いと高きところに

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弐拾参 Amen(アーメン)

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1.


 冬の日が落ちる時間は早い。山辺邸に招待客を乗せたトヨタ・センチュリーが戻って来る頃には既に日は没していた。その残照だけが未練たらしく、西の空に残っている。

 車の後部座席には若い男が1人乗っている。革の黒いジャケットに薄手のインナーとくたびれたジーンズ。彼は白手袋のドライバーが運転するショーファードリブンの快適な後部座席には全くそぐわない格好をしていた。しかし、ごろつきの様な身なりの割には違和感を感じさせない奇妙な若者だと運転手は内心考えていた。

 敦は興味深そうに窓の外の風景を眺めていた。この邸宅の前までは、何度か来た事があるが、高い塀と重厚な作りの門戸の為に中が全く見えなかったのだ。
 車の中からリモートコントロールで開かれた門の内部は木が生い茂っているがよく手入れされている庭が広がり、赤レンガの道が伸びていた。門戸から少し離れた屋敷自体は車寄せもある洋風の邸宅だった。庭は自然の景観美を取り入れたイギリス風景式庭園がベースとなっているのかもしれない。
「犬が居ない」
 憮然とした声が運転手の耳に飛び込んできた。周囲を見回していたが、どうやら庭ではなく犬を探していた様だ。
「榊さん、犬、見えないけど」
 運転手の榊に向かって口を尖らせている。その隠さない好奇心に好感を抱いたが、変わらぬ温厚な口調で運転手は返事をした。
「この時間はまだ犬達は犬小屋です。家の横手に犬専用の柵がございます。その中に居ますので、ご覧になりたければそちらの方へどうぞ」
「庭に放されてるって聞いたからさ。サファリパークみたいに車の周りを併走してくれるかと思ってた」
 榊は少し悩んだ。サファリパークでは動物が車に併走するのだろうか?
「サファリパークの方へは行かれた事がおありなのですか?」
「いや、無い。俺の勝手な想像」
「犬を庭に放すのはもう少し遅い時間ですよ」
「そか、わかった。ありがと」


 屋敷の車寄せには真由が立っていた。車が滑る様に近づき停車すると、彼女は運転手席側に近寄り、榊に声を掛けた。
「榊さん、わざわざありがとうございました」
「いえ、お嬢様」
 彼女は屈めていた腰を伸ばし、後部座席から降りてきた敦に目を当ててお辞儀をした。
「いらっしゃいませ、敦さん。こちらへどうぞ」
 他人行儀な振る舞いで屋敷内に入る為、ドアを開けて彼を待っている。敦は榊に小さく目配せして肩を竦めながら真由の後に付き従って玄関から入った。

「何? この家土足なの?」
「はい。同じ靴を履き続けるのがお嫌な場合はスリッパに履き替えて頂いても結構です」
 玄関横のシュークロークのドアを開けて、真由は「どうされます?」とスリッパを指し示した。
「夏でもないし、上品な靴を履いてるわけでもないし、このままでいいよ」
 今日はバイクに乗っていないので、彼はバイカーが履くハーフブーツではなく、普通のスニーカーを履いていた。
「それではこちらへ」
「ね、マユ」
 先に進もうとした彼女の手を掴んで引きとめた敦は振り向いた娘を抱き寄せた。
「敦さん?」
「昨日はごめんね。忘れないうちに伝えとく」
「その話は後で……」
 頬を少し染めた娘は困った様に小声で囁いた。
「マユの部屋はいつ覗けるの?」
「後からお連れします。まずは両親に紹介させて下さい」
「どうせ、後から幾らでも会うんでしょ? 部屋の方が先でもいいよ。そうそう、まだ犬見てないんだ。ワンワンとも会いたいなー」
「敦さん……」
 呆れるように呟いた娘の口に軽くキスすると、彼女は真っ赤になった。
「ちょ……やめてください。こんな場所で」
 その2人の耳にパタパタと足音が聞こえた。


「こんばんは、はじめまして」
 奥から出てきた壮年の婦人に話しかけられ、会話は途切れた。真由は恥ずかしい場面を見られたかと狼狽え、敦は彼女に視線を移し、「はじめまして」と返す。
「有田と申します。通いでこちらのお屋敷に務めさせて頂いております」
「有田さんはこの家については私より長くご存知ですのよ。有田さん、こちらは広田敦さんと申します」
「広田さん? そうですか。これから、宜しくお願い申し上げます」
 敦の名前を聞くなり「おや?」という表情を浮かべた有田はすぐに和やかな表情に切り替えた。
「早速ですが、奥様と旦那様がリビングでお待ちです。お茶の用意を致しますので、まずはそちらの方へお願いします」
 敦は有田を眺め、そして真由を眺めて肩を竦めた。
「郷に入っては郷に従えだよね。わかりました。わかりましたよー」
「こちらです」
 先導した有田が一つの扉の前に立ち、ノックをすると中に声を掛けて敦達に入るように促した。

2.


「はじめましてですわね」
 その婦人は今まで座っていたベージュのソファーから立ち上がると歩み寄ってきた。やはり立ち上がった元治を後ろに従えている。敦はしばし返事をしないで、彼女を眺めていた。
「山辺薫と申します。真由の母です」
 まっすぐに伸ばした右手が敦の前に突き出された。一瞬の躊躇も無い。敦は反射的にその手を握って握手したが、そのたおやかで柔らかい手の感触に一瞬(握手で良かったのか?)と考えてしまった。物語の中に登場する西洋の貴婦人に対する様に口付けをしなければいけなかったかとヒヤリとしたのだ。
 全く持って戯言の様だが、山辺薫という夫人は敦でさえも頭に「貴」を付けたくなる様なろうたけた女性だった。洗練されていて、上品だ。しかも見る限り、真由の母と言うよりも、姉と言われた方がしっくりくるような若々しい容貌だった。敦にしては珍しく、初対面の相手に呑まれてしまった。

「広田敦です。失礼を承知で訊くけど、本物のマユのママ?」
「確かに失礼ですわね。本物ですよ。似ていませんか?」
「いや、あまりにも若く見えたので……」
「あら。ほほ」
 似ているなんてものではない。真由は父親似だと敦は思っていたが、この母親との共通点もかなりある。醸し出す雰囲気も酷似していた。しかし、第一印象では母親の方が娘に比べてより玲瓏である。お姫様度が高いのだ。
(すげ。マユも年取ったらこんなに凄くなるのかね?)
 そう考えながらも、後ろにいる父親に目を向けた。目が合うと嬉しくて、思わず手を上げる。
「元治君、ちいっす」
「敦さんっ!」
 母親には変則的だが普通に挨拶したので、ハラハラしながらも安堵していた真由は父親に対する敦の挨拶を聞いた途端に思わず叫んでいた。
「何、マユ?」
「どうされたの? 真由さん。騒々しい」
「大変、失礼いたしました」
 そこで何故自分に矛先が来るのかよくわからない真由はムッとしながら謝った。

「失礼します」
 挨拶の最中に先程話した有田がお茶の用意を整えたワゴンを押しながら部屋に入ってきた。
「本日は緑茶です。大丈夫ですか?」
「出されるものに文句は無いよ。ただ、俺は育ちが卑しいのでちゃんとした作法を知りませんがね」
「作法など二の次です。ご自身と周りの者が楽しめれば充分ですわ」
「そりゃよかった」
「広田様は喫煙はされないのですか?」
「煙草は吸わない。昔から身体を動かすのが好きで、その妨げになりそうなものには興味が出なかっただけ。まあ、嫌煙家というわけではないので、周りで吸われても気にしないんだけどね」
「そうですか。我が家で喫煙するのは」
「元治君だけ?」
「あら? よく気付きましたわね。目の前で喫煙しましたか?」
「いんや。でも、この前、顔を近づけた時にちょっとだけニコチン臭が匂ったんで」
 元治は居心地が悪そうに緑茶をすすっている。何で、そんな細かい事にこの若者は気付くのだろう?
「仲間が現れなくて残念ですわね」
 婦人は夫に視線を流しながら、微笑んだ。それを見た敦は内心「こえー」と叫ぶ。この夫婦のパワーバランスは大体把握できた気分だ。

「今夜は和食となります。お嫌いなものなどございますか?」
「いや、あまり無い。甘辛、どちらも好きだし」
「おや、心強いですわね。お気に入りの甘味処から取り寄せた和菓子もございますよ」
「そりゃ楽しみだ」
 終始和やかにお茶の時間は流れていった。

「お母様、では一旦私達は部屋に下がりますわね」
「そうですわね。夕食は19時から予定しております。広田様をお部屋にご案内差しあげて頂戴」
「はい?」
「部屋?」
 敦は片眉を上げて真由と目を合わせた。
「客室です。今夜は勿論我が家にお泊りいただけますよね?」
「聞いてない」
 敦は少し不機嫌そうに薫を振り返った。
「聞いてなかったから着替えも何も持ってきてない。俺は泊まらないよ」
「あら、困りましたわね。榊さんは帰しましたよ」
「お母様、私も泊りとは伺っておりません」
「広田さんとはお酒を交えてゆっくりとお話をしたいと思いましたの。どうしても駄目ですか?」
 部屋から出て行こうとしていた敦は大股に薫の前まで戻った。真由は彼が母親の胸倉でも掴もうものならどうしようと蒼褪めたが、幸い、敦はそこまで乱暴な行動はとらなかった。しかし……。
「俺はね」
 彼は身を屈めて、自分の顔を薫の顔の近くまで持っていった。目が物騒に光っている。
「俺は事前通達無しで他人に仕切られるのは好きじゃないんだ」
 黙りこんだ薫を間近に眺めながら敦は奥歯を噛み締めた。静かに話しているが、全身から怒りの気配が漂っている。彼は舐められるのを嫌う。相手が真由の母親でないなら、引き摺って壁に磔にして彼の不快を知らしめたいところだ。元治に対する様な和やかな気分にはなれない。この母親とはもしかしたら折り合いが悪いかもしれない。
「腹の探り合いとか面倒なんで、気に入らないところがあったらどんどん言ってね。俺も言うから」
 真由が傍らでハラハラしながら見守っている。機嫌を損ねて唸り始めた猛犬を引き離したいのだろう。
「お母様、では後から。敦さん、付いてきてください」
 真由の必死のアプローチに気付いたのか、敦はあっさりと同意した。
「それじゃ、また」

 猛々しい雰囲気を残して男はリビングを出て行った。


「薫。おいで」
 足の震えを見せない為に直立で立っていた妻を柔らかく抱きかかえて元治がソファーに座らせた。
「言ったじゃないか。普通の若者と考えて接すると痛い目を見ると」
 有田にお茶のお代わりを頼んだ元治は妻の隣に腰掛ける。
「聞くと見るとでは違いますわね」
 元治は考えるように廊下に出るドアを見つめる。
「あれは飼い慣らせない。この前、会った時にそう感じた。だから危険なんだよ」
 彼の妻は自分の夫の顔を覗き込んだ。震えはもう止まっている様子だ。
「でも、好きなんでしょう? 元治君と呼ばれた時のご自身の顔を鏡で見せて差し上げたかったわ」
「え? 私は変な顔をしてたのかい?」
 元治は慌てて自分の顔に触った。それを涼しい顔で眺めながら妻が笑う。
「ええ、貴方ったら、まるでお気に入りのお友達に話しかけられた時の男の子みたいな……それはそれは得意そうな顔されてましたよ。ほほほ」
「何だ、そりゃ?」
 元治は情けない気分で肩を落とした。
「まあ、泊まってくれないかもしれませんが一緒に夕食も食べる事だし。もう少し見てみますわ」

 思い直した様に力強く喋る妻を見ながら、その立ち直りの早さに感心する元治だった。

3.


「マユ、おい」
 彼女を追いかけながら階段を上る。
「こちらですわ」
 言いたい事もある。聞きたい事もある。彼から謝られたが、昨日の問題もある。母を前に獰猛な顔を見せた男は廊下に出るともう怒ってはいなかった。
 それは助かる。とても助かる。でも、肩透かしを喰らった様なこの気分は何なんだろう?

 自分の部屋の前に立って、敦を眺める。
「こちらが私の部屋です」
「おおー」
 目を輝かせる彼が可愛くて仕方が無い。内開きのドアを開けて彼を迎え入れる。
「でか!」
 何でこの人は一々行動が可愛いのだろう。部屋に入った途端に窓に駆け寄り、部屋の中のドアを指差して「開けていいか?」と聞き、中に入って「スゲー」と叫び、再度部屋に戻ってきて綺麗にベッドメイクされた真由のベッドの上にダイビングして転げ周り、ベッドを乱れさせ、本棚に近寄って並んでいる固いタイトルの本に驚く。その一連の動きを入室後5分で済ませると、彼は真由の目の前に戻ってきた。

「閉めて」
 まだドアが開いたままだったのだが、そう言うと彼は自分で廊下へのドアを閉め、真由をそのドアに押し付けた。
「え? 敦さん?」
「黙って」
 そのまま、口付けられた。何度も角度を変えながら、より深く舌を絡めてくる。真由の脚の間に彼の脚が入れられた。慌てた様に閉じようとした彼女の脚を逆にこじ開けるように差し込んでくる。焦らすように、股間に圧迫を掛けるその卑猥な動きに真由の官能が呼び覚まされ、脈拍が早まった。
「だめ……だめです……」
 キスの合間に呟くと「なぜ?」と低く返された。
「こんなに感じてるのに、なぜ駄目?」
「それはお話がしたいからです」
 動きが止まった敦にホッとした。
「向こうの椅子に腰掛けてお話しましょう」
 窓際に置かれた1人掛けソファー2つとテーブルを組み合わせた小さな応接セットに向かおうとすると、敦に引っ張られてベッドに先導された。
「こっちの方がいい」
 抱きつかれたままベッドに横倒しになった真由に敦が笑いかける。
「何を話す?」
 どこに行ってもマイペースを崩さない男に呆れながらも諦めて真由は口を開く。
「あまり私の両親を刺激しないで下さい」
「刺激なんてしてないよ」
「先程はお母様を脅しつけていらっしゃいました」
「マユのママはあの程度ではビビらないっしょ? 真澄ちゃんと違って強そうだし」
 そこまで喋った敦は、ふと思い出した様に笑った。
「どうされましたか?」
「いや、マユはパパ似だと思ってたけど、ママにも似てるね」
 クスクス笑っている敦を恨めしそうに見上げながら真由は頬を膨らませた。
「私がお母様に似ているところなんて、せいぜい、頑固で気が強いところぐらいです。笑われながら、その様におっしゃられても、嬉しくありません」
「頑固で気が強いってとこもそうだけど、容姿や雰囲気も結構共通点あるね。でもまあ、マユのママってどっかのお姫様みたいだね」
「あ! そう思われましたか?」
 真由は我が意を得たりとばかりに、敦の腕を引っ張りながら位置を入れ替えて彼を見下ろした。
「お母様は本当の意味でお姫様ですよ。傍系ですが加賀八家の血筋でお姫様の様に育てられたそうです」
 当たらずとも遠からず。だから、あの様に浮世離れしてるのねと敦は内心笑った。
「マユも俺から見たら充分にお姫様だけど?」
「そんな事はございません。私はお母様と違って普通に育てられましたから」
 得意そうに胸を張る娘を見ながら、敦は真由が冗談を言っているのかどうか、自信が無くなった。

「それより、真澄さんを苛めた事に気付いて謝罪して下さったのですね?」
「まー。認めよう。あの子は苛めやすい。無意識のうちに、楽しんでいたのかもしれない」
「可哀そうに……。泣いていたのですよ?」
「おお」
 嬉しそうに目を輝かせた敦を眺めて真由は別の意味で不安になった。
「まさかとは思いますが、真澄さんに浮気しないでくださいね」
「おや?」
 敦が嬉しそうに真由の後頭部に手を掛けて、自分の方に落とす。無理矢理に頭を下げさせられた真由の瞼に唇を這わせ、キスをする。
「嫉妬?」
「だって、話を伺いますと、敦さんは真澄さんを苛めて楽しまれています……」
「苛めてほしい?」
「え?」
「お望みなら幾らでも苛めてあげるよ」
 敦の舌が真由の顔を這い回っている。彼女の後頭部を掴んだ手はそのままに、別の手が真由の首筋を触る。指先を軽く這わせると、くすぐったいと笑い、真由は横を向き、その指先を噛んだ。
「……!?」
 次の瞬間、再度位置を入れ替えられた真由は両手をベッドに縫い付けられた状態で、首筋に顔を埋められていた。

「敦さん?」
「くそっ。やっぱ、泊まろうかな……時間が少ない」
 首筋に痛みが走る。真由は「ダメ……」と恨めしそうに呟いた。顔を上げた敦を至近距離で見つめた真由は身体の奥が潤うのを感じた。彼は獣の目付きで真由を眺めている。

 もし泊まるのなら、何の為なのかは明白だろう?

4.


 コツコツと部屋のドアをノックされた。
「はい?」
 ドアに向かって真由が声を上げると、有田の声が聞こえた。
「お嬢様? そろそろ夕食の用意が出来ましたよ」
「はい。承知しました。すぐに敦さんを伴って降ります」
「私はそろそろお暇いたしますね」
「はい」
 真由はベッドから降り、ドアを開けて廊下に出た。
「延長してくださったのですね。本日も色々とありがとうございました」
「いえいえ。結局、広田さんはお泊りになられないのですか? 一応、ゲストルームを準備しておりますが」
「まだ決めかねているようです。どちらのゲストルーム?」
 この邸宅には客室は2つある。
「この部屋に近い方です」
「わかったわ。もし、お泊りになる場合は私の方で案内しておきますね」
「お願いします」
 有田は真由を見て、少し苦笑した。
御髪おぐしが乱れております。下に降りる前にお直しになった方が宜しいかと存じますよ」
 真由は居心地が悪そうに首をすくめた。

5.


「父よ、あなたのいつくしみに感謝して……」
「あっ!」
 母親が自分の両手を合わせて、食前の祈りを捧げ始めた途端に真由は叫んだ。自分の隣には奇妙な表情を浮かべた敦が座っている。
「真由さん? どうされたの?」
 祈りを中断された母親がムッとした表情で真由を睨んだ。
「お母様、少しお待ちになって」
 口早に喋ると、真由は敦に向き直った。
「ごめんなさい、敦さん。母と私はクリスチャンなんです。違和感はあると思いますが、お付き合いいただけますか?」
「ん? 元治君は違うの? いいよ、俺は何したらいいの?」
「こうやって」
 真由は両手を組み合わせて頭を少し垂れて、敦が真似をするのを眺めて微笑んだ。
「お母様が祈りの言葉を捧げますので、一番最後の [アーメン] だけ復唱いただければ大丈夫です」
「ん。わかった。とにかくマユの真似したらいいのね?」
「はい、お願いします」

(郷に入っては郷に従えだよね)

 その夜、同じ事を既に一度呟いたのを敦は思い出した。真由を見ると、両手を合わせて目を閉じている。クリスチャンでもない元治も同じ様子だ。薫が同様に目を閉じているが、こちらは低い声で祈りの言葉を口にしている。首を傾げたが、敦も倣った。


 父よ、あなたのいつくしみに感謝してこの食事をいただきます。
 ここに用意されたものを祝福し、
 わたしたちの心と体を支えるかてとしてください。
 わたしたちの主イエス・キリストによって。 アーメン。


 敦は「アーメン」と真由同様に復唱しながらも、心の中で(アーメン、ラーメン、ヒヤソーメン)と妙な節を付けて歌っていた。


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