召喚勇者はにげだした

大島Q太

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22.魔獣王との対面

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トカゲが引く乗り物に乗り、魔獣王のもとに行く。


魔獣王は魔獣を束ねる王なので魔獣王と呼ばれているそうだ。
西の森と呼ばれるアワーバッグの西に位置する国境に近い森に住んでいる。この国に魔獣王がいてくれることで、小国であってもミランマイレン王国は他国から侵略をうけず平和に暮らせているのだそうだ。裏を返せば、魔獣王の機嫌を損ねればこの国はあっという間に周りの国から食い物にされるだろう。
そんな大事な花嫁選びなのによく異世界人を連れてこようとか思ったな。


魔獣王の元には尻が4つに割れる前に着いた。

「ここから先は勇者様おひとりで」

と下ろされた。俺を乗せてきた人とトカゲたちは来た道をさっさと帰っていく。「目的地周辺です」って突然放り出してくる不親切なナビみたいな案内だ。俺は森の中に一人にされて少し心細い。
コインはサバラに預けてきた。もし魔獣王がひどい奴だったら食われちゃうからな。


とりあえずその場でぐるぐる歩いて回ってみた。つぼがあったら持ち上げて投げるつもりだった。

『西の森 最奥』

突然の四角い表示だ。なるほど、どうやらここで待ってればいいみたいだ。

辺りに生えている背の高い木々が一斉に葉を鳴らした。

見上げると木々の間をゆっくりと黒い塊が下りてきた。

「我が名はサーロイン。魔獣を統べる魔獣王なり」

リーンハルトよりもでかくて、おでこからは角が4本も生えている。いかついひげ面で筋骨隆々。まさしく魔獣王という風体だ。その存在感に息をのんで見つめた。


だが、なんだよそのモブに対する執拗な焼肉縛りは、……一瞬にして悟ってしまった。コイツ魔獣王だけどモブだ。少し緊張が解けた。「魔獣王 サーロイン:童貞処女」女神さまめ、いい趣味してやがる。


「俺は勇者だ」

魔獣王は俺の頭のてっぺんからつま先までを2往復眺めると眉間に皺を寄せた。

「チェンジで!!」

ハッキリくっきり大きな声で明瞭に、しかも、いい声でひどいこと言うなっ!

「くそが!」

つい毒づいてしまった。魔獣王はため息をつきつつ。こちらをまたぶしつけに値踏みする。

「チェンジで―!! もっと、品の良い可愛い子がいい。もっと色気のある年上のかっこいい人ににチェンジでー!!」

魔獣王のくせに生意気だ。一日一善ビーンタッ。

魔獣王が頬を抑えてこっちを睨んだ。

「暴力ひどい! 暴力反対! そもそもそっちが勝手に魔獣たちを連れて行くから怒ったのに! 怒ったら怒ったでお詫びに花嫁送りますって言って来たのそっちなのに。理不尽!」

おぉっと、知らない情報だ。魔獣王はそのままそこに三角ずわりで座り込んでしまった。

「ごめん、そこら辺の事情なにも聞いてないわ」

魔獣王はこちらを見て拗ねた。おじさんが拗ねてもかわいくないからな。だけど事情はちゃんと聴くべきだと隣に座った。

「西の森は我ら魔獣の領土だったのだ。なのに人間が侵略してきて。勝手に我ら魔獣を獣魔と同じように狩って行った。怒っても良くない? 普通怒るよね。人間だって魔獣が人間を襲えば怒るよね!」

『魔獣、知性のある言語を理解する獣。 獣魔 言語を理解しない獣。 人と猿くらいの違い』
オッケーグリモワール、ありがとう。

「それは怒るな。怒っていい」

「そしたらあいつら、被害者面して生贄だの、花嫁だの言って勝手に送ってくるし。受け取らなかったら怒られるし。ホント人間怖い」


なんだか聞いていると不憫だ。……こいつがもっとしっかりしてたらこんな問題にならなかったのではと思ってしまったのは内緒だ。
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