召喚勇者はにげだした

大島Q太

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19.待ってろよ

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俺がこの世界に来てここまで頑張れたのも彼と彼の家族のおかげだったのに騙していた。理由があっても彼に嘘をついていたのは間違いない。

「……ごめん。サバラ」

こんな時のごめんって便利な言葉だ。
俺はそれを言われて何もかもどうでもよくなったのだ。
幼馴染の自分がすっきりするためだけのごめん。


あの時、あんなに嫌悪を抱いたのに、俺は今、それを大事だと思っている友だちに言った。

「タローのばか!」




サバラは部屋の外へ走って行った。追いかけるために一歩踏み出した瞬間、ミスジが俺の腕をぐっと握って見下ろしてきた。
「異世界人はずるいな。言っておくが今逃げたら。魔獣王様のいけにえはリーンハルトにするからな」

ミスジはニヤリと笑ってマントをひるがえした。こんなとこでそんなことするなよ。いろんなものに当たってるだろ。ガチャガチャうるさい。クールとかショタとかも迷惑そうにミスジを睨んでいる。



「今日はちゃんと寝ろよ。明日はお前を魔獣王のもとに送ってやる」

王子たちはフハハハハ! と高笑いをしながら一列になって部屋を出て行った。はけ方が大阪の喜劇っぽいな。去っていった扉は締まると元の壁に戻った。


静かになった部屋に風が吹き込む。自分が壊した窓枠からだった。まだ壊れたまんまだ。窓枠に手を掛けたが逃げる気になれなかった。
せめて最後にリーンハルトに会いたかった。疑ってごめん。信じなくてごめん。

俺が信じられないのは相手じゃない自分だ。

『リーンハルト 城塞 右翼二号塔地下1階にて監禁中』

え?グリモワール。

『聖剣も呼べば来ます。それに乗って会いに行きましょう』

グリモワール。……ありがとう。

『祝福を受けし聖剣よ。闇より暗き漆黒を裂いて……』

もうその手には乗らないからな。あと今度同じようなことしたら。牛乳かけるからな。

『……ひぃ』

「聖剣!」

俺が呼ぶと掲げた手の中に柄が現れた。それを両手でぐっと握ると柄からゆっくりと刃が現れてあの見慣れた聖剣が実体と化す。あっ、やべ。焼肉してたから表面に焦げた野菜や脂が付いてる。
そうだった。焼肉をしていた途中だった。


さっさと浄化して、柄を持ち直す。背中にはコインを背負った。


俺は俺の事情でサバラも、リーンも疑ってしまった。誠心誠意謝ろう。そして、ちゃんと話をしよう……もう後悔はしたくない。

グリモワールだって言った。

リーンハルト監禁中と……


よし、待ってろよ。リーンハルト。今から会いに行くからな!
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