召喚勇者はにげだした

大島Q太

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4.インフラは聖剣で

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あれから1年。城から逃げた俺は山間部に身を隠している。

街に住むという選択肢はなかったので、山の斜面に穴を掘って生活している。

聖剣って言うのはすごいな。最初は木の枝で横穴を掘っていたが、試しに聖剣を使ったところ、三日でワンルームの洞穴を作ることができた。庭付き1K 八畳で キッチン バス トイレ外だ。最寄りの街まで徒歩2時間の好立地。
それに聖剣ってダウジングもできた。井戸が欲しいと念じると剣が飛び出して土に突き刺さる。そこを掘るとちゃんと水が出てきたのだ。塩ビ管代わりに竹みたいな木を刺して井戸っぽくしている。詳しいつくり方は魔導書参照。

聖剣は縦にも大きいし、刃幅も広くてかさばるし。夜中とか勝手に光ってるから、ハッキリ言って邪魔だった。早々に売ろうと思っていたが意外に使い勝手がいい。
異世界インフラ整備に聖剣はマジでオススメだ。


外貨はもっぱら薬草採取だ。お金になりそうな薬草を摘んでは麓の街 シストルで売っている。このシストルは国境の魔獣退治などで栄えた街だ。おかげで俺の持ち込む薬草は需要が高いため高く売れている。これは鑑定スキャンの加護が役に立っていた。水菜と春菊が同じに見える俺にも、鑑定スキャンの加護はちゃんと相場と名前付きで教えてくれる。

困ったら有名なアニメ映画を真似て、聖剣で空飛ぶ宅急便でもしようかと思ったが、わりと何とかなっている。


ただ、麓の街に行くのは週に1度と決めている。下手に交流するとその人のステータスが四角い板に出てきて、知りたくもない情報が見えてしまって気まずいからだ。
例えば、定食屋の主人は料理上手で話し上手。快活な性格で俺みたいな流れ者にも優しくて良い人だった。どんな料理がこの世界にあるのか知りたくて仲良くなったのだが。名前を聞いたとたん右上に「トト:緊縛 種付けプレス」と出た時には、お手と言われたハムスターくらいにきょとん顔になった。


それ以降も冒険者クランの受付のおっさんとか。街で知り合ったかわいいこ♂も名前を知るだけで見えちゃいけないものが見えてしまう。鑑定スキャンのこのBL特化能力はまじでいらない。呪いでしかない。

街の通りを歩いていると、タローと呼ぶ声が聞こえた。
振り返るとサバラがいた。1年前、初めて交流した第一街人のサバラ「サバラ:拘束 抱き上げ」だ。サバラってかわいらしい顔で被虐趣味らしい。また、空を見上げると鳥が飛んでいる。
彼との出会いを思いだして気が遠くなる。
干し根っこ(ちょっと甘い)をかじりながら街を散策していたら、角を曲がったところでサバラとぶつかった。そして運悪く俺は前につんのめり顔をうずめていた。サバラの股間に。
ラッキースケベ!
女神め。歩く猥褻物になってしまう。だが、それがきっかけで彼とは仲良くなれたのだから良かったのか。

俺が意識を飛ばしていると、サバラが心配そうにのぞき込んでくる。
「タロー冒険者クランに行くの?」
「あぁ、サバラは?」
「おつかいだよ。香草を買いにね。今日の晩御飯はボアを焼くんだ。それでタローを見かけたから誘おうと思って」

サバラはにっこり笑って俺を見つめてくる。
ボアは豚肉っぽいやつだ。残念ながら現代日本から来た俺はどんな小さな獣魔であろうと狩りができない。命大事に! どうしても素材と見つめあうと素直にお食事できないのだ。
魚以外の動物性タンパク質……食いてえ!俺が顔芸を披露しているとサバラが笑う。

「お、乗り気だね。じゃあ、用事が済んだら家においでよ」
「……分かった」

サバラは手を振りながらそのまま去っていった。やった、豚肉!豚肉!俺はさっさと用事を済ませるために冒険者クランに入った。
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