召喚勇者はにげだした

大島Q太

文字の大きさ
上 下
25 / 29

25.エンディングは突然に

しおりを挟む
沈黙の後。王様が立ちあがる。
「……これは何のためにしている」
魔獣王の方を振り返ると、彼はうなずいて口を開く。

「子供をさらうのはやめてくれ。魔獣をモノではなく人として扱い彼らに敬意を。魔力鎖まりょくさで繋ぐのはやめてくれ。彼らの労働力には正当な対価を」

俺はうなずいてそれを代弁する。

「花嫁も生贄もいらない。欲しいのは安寧だ」

俺は魔獣王を見上げた。結婚式の途中でフラれてしまった。

予定調和だけど。

ミランマイレン国が今までしてきたことを考えると、寛大な措置だと思うのだが王はすぐにうなずかなかった。

「それができないというなら西の森から出ていくと言っている」

これは脅しだ。魔獣王がいなくなれば、他国から、あるいは統率者のいない魔獣からミランマイレン国は攻撃を受けることになる。そうなればこの国はひとたまりもないだろう。

「わかった……」

王は立ち上がり、魔獣王の側まで来るとその爪先にキスをした。
これがこの国の誓約のしるしになるらしい。つまり、条件をのむってことだ。

俺は交渉成功の合図に高く手を上げる。魔獣王はキョトンとして頭を下げてきた。仕方がないのでその頭を撫でたが、ハイタッチをするつもりだった。やっぱ、陽キャの真似は難しい。

礼拝堂はざわめいていた。これは間違いなく。ミランマイレン国の転機だ。
教会の外に控えていたトカゲちゃんたちはいっせいに頭を上下に振っている。



そして、意を決してリーンハルトの方を見た。リーンハルトは驚いた顔でこちらを見ていた。

「リーンハルト。魔獣王様が花嫁いらないって。フラれちゃったよ。だから俺を伴侶にもらって?」

リーンハルトは立ち上がると俺の元に駆けつけて、ぎゅっと抱きしめてくれた。おいこら、コインを投げるな。投げられたコインは魔獣王が受け止めてくれた。

二人の頭上で祝福の鐘が鳴っていたらしい。


……俺には聞こえなかった。だって目の前に、リーンハルトがいたから。



「タロウ。あなたの側においてください」

俺はリーンハルトの目の色が好きだ。優しい声。枯草の匂い。カフェオレ色の髪。大きな手。俺の大好きな人。

「今のセリフ。勇太ゆうたって呼んで言い直して? 俺、吉沢よしざわ勇太ゆうたって言うんだ」

「ゆうた。私の勇者。愛しています」



かくして、ミランマイレン国に新たに、吉沢勇太という異世界人と魔獣人という新たな国民が生まれた。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


その後、魔獣王とミランマイレン国王との誓約は細かなところまで詰められた。
誓約文を作る王国側ばかり有利にならないように見張る必要があって、俺も魔獣王のそばで誓約文を読む羽目になっていた。
俺にそんな専門的な知識はなくどうすっべかな?と悩んでいたら。「オッケーグリモワールこの誓約文どう思う? 」で人間側の小ずるい言い回しを全て訂正してくれた。

魔獣王はコインを膝に抱えてゴキゲンである。イチャつきやがって……。俺がうなりながら誓約文を読み返している間にすっかり仲良くなっている。くっそ、俺はこの雑務のせいでリーンハルトに会えてないのに! 

ようやくすべての誓約文の文言を決めると、今度は清書だ。魔力を込めた特別なインクで魔力でできた特別な紙に書き写していく。これ破ったら国が亡びるぞ的な仕掛け付きだそうだ。そこは魔法省に全委託だ。


次の仕事はトカゲちゃんたちの聞き取りだ。
実家に帰りたいトカゲちゃんや虐待が疑われるトカゲちゃんを解放していく。トカゲちゃんたちを人として扱うと誓った以上、鎖でつなぐのも罰則を付けた。

トカゲちゃんたちは人間以上に賢く温厚だった。ずっと理不尽な目にあわされていたのにやり返さなかったのだから言わずもがなだ。
話をしても分からないのは人間の方だった。身分や権利を主張してごねてきたが、そこは王子3人組が頑張ってくれた。王子たちと王子たちの騎獣が間に入ってうまくやってくれたらしい。ハーツのエロ本は今もちゃんとクラちゃんが守っている。


ここまで2年かかった。


今では街中でぽつぽつ自由に歩く魔獣人もいる。
俺とリーンハルトの交際は順調だ。
聖騎士って言うのは結婚までは童貞を守らないといけないらしく、なかなかの苦行だった。おかげで立派に指と舌だけで開発された。これは初夜で淫乱コースだ。あの女神さまそう言うの好きそうだもんな。


そういえばもう一つ問題があった。アワーバック家は国でも王様の次に偉い貴族らしく、当初は身分をたてに結婚ではなく妾にという意見が王国から出されたのだ。たぶん、俺に対する嫌がらせだ。


だがそれは俺が魔獣王の義理の父になったことで解消された。うん、俺のコインがあっさりと魔獣王と結婚したのだ。扶養家族とは言っていたが息子になっていたみたいだ。
なんか女神さまが話を収束に向けるために都合よく動かしているようにも感じるが、おかげで王国側を黙らせることができたのでヨシとしている。


そして、この国に勇者として召喚されてから3年。

俺とリーンハルトはアワーバック領の教会で盛大な式を挙げた。



見上げた青い空には魔獣たちが飛び交い 「召喚勇者は異世界で最愛と出会う fin.」と文字が浮かんだ。


久しぶりにピアノとバイオリンの音を聞いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悩ましき騎士団長のひとりごと

きりか
BL
アシュリー王国、最強と云われる騎士団長イザーク・ケリーが、文官リュカを伴侶として得て、幸せな日々を過ごしていた。ある日、仕事の為に、騎士団に詰めることとなったリュカ。最愛の傍に居たいがため、団長の仮眠室で、副団長アルマン・マルーンを相手に飲み比べを始め…。 ヤマもタニもない、単に、イザークがやたらとアルマンに絡んで、最後は、リュカに怒られるだけの話しです。 『悩める文官のひとりごと』の攻視点です。 ムーンライト様にも掲載しております。 よろしくお願いします。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...