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8.交流会 後日
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次の日はツバサも合流して俺の部屋で話を始めた。ツバサはこの連休で結納をしたそうだ。
次にヒートが来たら幼馴染の彼と番う約束をしたってことだ。ツバサは軽やかに大人の階段を上っていく。
ヒナタが吉岡さんと仲良くなったという話をしたら、ツバサはやっぱりなぁと言った。ヒナタ本人以外は吉岡さんの執着を正しく理解してたってことだ。
「えーすごく楽しそうな交流会だったんだね。そっちに参加したかったなぁ」
ツバサが残念そうな声を出していた。結納の方が大事だと思うぞ。
「ヒナタ、それで張ヶ谷至ってのはうちの透を預けても大丈夫そうな男なのか?」
ツバサがちょっとお兄さんぶって眼鏡なんてかけてないのにブリッジを上げる仕草をした。
「2日目にさ。ヒートっぽくなった子がいてさ。それを透君が抱き上げて保健室まで運んだんだけど。あてられたアルファの人たちが追いかけようとしたのをフェロモンでさっと落ち着かせてさ。ケーキ屋さんにキャストカード預けて帰って行ったよ、透君以外は見ていないって感じで。いろいろかっこいい人だった」
ヒナタはキラキラとした目で説明していた。そして、はっとした顔をした後。
「そう言えば3日目の最後に二人で写真撮ってたよね」
ツバサがにっこり笑って、見せてって言うので俺は観念してスマホの写真を見せた。
自分でも驚くほど緩んだ顔をしているので見せたくなかった。
「ほんとだ、初めて見る顔だね。いや…うん。透の初恋かー」
ヒナタは本人に会っただろうに、ツバサと顔を寄せてスマホを覗き込んでいた。
「透君ってかわいいね、なんかすごく…」
俺はそれを聞いてスマホを取り上げた。恥ずかしくて顔が赤くなる。
「からかうなら怒るからな!」
「ごめんね、そうじゃなくて。透君はずっとベータだったじゃない?オメガクラスに転校してきても、ヒートになってもオメガらしくないと言うか。抗ってたと言うか。でも、写真で見るとオメガ性を受け入れているように見えるんだ」
俺は何も言えなかった。何もかもお見通しだ。
「俺は彼が初恋だって言っただろ。オメガになる前に好きだって思ったんだ。オメガになってからも好きだって思う。ベータの男だったら男を好きって思うのかなって思ったら、やっぱりもともと俺はオメガの質はあったんだなって」
俺は確かに抗ってる、でも同じくらいに受け入れている。
「至君に好意を示されると嬉しくてさ。俺は彼がアルファだって聞いて、出会えた俺がオメガで良かったって思ってる。あとツバサとヒナタと一緒にいる時もオメガで良かったって思ってる。そうやって一つずつ積み重ねて受け入れてくんだと思う…だけど」
俺はうつむいて二人の視線から逃げた。
「だけど、何もかもすぐに飲みこめるわけじゃないんだ。バカにしてるとかじゃなくて尻でセックスするんだとか。アルファと結婚するんだとか。子供産むんだってところまで気持ちが到達しない」
ヒナタがうつむいた俺の肩をポンポンと叩く。
「そんなの、僕だってまだ受け入れてないよ」
俺が顔を上げるとツバサもヒナタも真剣な顔だった。ヒナタが俺の目を射る。
「僕だって透より長くオメガとして生きてるけどまだ戸惑ってることだ、そんなに簡単に納得できるはずがないじゃないか。だけど、僕らの方が早く悩み始めたから…もう僕らは変えられないことを悩むのは止めたんだよ。どの道を辿っても幸せになりたい。それだけだ」
俺はここに来て。この二人に会えてよかった。
「ありがとう、二人が俺の友達になってくれて良かった」
2人して俺の頭を雑にかき回した。
「僕も透のお菓子が好きだからね、友達になれて良かった。今日は何を焼いたの?」
ツバサがにっこりと笑う。
カップシフォンケーキを焼いていた。彼が緑色が好きだと言ったから彼に抹茶のシフォンケーキなんてどうだろうと思いついて焼いたんだ。昨日は眠れなくて。
2人が向かい合ってハイタッチをしていた。冷蔵庫からカップシフォンを出した。ツバサは簡易キッチンで湯を沸かし始めた。紅茶を淹れると缶の紅茶を取り出していた。さすがお坊ちゃんだ。
「食べさせたい人がいるとお菓子もおいしいね。僕も透から習おうかな」
「ツバサも食べさせたいって思ってるんだ」
「まぁね、彼は僕の運命だよ」
ツバサが笑った。一瞬見せたのはやけに大人びた顔だ、かっこよかった。
「透君…僕にも教えて。難しいのは無理だけど」
ヒナタも笑った。
カップシフォンは好評でこれなら至君も喜んでくれそうだ。次の話題はツバサの結納の話になった。ツバサの婚約者は大学4年生で卒業後東京に就職する。4月からツバサと彼は離れ離れになるからその前にちゃんと籍を入れることになったそうだ。ツバサはどんどん未来が決まっている。ヒナタは今度吉岡さんとデートだそうだ。赤かったあの顔を思い出す。
2人は幸せにつながる道をたどってるのだろう…俺もだったらいいな。
スマホが鳴った。航兄からだ、来週実家に帰るのでその話だった。
そのメッセージの下に至君と”おはよう”ってメッセのやり取りをした履歴が見えた。
次にヒートが来たら幼馴染の彼と番う約束をしたってことだ。ツバサは軽やかに大人の階段を上っていく。
ヒナタが吉岡さんと仲良くなったという話をしたら、ツバサはやっぱりなぁと言った。ヒナタ本人以外は吉岡さんの執着を正しく理解してたってことだ。
「えーすごく楽しそうな交流会だったんだね。そっちに参加したかったなぁ」
ツバサが残念そうな声を出していた。結納の方が大事だと思うぞ。
「ヒナタ、それで張ヶ谷至ってのはうちの透を預けても大丈夫そうな男なのか?」
ツバサがちょっとお兄さんぶって眼鏡なんてかけてないのにブリッジを上げる仕草をした。
「2日目にさ。ヒートっぽくなった子がいてさ。それを透君が抱き上げて保健室まで運んだんだけど。あてられたアルファの人たちが追いかけようとしたのをフェロモンでさっと落ち着かせてさ。ケーキ屋さんにキャストカード預けて帰って行ったよ、透君以外は見ていないって感じで。いろいろかっこいい人だった」
ヒナタはキラキラとした目で説明していた。そして、はっとした顔をした後。
「そう言えば3日目の最後に二人で写真撮ってたよね」
ツバサがにっこり笑って、見せてって言うので俺は観念してスマホの写真を見せた。
自分でも驚くほど緩んだ顔をしているので見せたくなかった。
「ほんとだ、初めて見る顔だね。いや…うん。透の初恋かー」
ヒナタは本人に会っただろうに、ツバサと顔を寄せてスマホを覗き込んでいた。
「透君ってかわいいね、なんかすごく…」
俺はそれを聞いてスマホを取り上げた。恥ずかしくて顔が赤くなる。
「からかうなら怒るからな!」
「ごめんね、そうじゃなくて。透君はずっとベータだったじゃない?オメガクラスに転校してきても、ヒートになってもオメガらしくないと言うか。抗ってたと言うか。でも、写真で見るとオメガ性を受け入れているように見えるんだ」
俺は何も言えなかった。何もかもお見通しだ。
「俺は彼が初恋だって言っただろ。オメガになる前に好きだって思ったんだ。オメガになってからも好きだって思う。ベータの男だったら男を好きって思うのかなって思ったら、やっぱりもともと俺はオメガの質はあったんだなって」
俺は確かに抗ってる、でも同じくらいに受け入れている。
「至君に好意を示されると嬉しくてさ。俺は彼がアルファだって聞いて、出会えた俺がオメガで良かったって思ってる。あとツバサとヒナタと一緒にいる時もオメガで良かったって思ってる。そうやって一つずつ積み重ねて受け入れてくんだと思う…だけど」
俺はうつむいて二人の視線から逃げた。
「だけど、何もかもすぐに飲みこめるわけじゃないんだ。バカにしてるとかじゃなくて尻でセックスするんだとか。アルファと結婚するんだとか。子供産むんだってところまで気持ちが到達しない」
ヒナタがうつむいた俺の肩をポンポンと叩く。
「そんなの、僕だってまだ受け入れてないよ」
俺が顔を上げるとツバサもヒナタも真剣な顔だった。ヒナタが俺の目を射る。
「僕だって透より長くオメガとして生きてるけどまだ戸惑ってることだ、そんなに簡単に納得できるはずがないじゃないか。だけど、僕らの方が早く悩み始めたから…もう僕らは変えられないことを悩むのは止めたんだよ。どの道を辿っても幸せになりたい。それだけだ」
俺はここに来て。この二人に会えてよかった。
「ありがとう、二人が俺の友達になってくれて良かった」
2人して俺の頭を雑にかき回した。
「僕も透のお菓子が好きだからね、友達になれて良かった。今日は何を焼いたの?」
ツバサがにっこりと笑う。
カップシフォンケーキを焼いていた。彼が緑色が好きだと言ったから彼に抹茶のシフォンケーキなんてどうだろうと思いついて焼いたんだ。昨日は眠れなくて。
2人が向かい合ってハイタッチをしていた。冷蔵庫からカップシフォンを出した。ツバサは簡易キッチンで湯を沸かし始めた。紅茶を淹れると缶の紅茶を取り出していた。さすがお坊ちゃんだ。
「食べさせたい人がいるとお菓子もおいしいね。僕も透から習おうかな」
「ツバサも食べさせたいって思ってるんだ」
「まぁね、彼は僕の運命だよ」
ツバサが笑った。一瞬見せたのはやけに大人びた顔だ、かっこよかった。
「透君…僕にも教えて。難しいのは無理だけど」
ヒナタも笑った。
カップシフォンは好評でこれなら至君も喜んでくれそうだ。次の話題はツバサの結納の話になった。ツバサの婚約者は大学4年生で卒業後東京に就職する。4月からツバサと彼は離れ離れになるからその前にちゃんと籍を入れることになったそうだ。ツバサはどんどん未来が決まっている。ヒナタは今度吉岡さんとデートだそうだ。赤かったあの顔を思い出す。
2人は幸せにつながる道をたどってるのだろう…俺もだったらいいな。
スマホが鳴った。航兄からだ、来週実家に帰るのでその話だった。
そのメッセージの下に至君と”おはよう”ってメッセのやり取りをした履歴が見えた。
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