召喚勇者はにげだした

大島Q太

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21.大事な人たち

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『城塞 右翼二号塔地下1階 地下牢』

鉄柵のむこうにリーンハルトがいた。ひげ面に戻ってる。

「リーン! 大丈夫か?」
声をかけると、驚いた顔でこちらを見返した。
「どうしてここにタロウが?」
リーンハルトは鉄柵近くまで来るとその隙間から手を伸ばす。
「リーンのお兄さんに案内してもらったんだ。ブリアンさん」
リーンハルトの手が俺の頬に触れる。猫みたいにその手に頬を擦りつけた。リーンハルトは俺の後ろに立つ兄を見て礼を言っている。
「なぁ、リーン。魔獣王のいけにえになるって言ってるって本当なのか?」
頬を撫でていた手が止まった。俺はその手に手を重ねる。

「俺が待ってたのに?」

「……ぁあ」
「そっか。じゃあ、リーンが先に俺の手を離したんだな」

握っていた手をリーンハルトに押し返した。驚いた顔で見つめ返してくる。我ながら苦しい言い分だ。

「そう言うわけではっ……」
「でも、リーンがいなくなったら俺が悲しいの分かってるだろ」

リーンハルトが手を伸ばすが、その手が届かないところまで下がった。

「リーンハルト。俺、実は勇者なんだ」

リーンハルトは驚かなかった。やっぱり気付いてたんだ。

「だから、俺が魔獣王のいけにえになる」

俺が勇者だって気づいてたから、自分がいけにえになるなんて言い出したんだろ、俺のために。

「リーン。最後にキスしたい」

俺は一歩前に出てリーンハルトの手を掴む。ぐっと泣きそうに歪んだリーンハルトを勇気づけるように微笑んでまた一歩前に出る。檻を挟んでお互いの頬をつかんだ。

何度か重ねられた唇はくっつくたびに熱を持ち、心を震わせた。勇者なのに好きな人さえ幸せにできない。魔法があっても、力があってもどうにもできないことが、好きな人と幸せになることなんて残酷だ。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




俺はまた聖剣に乗って部屋に戻った。
コインを抱きしめてベッドに入る。リーンハルトを泣かせちゃったなとか。魔獣王のもとに行く前にサバラにもう一度、誠心誠意、心を込めて謝りたいなとか。頭の中はぐちゃぐちゃのまま眠りについた。
いい布団だ。リーンハルトが持ってきた布団よりさらに高級なのだろう。だけど、無性にあの洞穴の布団が恋しい。あれはリーンハルトの匂いがする。


昨日出て行ったサバラはちゃんと帰ってきた。俺が頭を下げて謝ると、僕らを巻き込みたくなかったからだよねって大人な対応をされた。でも、少し仲直りができて良かった。
話しながら全身をまた洗われた。
俺の正装は真っ白なスーツに、真っ白なベール。七五三っぽいなって自嘲する。

サバラが俺の髪に櫛を通しながら微笑んでいる。
「タロー綺麗だよ」
昨日とは違うニュアンスのきれいに少しドキドキした。だけどサバラは、俺がいけにえに行くことを知ったのだろう。こらえきれなくなって膝から崩れ落ちて泣き出してしまった。

俺は大事な人を泣かせてばかりだ。

「僕が処女なら……変われたのに」

サバラは悲しい笑顔をした。

『サバラ 経験人数6人』

オッケーグリモワール、この場面でその説明はいらない。あと人数が生々しくていやだ。


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