楽しくフリーターしてたら、突然声優プロダクションの社長になる事になったんだが

第一章 オレが社長に・・・？

正体

「とりあえず、お茶を・・・」
「いえ、結構です」
気まずい間があった。
「麦茶、お好きなんですか？」
「何でですか？」
「いや、毎日コンビニで買っていたから・・・」
「ああ・・・」

彼女は、ちょっと言葉を選んだ風で答えた。

「買う物は何でも良かったんです。あなたの様子を、伺う事が目的だったので」

オレは動揺した。
オレの様子を伺う？
何の為に？
これまでの生活、良い行いも特別していないが、警察や探偵の世話になるような真似もしていないつもりだ。

「何で、オレを・・・？」

すると彼女は、話を始めた。
重大な話を。

「私の名前は、瀬戸涼子と言います。あなたのお父様の、秘書をしております」
「お父様って・・・僕の父は」
「はい、あなたが子供の頃家を出て、それから一度も会っていないとお聞きしております」
「はあ」

理解が追い付かなかった。
親父の秘書？
どういう事なのだ？

「あなたのお父様は、今、芸能プロダクションを経営しております」
「芸能プロダクション」
「正確には、声優プロダクションです。声優に興味は？」
「はあ・・・すみません、あんまり」

声優がブームなのは知っていた。
いろんな声優さんたちがドラマやバラエティに出ていたり、可愛いアイドル声優が人気になっているのも知っていた。
だが、オレの知識なんてそんなものだ。
頭の中には、その程度の情報しかない。

「社長・・・お父様は、あなたに会社を譲りたいと仰っています」
「はあ？」

オレは耳を疑った。
今までオレの人生の中に全く登場して来なかった「親父」。
それが、声優プロダクションを経営していて。
しかもそれを、このオレに譲りたがっている？

新手の詐欺か、もしくは宗教の勧誘か何かか。
率直にその時はそう思った。