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本音

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抱月は血が流れる右手を押さえながら叫んだ。

「何をバカな事を!?」
「死なせて下さい。須磨子は、先生の物です。先生に棄てられては、生きている価値はございません。ならばどうか、いっそ死ねと、須磨子に仰って下さい」
「自分の命よりも、私の事が大切だと、そう言うのか?」
「はい。先生が死ねと仰れば、須磨子は死にます。先生が芝居を辞めろと仰るなら、須磨子は芝居を捨てます」
「命よりも大切な、演劇すら、捨てられると言うのか?」
「はい。須磨子の一番大切は、先生でございます!先生がどう思おうと、先生にどう思われようと、須磨子は先生を愛しております」

抱月は、噛み締めるように呟いた。

「・・・真っ暗な時間が過ぎて、・・・気が付くと私はこの時代にいた。そして、あの頃と同じように、この時代は苦しみに喘いでいる。こんな時こそ、良質のエンターテインメントが必要なのだ。苦しみ、疲れ、笑う事を忘れた人々に、ほんの少し元気を与える事。それこそが芸術の、真の役割なのだ。・・・なのに何故、私にはその力が無い!どうして私には、真に人の心を揺らす物が創れない!私は自分の平凡を呪う」

崩れ落ちようとする抱月を、須磨子が支えた。

「先生。私がおります。また一緒にお芝居を創りましょう。須磨子の力があれば、先生の芸術は完成します。須磨子が、先生を完成させます」
「須磨子。・・・また私に、力を貸してくれるか」
「もちろんでございます。「復活」して下さい。トルストヰのように」
「主よ、我を助けたまえ。来りてわが胸に宿り、我を清めたまえ」
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