召喚勇者はにげだした

大島Q太

文字の大きさ
上 下
12 / 29

12. シストルの街で

しおりを挟む
久しぶりに来たシストルの街は、以前より人が多かった。リーンハルトも同じようにキョロキョロと辺りを見回している。


「すみません、ちょっと情報をもらいに聖教教会に寄っても良いですか?」


「お好きにどうぞ」


俺はコインを抱きしめながら手を振る。

「その手の振り方だと、追い払うみたいで、なんだか嫌です」

細かい奴だ。追い払うみたいじゃなくて、追い払ってんだ。ちらりと見返すと、リーンハルトは手を取って指先にキスした。急なことで声も出せず目を見開いて固まる。リーンハルトは良い笑顔だ。

「用事が終わったらクランまで迎えに行きますから待っててくださいね」

笑顔につられてコクリとうなずく、リーンハルトはさっさと雑踏に消えて行った。


唇って柔らかいんだな、ひげがくすぐったかった。月並みな感想が頭をよぎって、コインをぎゅっと抱きしめた。コインが身じろいでクォッと鳴いた。



舐め犬受付さんに薬草を持っていくと、いつもより高く買ってくれた。


「今、西の辺境で魔獣が増えてんだよ。だから冒険者が詰めかけてて。需要があるから買取強化中でな」

「……ん」


そして、いつもの癖で冒険者クランの壁に貼ってある勇者の手配書を眺めた。懸賞金の額が上がっている。


「あぁそれな。魔獣王が怒ってるって話だ。魔獣王を倒せるのは勇者様だけだ。だから早急に見つけて対処しないと……」


魔獣王……どっかで聞いたな。あぁ!目隠し好き魔法おじさんが言ってた。


「とうとう人さらいも出たそうだ。肝心の勇者様は魔獣王が怖くて逃げたらしいし、いよいよ王宮からも討伐隊がくるそうだ」


いや、いきなりのボーイズラブ展開がイヤで逃げたんだけど。舐め犬受付さんに言っても仕方ない。


王宮の討伐隊ってあの王子三人組も来るんだろうか。それだとめんどくさいな。

勇者の腹立つ似顔絵に鼻毛を書いてやろうか悩んでいたところ、リーンハルトがやってきた。


「タロウ。お待たせ」

「オカエリ」


タロウがしゃべった!って顔で舐め犬受付さんがこっちを見ている。

コミュ障舐めんな。


リーンハルトはひげが消えていた。ひげが無いと驚くほど年相応でさわやかだ。先ほど指先に唇が触れる柔らかさを思い出して目を反らす。俺の隣に来るとリーンハルトはため息を吐いた。


「すみません。恋愛休暇中でしたが、どうやら魔獣が増えて人手が足りないみたいなんです。1週間ほど討伐に出ることになりました、一人になっても浮気しないでくださいね」


リーンハルトを見上げると、困ったように笑っていた。


「俺の本命は布団で、浮気相手はお前だよ」


リーンハルトはにっこりと笑って俺の手を握った。なぜか、嬉しくてたまらないという顔をしている。


「浮気相手ってことは、俺のこと少しは思ってくれてるってことですか?」


さっきのは失言だった。ってかお前、俺って素が出てるぞ。悔しくて唇をかんでいると、指を絡めるように手を握られた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!

小池 月
BL
 男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。  それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。  ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。  ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。 ★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★ 性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪ 11月27日完結しました✨✨ ありがとうございました☆

処理中です...