召喚勇者はにげだした

大島Q太

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29.エンドマークは突然に

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俺は見覚えのある真っ白な空間に座っている。相変わらず平衡感覚を失くす頭のおかしくなりそうな場所だった。


『勇者おかえり!』

女神さまの声だ。

「ただいま。ってただいまであってるの?」

『うーんとね。向こうで本名を伝えちゃったからね。あなたはもうあの世界の住人よ』

俺はうつむいて、自然と上がる口角を隠した。

『これでこのBLゲームは終了よ。ゲームっぽい説明口調になる人も。四角いウィンドウも出なくなる』

俺は顔を上げて女神さまの声がする方を見た。

「チートと加護は残るの?」

『ええ、それはあなたにあげたものだから死ぬまで使って。ただし、この部屋の記憶は無くなるわ』

「じゃあほんとに最後なんだな」

『途中、どこがBLって悶えたけどまぁ、結果ヨシ。聖騎士と結ばれました。ハッピーエンド!』

どこかで見た花びらが舞い始めた。

「てかさ。最後、雑じゃない? コインを魔獣王の嫁にするなんてさ」

『コインの一目惚れだったのよ。愛の女神としては祝福するしかないじゃない。魔獣王も喜んでたし。この世界は全員攻略対象者だって言ったでしょ』

「あぁでも、コイン子供なんじゃ? 」

『角の数が年齢だって言ったでしょ。紅蓮の流星コンキスタドール地獄のインフェルノ征服者は角が四本。鼻の頭に小さいのが一本あったでしょ? 強いて言うなら230歳くらい。魔獣王より年上よ』

「俺よりも年上だったんか。魔獣王は姉さん女房なんだな」

『魔獣王が嫁よ?』

プロジェクターが起動され、魔獣王をイケメンがお姫様抱っこしている。赤い肌に切れ長の緑色の瞳はコインの色だ。めちゃくちゃイケメンだった。え、魔獣王がメスの顔している。ひげも髪も整えてすごくきれいな顔だ。何だこの宗教画みたいな二人は。


そんなネタバレ悪夢だ。俺はコインを抱いて寝てたんだぞ。

「でも、なんでコインの言葉だけ言語理解で分らなかったんだ?」

『紅蓮の流星コンキスタドール地獄のインフェルノ征服者の方が魔力レベルが上だからよ。あなたがちゃんと修行して魔獣王に立ち向かえば、紅蓮の流星コンキスタドール地獄のインフェルノ征服者は隠しキャラとして攻略できたのに』

くっそ何回もフルネームで呼ぶなよ。最後までいじりやがって。

なんて世界だ。でも……俺の大好きな世界。俺のすべてで、愛おしい世界。

「女神さま、この世界に連れてきてくれてありがとう」

女神さまはそっけなく「んっ」と返事をした。




勇者 勇太は伴侶の元に帰りますか?
▷帰る
 急いで帰る
 超特急で帰る

帰るしかないじゃないか。
そっか、もう行くんじゃない、帰るんだな。

ありがとう。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



朝の柔らかな光に、カフェオレ色の短く刈り込まれた髪がキラキラと光る。
長いまつ毛が寝息とともに震えていた。高い鼻。厚い唇は少し開いている。うっすらと生えたひげも輝いていた。多幸感が胸に広がる。

だからだろうか、さっきから涙が止まらない。

節々が痛い。……特に関節。俺が寝ている間に綺麗にしてくれたからだろう。体の方は清潔だが情事の後が赤く残っている。

目を覚ます瞬間、いつも緊張していた。

俺は転移前のことを覚えている。日本という国で二十歳のフリーターだった。コンビニへ行こうと家を出た瞬間、目の前が暗転した。
目が覚めたら王城の召喚の間にいて勇者だと言われた。俺は怖くてそこから逃げた。そして、逃げた場所がリーンハルトの家族の治める領地だった。

それからはいろいろあったけど、盛大な結婚式を挙げて晴れて彼の伴侶になれた。


彼の隣なら眠るのも目を覚ますのも怖くない。


彼を伴侶と認めますか?
▷もちろん

一択だろ。って、選択肢なんていらないゲームじゃないんだから。


眠る彼の肩に頬を寄せて腹に腕をのせる。あたたかい体温に誘われて朝寝を決め込んだ。

世界が愛おしい。ここが俺の世界。
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