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13.幸せ家族計画
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今日もサバラの家にお呼ばれしていたので、フルーツ籠を買うために裏路地に入る。
俺はできるだけ距離をとって歩きたいのに繋がれた手がほどけない。下を見てとぼとぼと歩いているとリーンハルトに壁ドンされた。
「そんなに意識されるとこちらも勘違いするんですが?」
などと言い出してニヤついている。赤くなった耳をなぞられて小さく叫び声をあげた。リーンハルトのくせに生意気だ。”一日イラッとパンチ”をお見舞いした。意識なんてしてやるか、こいつは木だ。そう思うことにする。
少々面がよくて、しゃべる木だ。
フルーツ籠も手に入れてサバラの家に向かっていると、ちょうど、雑貨店からサバラが出てきていた。俺が気づいたのと同じタイミングで、サバラもこっちに気付いて手を振っている。俺の後ろにいる木にも挨拶をした。
「今日もうちに来るよね。今日の晩御飯はブルの煮込みだよ」
サバラは紙袋をかかえなおして俺の腕をとる。牛肉風謎肉だ。牛肉!やった! コインもうれしそうにクォッと鳴いた。そのまま、サバラの視線は後ろに向かう。
「こちらは?」
「木です」
「木」リーンです」
あからさまに偽名だ。良い声で言うなよ。俺テレビっ子だったから日本を思い出しちゃうだろって、俺が見上げるとそっぽを向いた。どちらかというと、俺らはホームレスの方だからな。
「もしかして、タローの恋人?」
サバラがリーンハルトをじっと見る。
「ええ、伴侶候補です」
それを聞いてサバラが黄色い悲鳴を上げた。リーンハルトめ、嘘を吐くのに迷いがないな。
「タローもとうとう大人の仲間入りかー。お祝いにこれあげるよ」
サバラは紙袋から瓶を出して俺に押し付けてきた。
「これは花蜜の香油だよ。匂いも良いんだ。嗅いでみて」
きゅぽんと瓶を開けるとふわりと花のいい香りがした。アロマオイル的な何かだろうか。
「枕元に置いたら安眠できそうだな」
「……タローはまだまだお子ちゃまだね」
リーンハルトが瓶を取り上げてにっこり笑った。すごくいい笑顔で。
「これは素敵な贈り物ですね。二人で使わせていただきます」
俺は慌ててリーンハルトの腕をとってサバラから離れた。
「二人でとか言うなよ、一緒に寝てるのがばれちゃうじゃんか」
小声で注意したが、リーンハルトから返ってきた表情はおかっぱの孫を見守るおじいちゃんの顔だった。サバラも同じ表情だった。
”そんな目で 見ないでおくれ ボンバイエ タロウ心の俳句”
いや、心の俳句を詠むのはおじいちゃんの方だった。
サバラの家でブルの煮込みをごちそうになった後、山に戻った。
帰り道はずっと手を握られていた。たまに親指がソワソワと俺の人差し指のつけ根を撫でる。その度に見上げるとリーンハルトの顔は緩んでいた。あまりに赤ん坊みたいな無邪気な笑顔につられて笑ってしまう。
「何がそんなに楽しいんだよ」
「あなたの気持ちが少し見えたのが嬉しいです。勇気を出してよかった」
リーンハルトは繋いでいる手をぶんぶん振った。
「こどもかよ!」
「子供は3人くらい欲しいですね」
幸せ家族計画を立てるにはまだ俺たちは何も始まってないぞ。俺たちって……。気を反らしたくて空を見上げた。
月が綺麗だ。月って言うのかはわからないし。なんなら似たのがもう1個あるけど綺麗だと思った。
「1週間離れますが、帰ってきたら覚悟してください」
リーンハルトのふわりとした笑顔に俺は動悸がする心臓をコインで押さえ、答えずにうつむいた。今日も帰ったらリーンハルトの布団に入って寝るんだ。俺より少し高い体温に包まれて、低くて心地いい声で寝物語を聞きながら。
それは眠れそうにない。俺ヤバイ、ピンチ。
「サバラにもらった、アロマオイル。枕元に置かなきゃ」
「それは帰ってから使い方をじっくり教えますね」
リーンハルトはまた違う種類の笑みを浮かべてこちらを見ていた。なんだその目。
ワオーン。
月に吠えたくなった。
俺はできるだけ距離をとって歩きたいのに繋がれた手がほどけない。下を見てとぼとぼと歩いているとリーンハルトに壁ドンされた。
「そんなに意識されるとこちらも勘違いするんですが?」
などと言い出してニヤついている。赤くなった耳をなぞられて小さく叫び声をあげた。リーンハルトのくせに生意気だ。”一日イラッとパンチ”をお見舞いした。意識なんてしてやるか、こいつは木だ。そう思うことにする。
少々面がよくて、しゃべる木だ。
フルーツ籠も手に入れてサバラの家に向かっていると、ちょうど、雑貨店からサバラが出てきていた。俺が気づいたのと同じタイミングで、サバラもこっちに気付いて手を振っている。俺の後ろにいる木にも挨拶をした。
「今日もうちに来るよね。今日の晩御飯はブルの煮込みだよ」
サバラは紙袋をかかえなおして俺の腕をとる。牛肉風謎肉だ。牛肉!やった! コインもうれしそうにクォッと鳴いた。そのまま、サバラの視線は後ろに向かう。
「こちらは?」
「木です」
「木」リーンです」
あからさまに偽名だ。良い声で言うなよ。俺テレビっ子だったから日本を思い出しちゃうだろって、俺が見上げるとそっぽを向いた。どちらかというと、俺らはホームレスの方だからな。
「もしかして、タローの恋人?」
サバラがリーンハルトをじっと見る。
「ええ、伴侶候補です」
それを聞いてサバラが黄色い悲鳴を上げた。リーンハルトめ、嘘を吐くのに迷いがないな。
「タローもとうとう大人の仲間入りかー。お祝いにこれあげるよ」
サバラは紙袋から瓶を出して俺に押し付けてきた。
「これは花蜜の香油だよ。匂いも良いんだ。嗅いでみて」
きゅぽんと瓶を開けるとふわりと花のいい香りがした。アロマオイル的な何かだろうか。
「枕元に置いたら安眠できそうだな」
「……タローはまだまだお子ちゃまだね」
リーンハルトが瓶を取り上げてにっこり笑った。すごくいい笑顔で。
「これは素敵な贈り物ですね。二人で使わせていただきます」
俺は慌ててリーンハルトの腕をとってサバラから離れた。
「二人でとか言うなよ、一緒に寝てるのがばれちゃうじゃんか」
小声で注意したが、リーンハルトから返ってきた表情はおかっぱの孫を見守るおじいちゃんの顔だった。サバラも同じ表情だった。
”そんな目で 見ないでおくれ ボンバイエ タロウ心の俳句”
いや、心の俳句を詠むのはおじいちゃんの方だった。
サバラの家でブルの煮込みをごちそうになった後、山に戻った。
帰り道はずっと手を握られていた。たまに親指がソワソワと俺の人差し指のつけ根を撫でる。その度に見上げるとリーンハルトの顔は緩んでいた。あまりに赤ん坊みたいな無邪気な笑顔につられて笑ってしまう。
「何がそんなに楽しいんだよ」
「あなたの気持ちが少し見えたのが嬉しいです。勇気を出してよかった」
リーンハルトは繋いでいる手をぶんぶん振った。
「こどもかよ!」
「子供は3人くらい欲しいですね」
幸せ家族計画を立てるにはまだ俺たちは何も始まってないぞ。俺たちって……。気を反らしたくて空を見上げた。
月が綺麗だ。月って言うのかはわからないし。なんなら似たのがもう1個あるけど綺麗だと思った。
「1週間離れますが、帰ってきたら覚悟してください」
リーンハルトのふわりとした笑顔に俺は動悸がする心臓をコインで押さえ、答えずにうつむいた。今日も帰ったらリーンハルトの布団に入って寝るんだ。俺より少し高い体温に包まれて、低くて心地いい声で寝物語を聞きながら。
それは眠れそうにない。俺ヤバイ、ピンチ。
「サバラにもらった、アロマオイル。枕元に置かなきゃ」
「それは帰ってから使い方をじっくり教えますね」
リーンハルトはまた違う種類の笑みを浮かべてこちらを見ていた。なんだその目。
ワオーン。
月に吠えたくなった。
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