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12. シストルの街で
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久しぶりに来たシストルの街は、以前より人が多かった。リーンハルトも同じようにキョロキョロと辺りを見回している。
「すみません、ちょっと情報をもらいに聖教教会に寄っても良いですか?」
「お好きにどうぞ」
俺はコインを抱きしめながら手を振る。
「その手の振り方だと、追い払うみたいで、なんだか嫌です」
細かい奴だ。追い払うみたいじゃなくて、追い払ってんだ。ちらりと見返すと、リーンハルトは手を取って指先にキスした。急なことで声も出せず目を見開いて固まる。リーンハルトは良い笑顔だ。
「用事が終わったらクランまで迎えに行きますから待っててくださいね」
笑顔につられてコクリとうなずく、リーンハルトはさっさと雑踏に消えて行った。
唇って柔らかいんだな、ひげがくすぐったかった。月並みな感想が頭をよぎって、コインをぎゅっと抱きしめた。コインが身じろいでクォッと鳴いた。
舐め犬受付さんに薬草を持っていくと、いつもより高く買ってくれた。
「今、西の辺境で魔獣が増えてんだよ。だから冒険者が詰めかけてて。需要があるから買取強化中でな」
「……ん」
そして、いつもの癖で冒険者クランの壁に貼ってある勇者の手配書を眺めた。懸賞金の額が上がっている。
「あぁそれな。魔獣王が怒ってるって話だ。魔獣王を倒せるのは勇者様だけだ。だから早急に見つけて対処しないと……」
魔獣王……どっかで聞いたな。あぁ!目隠し好き魔法おじさんが言ってた。
「とうとう人さらいも出たそうだ。肝心の勇者様は魔獣王が怖くて逃げたらしいし、いよいよ王宮からも討伐隊がくるそうだ」
いや、いきなりのボーイズラブ展開がイヤで逃げたんだけど。舐め犬受付さんに言っても仕方ない。
王宮の討伐隊ってあの王子三人組も来るんだろうか。それだとめんどくさいな。
勇者の腹立つ似顔絵に鼻毛を書いてやろうか悩んでいたところ、リーンハルトがやってきた。
「タロウ。お待たせ」
「オカエリ」
タロウがしゃべった!って顔で舐め犬受付さんがこっちを見ている。
コミュ障舐めんな。
リーンハルトはひげが消えていた。ひげが無いと驚くほど年相応でさわやかだ。先ほど指先に唇が触れる柔らかさを思い出して目を反らす。俺の隣に来るとリーンハルトはため息を吐いた。
「すみません。恋愛休暇中でしたが、どうやら魔獣が増えて人手が足りないみたいなんです。1週間ほど討伐に出ることになりました、一人になっても浮気しないでくださいね」
リーンハルトを見上げると、困ったように笑っていた。
「俺の本命は布団で、浮気相手はお前だよ」
リーンハルトはにっこりと笑って俺の手を握った。なぜか、嬉しくてたまらないという顔をしている。
「浮気相手ってことは、俺のこと少しは思ってくれてるってことですか?」
さっきのは失言だった。ってかお前、俺って素が出てるぞ。悔しくて唇をかんでいると、指を絡めるように手を握られた。
「すみません、ちょっと情報をもらいに聖教教会に寄っても良いですか?」
「お好きにどうぞ」
俺はコインを抱きしめながら手を振る。
「その手の振り方だと、追い払うみたいで、なんだか嫌です」
細かい奴だ。追い払うみたいじゃなくて、追い払ってんだ。ちらりと見返すと、リーンハルトは手を取って指先にキスした。急なことで声も出せず目を見開いて固まる。リーンハルトは良い笑顔だ。
「用事が終わったらクランまで迎えに行きますから待っててくださいね」
笑顔につられてコクリとうなずく、リーンハルトはさっさと雑踏に消えて行った。
唇って柔らかいんだな、ひげがくすぐったかった。月並みな感想が頭をよぎって、コインをぎゅっと抱きしめた。コインが身じろいでクォッと鳴いた。
舐め犬受付さんに薬草を持っていくと、いつもより高く買ってくれた。
「今、西の辺境で魔獣が増えてんだよ。だから冒険者が詰めかけてて。需要があるから買取強化中でな」
「……ん」
そして、いつもの癖で冒険者クランの壁に貼ってある勇者の手配書を眺めた。懸賞金の額が上がっている。
「あぁそれな。魔獣王が怒ってるって話だ。魔獣王を倒せるのは勇者様だけだ。だから早急に見つけて対処しないと……」
魔獣王……どっかで聞いたな。あぁ!目隠し好き魔法おじさんが言ってた。
「とうとう人さらいも出たそうだ。肝心の勇者様は魔獣王が怖くて逃げたらしいし、いよいよ王宮からも討伐隊がくるそうだ」
いや、いきなりのボーイズラブ展開がイヤで逃げたんだけど。舐め犬受付さんに言っても仕方ない。
王宮の討伐隊ってあの王子三人組も来るんだろうか。それだとめんどくさいな。
勇者の腹立つ似顔絵に鼻毛を書いてやろうか悩んでいたところ、リーンハルトがやってきた。
「タロウ。お待たせ」
「オカエリ」
タロウがしゃべった!って顔で舐め犬受付さんがこっちを見ている。
コミュ障舐めんな。
リーンハルトはひげが消えていた。ひげが無いと驚くほど年相応でさわやかだ。先ほど指先に唇が触れる柔らかさを思い出して目を反らす。俺の隣に来るとリーンハルトはため息を吐いた。
「すみません。恋愛休暇中でしたが、どうやら魔獣が増えて人手が足りないみたいなんです。1週間ほど討伐に出ることになりました、一人になっても浮気しないでくださいね」
リーンハルトを見上げると、困ったように笑っていた。
「俺の本命は布団で、浮気相手はお前だよ」
リーンハルトはにっこりと笑って俺の手を握った。なぜか、嬉しくてたまらないという顔をしている。
「浮気相手ってことは、俺のこと少しは思ってくれてるってことですか?」
さっきのは失言だった。ってかお前、俺って素が出てるぞ。悔しくて唇をかんでいると、指を絡めるように手を握られた。
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