僕らに宇宙は狭すぎる

大島Q太

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新しい家族が増えました。

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目が覚めると部屋の中が明るくなっていた。気付いたロイロイさんが頬を撫でる。

『ティティ。大丈夫?どこも痛くない?』

声が不安で震えている。俺はにっこりと笑って頬を撫でるロイロイさんの細長いものに唇を寄せた。

「おはようございます。昨晩は…ハチャメチャでした。でも、すごくドキドキして。ふわふわしてぎゅんぎゅんして…それでロイロイさんが大好きって思いました」

ロイロイさんがふるふると表面を揺らした。俺はまたなだめるように笑いかけた。

『ティティ。あなたは本当にステキな子だ。私も大好きだよ』

ロイロイさんが俺の口にひょろひょろと伸ばして舌を撫でていく。俺はそれに答えてチュッと吸って舌を絡ませる。

『ティティ…これからも私と暮らしてくれる?』

「ロイロイはん…」

『ティティ、この生活が終わっても私と一緒に暮らしてほしい必ず迎えに行くから』

「もひろん」

口から抜けないロイロイさんのせいで気の抜けた返事になってしまったけど。俺にペロさんみたいな立派なしっぽがあればぶんぶん振っているほどに興奮して返事をした。



そして、3か月間のお試し期間が終わりいったん俺たちは別れた。



俺はまたペロさんの家にいる。あれからほどなくして、第2回宇宙間お見合いパーティーの開催も決定したそうだ。次は母さんが参加すると宣言していた。母さんにも幸せになって欲しい。



必ず迎えに行くと言ってくれたロイロイさんだが、別れてから2か月も連絡が取れなくなっていた。

俺は行灯をロイロイさんがわりに眺めながら我慢したがやっぱり何かおかしいと思い始めた。

思い切って職場に行くとロイロイさんはお休みしていた。さらにあの同僚さんは実はものすごく嫌な奴だった。ロイロイさんを探す俺の邪魔ばっかりする。

結婚もしてないのに職員の個人情報は教えられないと言って俺を追い返そうとするし。ロイロイさんが今どうしているかさえも教えてくれない。あげくの果ては身を引いてロイロイさんを僕に任せろとさえ言ってきた。

こいつ、ロイロイさんに惚れてやがる。俺はその同僚は敵認定した。


だけど負けてはいられない。彼がいない時を見計らって再度ロイロイさんの職場を訪れた。

すると割と簡単にロイロイさんの居場所が判明した。そこはお隣の星、火星支部の宇宙ステーションだった。ロイロイさんは入院していた。

俺は2か月ものんきに待ってしまった。後悔が押し寄せる。



もし俺がちゃんとロイロイさんと婚約していたら、入院すれば真っ先に知らせが来たのに。どうしてあの時簡単に別れてしまったんだろう。すぐに会えると簡単に思っていた。ロイロイさんの職場も俺の家も分かっていたからこんなことになるなんて思わなかった。すぐに迎えに来てくれると何も約束しないまま別れてしまった。


火星宇宙ステーションの病室の前まで来て一瞬ためらったが扉を叩いた。すぐに『どうぞ』と中から声がした。懐かしいロイロイさんの声だった。


ベッドの上には丸くぽよぽよとまどろむロイロイさんがいた。

『ティティ…』

俺は駆けてロイロイさんに抱き着こうとしたら、やんわり拒否された。

「ロイロイさんはもう俺のこと嫌いになった?」

病人相手に責める言葉がついて出て慌てて唇をかんだ。


『ティティ…やっと来てくれた。逢いたかったよ、ティティ』

「ロイロイさん、俺も逢いたかったよ」


ロイロイさんはきょときょとしている。


「どうして、すぐに連絡をくれなかったの?」


『あれ?ティティ聞いてない?あいつに伝言してすぐ知らせるようにしたんだが』


「くっそあの同僚か―!!」

俺はロイロイさんの前なのにペロさんが怒った時の真似をして床をだんだんっと踏んだ。


「ロイロイさんが迎えに来てくれなくて、何度か職場に行ったんだよ。だけど、あの同僚さんにまだ家族じゃないから個人情報は教えられないって追い返されて。だから、あいつがいない時に他の同僚さんに聞いてやっとここにいるって教えてもらえたんだ」

ロイロイさんが表面を小刻みに振るわせ始めたこれは初めて見る反応だ。


「ねぇ、ロイロイさん。何の病気なの?怖い病気?」


ロイロイさんが俺の頬を撫でながら赤くポツリと光った。

『病気では…ないんだ。だけど、安静が必要でね。さっきみたいに勢いよく抱き着かれると母体が揺れるから子供を驚かせてしまう』

俺は小首をかしげた。 安静…母体…子供!?

「俺のこども・・・!」

ロイロイさんは内部爆発をさせてシュワシュワしだした。

『あぁ、ティティの子供だよ。ここをご覧。私のコアの横にもう一つ丸いものが見えるだろ?」

ロイロイさんの水晶のような半透明の体の中心。その横にこぶし大の丸いものが見えた。

その丸いものはロイロイさんのコアの横でぽよぽよと動いていた。

「あ…あ…あ…あ゛ぅー」

俺は床に座ってわーわー泣いた。こんなうれしいことは無い。俺の好きな人が俺の子供を身ごもってる。

「ロイロいひゃ・・ん。おでと家族になって」

ロイロイさんは細長く伸ばして俺の頬を撫でる。表面がピンクに染まってキラキラと光っている。

その色があまりにきれいで泣くのをやめて見惚れた。

『ティティ。もちろん、一緒になろう。あなたが来てくれなかった2か月は…せっかく子供ができたのにすごく心が沈んだ。急に子供なんて言うからあなたが引いたのかと。何度か伝言を頼んでも帰って来なくて』


俺はあの同僚を最低10発は殴ることを決めた。こんな不安な思いをさせるなんて許せない。


『こんなに喜んでくれてうれしいよ。ティティ、あなたとちゃんと約束しないで別れたことをすごく後悔したよ。だから、今度こそ私の家族になってちゃんとあなたに私のことが伝わるようにしたい。会いに来てくれてありがとう』


「当たり前だよ!当たり前!俺はロイロイさんが大好きなんだから」

俺はコクコクとうなずいて、できるだけ優しく潰さない様にロイロイさんを抱きしめた。


その後俺が側にいることでロイロイさんはみるみる回復して退院することができた。


俺は結婚報告がてらあの同僚を訪ね、殴ってロイロイさんに謝らせた。珍しくロイロイさんも怒っていた。ずっとロイロイさんのことが好きだったと泣きじゃくる彼はちょっとかわいそうだったけど。俺は譲れないから第2回宇宙間お見合いパーティーに参加する様に助言した。


そして、ロイロイさんは火星の季節が灼熱の春になった頃。まんまるの赤ちゃんを産んだ。ロイロイさん似のかわいい子だ。ロイロイさんは性別と言うのを持たない。この子は男の子であり女の子になる。ぽよぽよと揺れるところがすごくかわいい。


俺は相変わらず嫁の仕事を頑張っている。


ペロさんはマロさんとの間に4頭の子供が生まれた。見るからにかわいらしい将来有望そうな子供たちだった。俺たちの子供も孫ができたと喜んでくれた。子育てで忙しいからまだ会えてないが映像通信ではデレデレとした顔をして俺たちの子供を褒めていた。


母さんと同僚さんが参加したお見合いパーティーがどうなったかは聞いてない。


だけど、皆俺達みたいに幸せになって欲しい。


「モロッニヨラシオネシタンハポハポロンベーショコフェドルギーロイロイさん、あなたと出会えてよかった」

『モロッニヨラシオネシタンハポハポロンベーショコフェドルギーティティ。私のかわいい子。それにモロッニヨラシオネシタンハポハポロンベーショコフェドルギーロイロイココリセルワントもいて。私は本当に幸せだ』


子供を抱く俺を大切そうに抱きしめてくれた。

そして、またロイロイさんはコアを二つ持っている。来年また生まれる予定だ。次は俺に似た子を産んでくれるそうだ。
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