前に人間ではない人……いや、モンスターが立っているのが信じられなかったが、今は一秒も無駄にはできない。
思考を切り替え、俺はオークに向かっていく。
俺が彼女の直前まで迫った時、オークは俺の存在を認識したようだ。
目と察知能力はそんなに高くない……と判断し、俺は彼女を抱えると、真後ろに飛んだ。
この異常なレベルのせいか体が嘘のように軽くなり、5メートル程跳躍した後、地面に着地した。
オークは完全に俺にタゲを移し、鋭い眼光で睨みつける。
彼女を地面に降ろし、俺は彼女に目をやった。
酷くおびえているようだったが、それを吹き飛ばすべく、顔だけ彼女に向け、上手くもない一言をかけた。

「ちょっとそこで寝ててくれ。すぐに終わらせるから」

彼女は目を丸くしたが、先程よりは顔色が戻ったようだった。
そして俺は振り返った。
背中から先程装備したばかりの剣を抜く。
もちろん現実では剣で何かを斬ったりなどはしたこともあるはずなかったが、マンガやアニメ、ゲームの数々をこなし、見てきた俺はとりあえず真似から入ろうと、剣を構え、剣士らしく……いや、剣士に精一杯近付こうとした。
するとオークは痺れを切らしたのか、すぐさま突進を開始した。
俺もそのままの勢いで立ち向かう。
敵は近付くとターゲット名とレベルが見えた。

《オークLv2》

レベル2はどの程度の強さなのかは未知数だったが、レベル差は48…落ち着いて剣を振れば大丈夫だ。
と、自分をなだめながら、ついに両者は間合いに入った。
するとここで、またしても驚愕の事態が発生したーー。

「時が止まった……?」

一瞬何もかもが停止したような感覚に見舞われた。
しかしよくよく目を凝らすと、ゆっくり、ゆっくりと時間が流れていた。
いわゆる、スローモーションーー。
不思議な感覚に襲われながら、俺は右手を目一杯後ろに引いて、テイクバックを取り、そのまま平行に剣を走らせる。
正確に……正確過ぎるくらいにオークの胸元目掛けて剣を振った。
すると剣がオークの胸に食い込みそうになるその直前、時が正常に戻った。
ーー目の前にいたオークは、気付いた時には俺の後ろで、黄色い光に包まれながら消滅していくところだった。
危なげなく敵を倒したが、一体さっきのはなんだったのだろうか。
だが、確認は安全圏に入ってからにしようと俺はすぐに先程の女の子の方に歩いて向かった。

「また敵が出てきたら厄介だ。早くここから移動しよう」

彼女がうなずくと、俺は精一杯の笑顔で応えた。
応えたつもりだったが、少し顔は引きつっていたかもしれない。
まだまだこの果てしない世界、戦闘は続いていくのだ。
未来が不安で仕方がなかった。
しかし、やるしかない、勝ち残っていくには負けてはならない。
一回もーー。
しかし一度敵と戦ったことで覚悟は出来た。
この世界で戦っていく覚悟をーー。

「立てるか?」

彼女に声をかけ、俺たちは最寄りの安全圏を目指し、歩き始めた。
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