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四つ目の玉の彼は先導されながら俺の隣に座った。よく知ったパシパシという音が小さく聞こえてくる。思わぬところで確信を得てしまったことに笑ってしまう。どうやら彼も緊張して落ち着かないたみたいだ。
ドンドコドコドコと太鼓が鳴り響く。アーリムさんが出てきてナミルの被せられた袋と面布を取った。ぴょこりと現れた丸い黒い耳がぴくぴくと動いた。今日は頬のところまで青い蔦模様が伸びて着ていた。続いて俺の袋と面布もとられた。ゆっくりと目を開けて前を見ると、様々な耳やしっぽを付けた人たちがこちらを見ていた。驚いてまばたきの回数が増えてしまう。と、ウォーという野太い歓声が響いた。俺は目を見ひらいたまま固まった。だって、怖いじゃんか。だが同じくらい目を見開いて彼らもこちらを見ている。
「すごい」とか「本当に透明だ」とか口々に感想を言っている……そうだ、この人たちも魔力の色が見えるんだった。そして、透明ってばれてる。こいつ童貞処女だなって気付かれている。思い当たると頭の先から煙が出るんじゃないかくらい顔が熱くなった。

「マナトのファルハは俺だ」

声がした方にぎこちなく顔を向けるとナミルが蕩けるような笑顔でこちらを見ていた。なんだその顔、惚れさせる気か。緊張したのがバカらしくなってきた。

「ではナミル・サバハ マナト・ヤーシュ様の手を取り前へ」

ナミルが立ち上がり俺に手を差し出す。俺はそれを取って立ち上がった。アーリムさんが先導して真っ白なひげのおじいさんの前まで進む。
「こちらはこの集落の酋長リフヤ様です、我々は番う事を族に誓います。マナト様、誓いはあなたの言葉で行う必要があります一度言語の魔法を解かせてください」
アーリムさんがそう言うとあの透明な石を俺の唇に押し当ててきた。するりと何かが抜けた気配がしてアーリムさんたちの言葉が分からなくなった。
「ファルハ…」
ナミルが俺に向かって言う。『ファルハ』 何度も聞いてきた言葉だ。酋長のリフヤさんが歌を歌いだすと皆静かになる。何を言っているのか分からないからドキドキしてナミルとつなぐ手に力がこもった。ナミルが親指でなだめる様に俺の手をさする。リフヤさんが何かをナミルに言うとナミルは大きく「ナァー」と叫ぶ。そして、俺に向かって歌うように話しかけてくる。言葉の意味は分からない。リフヤさんの歌が止まって俺をじっと見つめてきた。だけど、答え方は知っている。「誓います」そう言うと、固唾をのんで見守っていた獣人の人たちが歓声を上げた。ナミルは俺の腰に手を回して抱き上げるとキスで唇でふさぐ。俺が口を開けるとナミルの舌が俺の咥内を撫でる。唾液と温かなものが流れ込んできた。さっきまで歌のように聞こえていた歓声が日本語になった。皆は口々におめでとうと言ってくれていた。
「では二人とも腕を出しなさい」
リフヤさんが咳ばらいをしながらこちらに声をかけてくる。ナミルはしぶしぶ口を離したがしっぽが俺の腰に回っている。ナミルと手を繋いでリフヤさんの前に差し出すと手首に糸を巻かれた。横に控えていたアーリムさんがリフヤさんにティーポットのようなものを手渡す。
「この糸は二人を繋ぐ糸です、二人が離れないようにその糸を清めます」
糸めがけてポットの中の液体をかけた。
「これは聖なる山の湧水から汲んできた清めの水です。これで二人は正式にこの集落の新しい番と認められました。さあ、ナミル」
ナミルはうなずくと手のひらからゆっくりと俺に向かって魔力を流してくる。手の甲から、手首、腕へと紺色の蔦模様が上っているのが見えた。温かさを伴うそれは、布で見えないが肩から心臓を通って腹で渦を巻く。そして、つま先までいきわたる。ナミルの方を見ると俺の手の甲に浮かんだ蔦の模様を眺めていた。ナミルの腕に描かれた蔦模様と対になるような形に変化していた。
「手首の方を見てみてください」
アーリムさんがにっこりと笑って促す。手首が見えるよう手の平を上に向けると手首の方には蔦の先に花の蕾が描かれていた。ナミルの方にも同じように蕾が描かれている。
「この蕾は二人の花です。どんな花が咲くか楽しみですね」
ナミルは蕾の意味を分かっているらしい。感極まったように俺の蕾を撫でてそこに何度もキスをする。コホンとまた、リフヤさんが咳ばらいをする。
「二人は正式な番となった。花が枯れるまで添い遂げよ」
歓声が沸いてドーンという太鼓が鳴り響くと獣人たちが足を踏み鳴らし始めた。腹に響く重低音に驚いてナミルにしがみついてしまった。ナミルはそれに答えるようにガオーと初めて聞く獣っぽい声をあげた。

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