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17.呼び出し方の作法
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目を開くと目の前にいつもの四角が浮かび上がっていた。
『アワーバック領 西の城塞 城館 隠し牢』
パチパチとまばたきをしてまた字を読む。天蓋の付いたベッドに、肌触りの良い布団。待遇は良いみたいだがここは牢屋のようだ。しかも、隠し牢と言うからには隠されたところなのだろう。
起き上がって部屋を見回すと、内装はベッド以外にはテーブルセットがあるのみだ。窓には鉄柵がはめられていた。たぶん逃亡できないようにするためだ。
そうだ、コインは? 辺りを手でまさぐって見回してもいないみたいだ。
コインの代わりに膝を抱える。たぶんここに連れてきたのはミスジだろう。
俺はいけにえなのか。
リーンハルトは俺を裏切ったのか。リーンハルトはどこまで知っていたのか。
あぁ、ダメだ。こんなところにいたら気分が塞ぐ。若干ひきこもり時代を思い出す。ここにいたらどの道、いけにえの道しかないんだ。
あの鉄の棒くらいなら、コインを助けた時の力でどうにかなりそうだ。
ベッドから立ち上がり、窓枠にはまった鉄の棒をぐっと握った。身体強化魔法ですんなりと鉄の棒は曲がった。ちょっと窓枠まで壊してしまったけどまずは部屋から出よう。
近くにあったテーブルを窓の近くまで運んで、窓枠に足をかけたところだった。何もない壁みたいなところから人が現れた。
「あ!」
「あれ?サバラ?」
入ってきたのはサバラだった。
「タロー何やってんの!そんなところから出たら死んじゃうよ」
あぁ、そうか。サバラには俺の能力を隠していたんだ。大丈夫、俺って空も飛べるから、なんてったって風魔法使えるし。だが、そう思ってサバラを見ると、おいしそうな料理をのせたお盆を持っていた。
……腹が減っては戦はできぬ。焼肉食べ損ねちゃったし。
テーブルを元の位置に戻して、サバラの持ってきた料理を頂くことにした。
「僕の彼氏、この西砦にいるんだ。だから手伝いに来たんだよ。そしたらタローが捕まってるって言うじゃん?で、面識があるならって。僕がタローお世話係になったんだよ。まったくこんなところに閉じ込められるなんて何を盗み食いしたんだ」
俺の罪状を盗み食い一択にしないでほしい。
リスみたいに頬袋にいっぱい料理を詰め込みながら思う事ではないかもしれないが。でも、うまい。やっぱ人の作った料理はうまい。なんかいろいろ入っててうまい。うまい!うまい!うまい!でも……コインにも食べさせてやりたい。そう思うと、どんどん一口が小さくなっていった。
「コインが……いない」
どんどん料理がしょっぱくなっていく。サバラはさきほどテーブルを拭いていた布巾で俺の頬を拭った。
「眷属になった魔獣は確か呼び出せたはずだよ」
俺は顔を上げてサバラを見た。サバラはやってみなよと言う。
オッケーグリモワール。眷属の呼び出し方!
「紅蓮の炎を従がえし赤き星。世界を征服せし業火を纏い。いざ我の名のもとに顕現せよ!紅蓮の流星コンキスタドールインフェルノ!ダイナマイトォースパァーク!」
俺はグリモワールが言うとおりぐるぐる回って拳を突き上げて叫んだ。
サバラが顔を伏せて小刻みに震えている。頑張って突き上げた拳が震え、胸が締め付けられる。コインと会いたいために一生懸命だったが、察した。
何もなかった場所に火の玉が現れてぐるぐると回りだしそれが火柱になった。火が消えるとそこにコインがいた。
「クァッ」
「コイン!」
俺はコインを腕に抱いてぎゅっと力をこめる。コインもうれし気に胸に鼻先を擦りつけた。
「ハァーダメだ。笑いが止まんないよ。タローの生まれたところの習慣か何かなの?魔獣に変な名前つけたり、呼び出すときに振りを付けて呼び出したり、そんなのやってるの5歳児までだよ」
サバラの涙を苦々しげに見た。はて?俺はグリモワールが教えてくれた通りの作法で呼んだんだけど。
『勇者の世界での作法です。なお、今回はカードゲームバージョンですが、他にもカプセルモンスターバージョンもございますのでご参照ください。なお、名前を呼ぶだけでも可能』
オッケーグリモワール、覚えてろよ。
俺はコインを抱きしめて素数を数えた。恥ずかしくて死にそうだ。
『アワーバック領 西の城塞 城館 隠し牢』
パチパチとまばたきをしてまた字を読む。天蓋の付いたベッドに、肌触りの良い布団。待遇は良いみたいだがここは牢屋のようだ。しかも、隠し牢と言うからには隠されたところなのだろう。
起き上がって部屋を見回すと、内装はベッド以外にはテーブルセットがあるのみだ。窓には鉄柵がはめられていた。たぶん逃亡できないようにするためだ。
そうだ、コインは? 辺りを手でまさぐって見回してもいないみたいだ。
コインの代わりに膝を抱える。たぶんここに連れてきたのはミスジだろう。
俺はいけにえなのか。
リーンハルトは俺を裏切ったのか。リーンハルトはどこまで知っていたのか。
あぁ、ダメだ。こんなところにいたら気分が塞ぐ。若干ひきこもり時代を思い出す。ここにいたらどの道、いけにえの道しかないんだ。
あの鉄の棒くらいなら、コインを助けた時の力でどうにかなりそうだ。
ベッドから立ち上がり、窓枠にはまった鉄の棒をぐっと握った。身体強化魔法ですんなりと鉄の棒は曲がった。ちょっと窓枠まで壊してしまったけどまずは部屋から出よう。
近くにあったテーブルを窓の近くまで運んで、窓枠に足をかけたところだった。何もない壁みたいなところから人が現れた。
「あ!」
「あれ?サバラ?」
入ってきたのはサバラだった。
「タロー何やってんの!そんなところから出たら死んじゃうよ」
あぁ、そうか。サバラには俺の能力を隠していたんだ。大丈夫、俺って空も飛べるから、なんてったって風魔法使えるし。だが、そう思ってサバラを見ると、おいしそうな料理をのせたお盆を持っていた。
……腹が減っては戦はできぬ。焼肉食べ損ねちゃったし。
テーブルを元の位置に戻して、サバラの持ってきた料理を頂くことにした。
「僕の彼氏、この西砦にいるんだ。だから手伝いに来たんだよ。そしたらタローが捕まってるって言うじゃん?で、面識があるならって。僕がタローお世話係になったんだよ。まったくこんなところに閉じ込められるなんて何を盗み食いしたんだ」
俺の罪状を盗み食い一択にしないでほしい。
リスみたいに頬袋にいっぱい料理を詰め込みながら思う事ではないかもしれないが。でも、うまい。やっぱ人の作った料理はうまい。なんかいろいろ入っててうまい。うまい!うまい!うまい!でも……コインにも食べさせてやりたい。そう思うと、どんどん一口が小さくなっていった。
「コインが……いない」
どんどん料理がしょっぱくなっていく。サバラはさきほどテーブルを拭いていた布巾で俺の頬を拭った。
「眷属になった魔獣は確か呼び出せたはずだよ」
俺は顔を上げてサバラを見た。サバラはやってみなよと言う。
オッケーグリモワール。眷属の呼び出し方!
「紅蓮の炎を従がえし赤き星。世界を征服せし業火を纏い。いざ我の名のもとに顕現せよ!紅蓮の流星コンキスタドールインフェルノ!ダイナマイトォースパァーク!」
俺はグリモワールが言うとおりぐるぐる回って拳を突き上げて叫んだ。
サバラが顔を伏せて小刻みに震えている。頑張って突き上げた拳が震え、胸が締め付けられる。コインと会いたいために一生懸命だったが、察した。
何もなかった場所に火の玉が現れてぐるぐると回りだしそれが火柱になった。火が消えるとそこにコインがいた。
「クァッ」
「コイン!」
俺はコインを腕に抱いてぎゅっと力をこめる。コインもうれし気に胸に鼻先を擦りつけた。
「ハァーダメだ。笑いが止まんないよ。タローの生まれたところの習慣か何かなの?魔獣に変な名前つけたり、呼び出すときに振りを付けて呼び出したり、そんなのやってるの5歳児までだよ」
サバラの涙を苦々しげに見た。はて?俺はグリモワールが教えてくれた通りの作法で呼んだんだけど。
『勇者の世界での作法です。なお、今回はカードゲームバージョンですが、他にもカプセルモンスターバージョンもございますのでご参照ください。なお、名前を呼ぶだけでも可能』
オッケーグリモワール、覚えてろよ。
俺はコインを抱きしめて素数を数えた。恥ずかしくて死にそうだ。
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