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ドーンという太鼓のような音が響いて目の前に感じたざわつきが歓声に変わる。
「これから逢瀬の儀式に入る、希望する者は前へ」
太鼓がドンドコと鳴る中で数名が前に出たようだ。そして、一人ずつ俺の前にある台まで進み出てはコツリという堅いものを板の上に乗せるような音が響いた。全部で7回……割と冷静に数えていた。その音が落ち着くと天蓋があげられた。またわっと歓声が上がる。アーリムさんが俺の前に玉の乗ったお盆を持ってきた。その玉はすべて無色透明だ、色で判断できないかと期待したがそれは無理のようだった。
「ではマナート・ヤーシュさま。一つずつ手に取ってみてください」
声がした方を見ると真っ白なひげをあごにたくえたおじいさんがこちらを見てうなずいていた。アーリムさんが手に取る様に促してくる。玉は全部で7つ……。これに願いをかけたらシェンロンとか出てきても俺はたぶん驚かないと思う。7つの玉の持ち主たちは身体的な特徴を隠すためか俺と同じように真っ白な布を身にまとい。真っ白な袋を被っていた。体格の大きい小さいはあるものの誰が誰かは分からないように隠されていた。
一つ目の玉。静かな波を感じた。だが、ねっとりとくっついてくる感じが水あめのようだ。
それを離して次のをつかむ。
二つ目の玉。柔らかだが芯のある感じだ。ふわりと震えて空気に溶けていくようだった。
三つ目の玉。デコボコの多い硬い感じだ。握るとぎゅうっと小さくなってしゅっと消える。
四つ目の玉。ゴムボールのように手のひらを押し返してくる。ぽよんとリズムを刻むのが踊っているようでかわいい。
五つ目の玉。つるりとした玉だった。表面がパチパチと炭酸のように弾けて消える。
六つ目の玉。冷やりとした水の玉のように感じる。しゅわりと溶けてなくなってしまった。
七つ目の玉。これも少し冷たい、花びらみたいな優し気な冷たさだ。風を纏って渦巻いている。

俺が7つすべての感触を確かめたところで見守っていたアーリムさんが玉を何個かしまった。たぶん、俺の手のひらの上で気配を消してしまったものは候補から外れるらしかった。その玉の持ち主であろう四人が後方に下がっていく。
これで、ナミルの玉が残っていなかったら……俺は伏せていた目を前に向ける。残っている人は三人。ナミルが残っているかは分からない。
目の前には一つ目の玉。四つ目の玉。七つ目の玉が残っていた。その玉の魔力の持ち主である三人が跪いている。俺は三つのうちからもう一度、握りしめて一つ目の玉を候補から外した。
そして、四つ目の玉と。七つ目の玉を両手に持って目を閉じる。玉選びに集中しなければならないのに、思考があっちこっちへ飛んだ。
右も左も分からないところへ転移させられて、知らない人たちにお世話される。それも4日経つと結婚の儀式だと伴侶を選ぶために、こんな大勢の前に担ぎ出されるのだ。見えもしない魔力というあいまいなものに運命を預けて一生を共にする人を選ぶなんて、どうしてそれを受け入れたんだろう。

誰にもちゃんと愛されたことがない俺が愛され続けることができるのか。後ろ向きになる心に沈みそうになる。いつも逃げてばっかだった。踏み込まないことで自分を守っていた、それで良いのか。

……ナミルは俺を大切にしてくれた。一生懸命に世話をしてくれた。この世界を受け入れられたのは相手がナミルだからだ。ナミルは全身で愛情表現をしてくれるすごい奴だ。

俺は手の中の玉を握りしめてもう一度魔力を感じて見た。迷う必要なんてなかった。ナミルの魔力が冷たいわけがない。俺と一緒にいる時はあんなにはしゃいだ様子で、しっぽなんてパタパタしてじっとしてなかった。抱きしめてくる腕はいつも苦しいくらいで、それが居心地が良くてあったかくて安心した。どっちが彼かと言われれば間違いない。

……四つ目の玉だ。

俺がそう心で唱えると一つ目の玉は手の中で気配を消した。そして、四つ目の玉は手のひらに溶けて俺の体の中を駆け巡った。……知った感触だった。並んでいたうちの一人が後方に下がっていく。
ドーンという大きな音で太鼓が鳴る。

「逢瀬の儀式により、落ち人マナト様のファルハが決定した」

また力強くドーンという太鼓が鳴る。

「では、四つ目の玉の主よ、御台にあがりなさい」
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