召喚勇者はにげだした

大島Q太

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召喚は突然に

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俺は真っ白な場所に一人座っている。


座っているから床だと分かるが、壁も天井も真っ白で広いのか狭いのかも分からない不思議な場所だった。
目の前には映画館のように俺の20年間の人生が投影されていた。



俺には幼馴染がいた。

家が隣同士で同い年。物心ついたころにはいつも一緒にいて、小学校の高学年に上がるころには恋愛の意味で好きだった。
中学ではちびで目つきの悪い俺。ひょろっとした大人しい幼馴染は教室の隅で陰キャと呼ばれながらも楽しく過ごしていた。あいつと進路を合わせ同じ高校へ受験したりもした。
だが高校にあがると女子の目が変わる。それまで、ひょろっとして大人しかった幼馴染は、華奢で落ち着いてると評価が上がり王子と呼ばれてモテるようになった。男としかつるまないところが硬派だとどんどんと好意的に見る人も増え交際範囲が広がって行った。

そうなるといつも隣にいるイケてない俺が目障りになって来たみたいだ。一緒に帰る約束も違う約束で無くなったり、とりまき女子に嘘を吐かれてすれ違う日々が続いた。

あれは高二の夏の終わりだった。放課後、人気のない社会準備室に呼び出された。のこのこ出かけたのは久しぶりに幼馴染が話があると言って来たからだ。だが、待っていたのは3人組の女子で、俺を見るなり幼馴染から離れるように言ってきた。どうやら3人組の中の一人が幼馴染の彼女になりたいそうだった。同じ人を好きだったからだろう彼女は俺の気持ちに気付いていた。
「あんたがホモだって知ったら、幼馴染はなんて思うかな」
あからさまに喧嘩を売られたのは分っていたが、我慢できなかった。
幼馴染をとられる焦燥感にかられて、椅子をなぎ倒し派手な音を立てつめよる。女子の胸ぐらをつかむと、ブラウスのボタンが派手に飛んだ。女子はニヤリと顔を歪ませると、悲鳴を上げた。タイミングよくドアが開き幼馴染が現れてその女子をかばう。

「お前最低だな」

とあいつは俺を睨んだ。何度も違うと叫んだが、信じてくれる者はいなかった。
世界が崩れていくような気がした。
俺の罪状は暴行、停学になった。そのまま登校拒否。留年。退学と転がるように落ちて行った。



そしてこの場所に飛ばされたあの日。
俺は自分の家の門の前で3年ぶりに幼馴染とばったり出会った。
あいつは俺を見て驚いた顔をした。すぐそこのコンビニに行くからまあいいやと、髪もぼさぼさだし。ブルーライトカットの眼鏡もかけたままだ。服だって上下スウェットでおしゃれさもなかった。俺がどん底だと体現するような恰好だった。一方、幼馴染は明るい髪色に、整えられた眉毛。シンプルなシャツは幼馴染に良く似合っていた。どこからどう見てもかっこいい大学生だった。


幼馴染は俺を門の裏に押し込むと頭を下げた。
「あの時はごめん」
そのごめんはお前のオナニーだろ、いまさらだ。

心で毒吐いてそっぽを向いた。俺が答えないでいると幼馴染は言い訳を始める。幼馴染の声は震えていた。この3年放っておいて、いまさら偶然会ったからって、ごめんの一言で済まそうとしていることに腹が立ってきた。俺はコイツのどこが好きだったんだろうな。
プツンと世界にもこの幼馴染にも執着の糸が切れた気がした。

「お前なんて信じてなかった。どうでもいいや」

俺の絶望を可視化させたように、黒い靄が辺りに湧き始めた。あいつは黒い靄に覆われている俺を見て驚いた顔をした。そして、手を伸ばして俺をつかもうとする。
だけど俺はその手を避けた。あいつが傷ついた顔でこちらを見ている。ざまあ見ろと思った。


ああ、何度見ても胸糞悪い。

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