上 下
50 / 50
第二章 社長生活の開始

本番、そして・・・

しおりを挟む
そしてとうとう本番の日がやって来た。

嬉しかったのは、受付周りや場内整理に、ねむを始めスケジュールや仕事の都合で朗読公演に出演出来なかった【ベガ】の所属声優たちが駆け付けてくれたことだ。
チケットなど、お金を扱う重要なポジションには、デスクの矢島さんがわざわざ入ってくれた。
裏方は少なくとも盤石な状態で本番を迎える事が出来た。

開場を前に、劇場の前には列が出来始めていた。
お客様も、この公演を楽しみにしてくれていたようだ。

副社長の所と、チーフマネージャーの露木も、公演を観に来てくれた。
関係者席へ案内しようとすると、「こういうのは、お金を払って観なければ意味がありませんから」とチケットを購入してくれた。
【お手並み拝見しますよ】
そう言われているような気がして、緊張した。

オレは落ち着かず、客席と受付の間をうろうろし続けていたが、「社長、邪魔です」と秘書の瀬戸涼子に言われ、一足先に自分の席についた。
右隣には左右田さんがいる。

「もう、こうなったらまな板の上の鯉だよ。何も出来る事は無い。役者を信じて、二代目も朗読を楽しむんだな」

左右田さんにそう言われた。
オレはリラックスして、公演を観る体勢に入った。

そして、開演。
役者たちは本当に頑張ってくれた。
観客は、笑い、泣き、時に恐怖した。
オレは稽古で何度も朗読を聞いて、内容を把握しているのに、涙が止まらなかった。
贔屓目に言っても、面白い公演だったと言って良いだろう。
カーテンコールで大拍手が起こった時、本当に心からほっとした。

所は公演をベタ褒めして帰り、露木は何を考えているのかむっとした表情を浮かべて何も言わなかった。


そんなこんなで、土、日の公演はつつがなく幕を閉じた。

月曜日、ゆっくり出社すると、デスクの矢島さんがこう言って来た。

「大変です、社長」

嫌な予感がよぎった。
何かトラブルがあったのだろうか?

「電話が鳴りやまないんです。朗読劇に出演していた声優たちに対する出演オファーや、問い合わせがひっきりなしに来ています」

それを聞いて、瀬戸涼子が言った。

「社長、大成功ですね」

そこでオレは、初めて朗読公演が成功したことを感じた。

オファーの中には、左右田さんに対する演出オファーや、演技指導のオファーもあった。
左右田さんには是非、第二回公演も演出していただき、また出来れば重要な役で出演してほしいとも思っていた。

この流れを受けて、【ベガ】の敏腕マネージャーたちは、商機を逃すな、とばかりそれぞれ動き出した。
出演していたメンバーは勿論、出演していなかったメンバーも抱き合わせでいろいろな現場に売り込まれた。

「お父様が入院されてから、こんなに活気がある事務所は初めてですよ」

瀬戸涼子が嬉しそうに言ってくれた。

そういう訳で、オレはやっと、声優プロダクション社長としての第一歩を踏み出す事が出来たのかもしれない。

意外な事に、オレの頭の中には、これからの戦略が、沢山渦巻いていた。

第二回朗読公演はもちろん、他にもいろいろなイベントや企画を、思い付いていた。

第二部 完
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

2023.05.17 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

解除

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。 日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。 ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。 人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。 そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。 太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。 青春インターネットラブコメ! ここに開幕! ※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。