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第一章 オレが社長に・・・?

父親

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「わかりました」
「社長になってくれますか?」
「いえ、お断りします。ただ、断るなら断るで、オレはちゃんと筋を通したい。親父に会わせて下さい。その上で、はっきりきっぱりお断りしてやりますよ。親父は、何処にいるんですか?」
瀬戸涼子の目に、はっきりと暗い影が宿ったのを感じた。
何だ、今のは?
瀬戸涼子は、絞り出すように言った。

「お父様は・・・社長は、病院に入院しています」
「入院?・・・何の病気で?」
「・・・末期の胃がんです。転移も見つかり、治療の方法はなく、今は緩和ケアを受けている状態です」

緩和ケア。
がんの痛みや苦しみ、死の恐怖を、薬剤やカウンセリングによってやわらげる。
手の施しようがなくなった患者に対する、最後の手段だ。

つまり、親父はもう助からない。
そう思うと、複雑な気分になった。

「・・・それで、オレに会社を譲りたいと」
「はい」

突然、瀬戸涼子が土下座をした。

「どうか、社長の・・・お父様の願いを、聞いてあげて下さい・・・最後のお願いなんですよ」
「やめて下さい、頭を上げて下さい」

瀬戸涼子が元の姿勢に戻ってから、オレは話を続けた。

「オレの気持ちにもなって下さい・・・親父は、オレと、母を捨てた男なんですよ。それが今更・・・勝手な事を言われて、はいそうですかと言いなりになる気はしない」
「・・・それはわかりますが」
「とにかく親父に会わせて下さい。直接話をさせて下さい。この件は、その上で判断します」
「じゃあ、可能性が無い訳ではないんですね?」
「・・・過度な期待はしないで下さい。会って、話して・・・会社を継ぐ価値があると判断したら、良い返事をするかもしれません。でも、今のところは何とも言えない」

オレは、瀬戸涼子と電話番号を交換した。
そして後日、瀬戸涼子と一緒に、病院にいる親父に会いに行く事になったのだった。
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