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第二幕 道化達のパーティー
夜会に行こう
しおりを挟む「レナウス様、帝国史の宿題は終わりましたか?」
「先生。それよりもドレスはもう選びました?」
レナウスの私室は貴族らしく豪奢な物だったが、装飾刀などの部類の物は無く本やボードゲームの類の玩具が沢山飾られてあり、エリアリスもその玩具で良くレナウスとゲームをしていた。そんな部屋の窓際の机に座り課題をこなすレナウスはチラリと少し離れた椅子に座るエリアリスに声を掛けた。
「ドレスですか?何故ですか?」
「え?だって先生も再来週の皇太子の夜会行くでしょ?」
「……夜会ですか?いえ、私は行きませんよ?」
「は⁉︎嘘っ!そんなのダメだよ!」
「実家に招待状が届いていたとしても妹が出るのでは無いでしょうか」
「えぇっ‼︎ちょっと、先生待ってて!」
「レナウス様?」
皆様!ご無沙汰していますレナウスです!信じられません!まさか兄上がもう直ぐ開催される誕生会に先生を誘っていないなんて事があり得るのでしょうか?デートをするにだって互いに予定を立てて承諾を得るのにですよ?帝国最大の祝い事に参加するのにその参加意思も聞かずに勝手に先生と行く気になっているなんて!こうなったら恋愛では一歩先を行く僕が兄上に教えてあげなきゃ!
「兄上‼︎」
「レナウス?」
「あら、レナウス。今は授業中なのでは?」
「兄上もメリーも!ちょっとどういう事なんですか!」
レナウスの焦る顔を見て、ウィリアムとメリーは顔を見合わせて何事か?と考えた。しかし、思い当たる節も無くレナウスを見て手に持っていたカタログをテーブルに置いた。
「何だ。何があった」
「何だじゃないですよ!今度の皇太子の夜会!先生を誘ってないって本当ですか?」
「何を言っているレナウス。誘っていないなんて事ある訳……」
「先生は行かない、招待状が実家に届いていたら先生の妹さんが参加するって言ってますよ⁉︎」
「「はぁ⁉︎」」
メリーはウィリアムを、まさかそんな筈は無いだろう?といった顔で見ていて、ウィリアムはメリーを当然お前が声を掛けているんだよな?そんな顔で見た。
「嘘……兄様。エスコート役をするって伝えてないの?」
「お前……シャペロンとして参加させると言ってなかったか?」
「あ、兄様……わ、私、当日仮病で欠席予定にしますわ!急いでエリアリス様に私と共にドレスを見立てに行く様に行ってくださいまし!」
「あ、あっ!あぁ!分かった」
互いにそっちがどうにかするんだろう。そう任せっきりになっていた事を理解した。そして2人は顔面蒼白となり席を立つとメリーは侍女に出かける準備をさせ、ウィリアムは慌てて部屋を後にした。
「はぁ。信じられないよ……本当に先生と上手く行きたいのかなぁ」
レナウスは溜息を吐くとソファに座り、ウィリアムが眺めていたカタログを手にした。
「あ、この色エヴァンに似合うかも!揃いのタイとかやりすぎかな?」
レナウスは、まぁどうにかなるだろう。そう思いながらページを捲った。
いかん!いかんぞ!パーティーでエスコートするつもりであったのに!これでは何の為に悪魔からダンスを習ったのだ!悍ましい……もしもエリアリス殿が行かない。なんて事になればあの会場でメリーの手を取り踊るだと?最悪だ!
「エリアリス殿!宜しいか?」
「ウィリアム様?」
レナウスが戻るのを待っていたエリアリスは、非番のウィリアムがまさかレナウスの部屋を訪れるとは思わず慌てて席を立ち扉を開けた。そして、顔面蒼白となったウィリアムの顔を見て、慌ててその頬に触れた。
「如何されたのです⁉︎そんな真っ青なお顔をして!」
淑女の嗜み、塗り香のふわりとした甘みのある花の香りがエリアリスの手首から香り、ウィリアムは眉を下げ心配した顔で見上げるエリアリスの顔を見てドキリとした。ガヴァネスとなってから、バッスルドレスでは無く既婚もしくは寡婦となった女性が身に纏う様なストレートラインのドレスを着るようになったその姿に、華やかな美しさでは無く、落ち着きのある柔らかで包み込む様な美しさをウィリアムは感じた。
「‼︎」
「ウィリアム様……何かあったのですか?」
「いやっ‼︎……その」
「?」
不思議そうな顔で首を傾げるその姿。立ち振る舞いや格好は淑女然としているのに、まだあどけなさの残る飾りっ気のない顔をウィリアムは見つめられなかった。
「なんだ……その……夜会の事なのだが」
「あ、はい。先程レナウス様から伺いましたが、参加するつもりはございませんよ?」
「いや、あの……わ、私は当日メリーに付きっきりにはなれそうに無くてな、もし良ければメリーに付き添っては貰えないだろうか」
「私がでございますか?」
流石に無理があるか?夜会に行ってパートナーをほったらかす様な無粋な男に思われただろうか。どう言い訳すべきだろう?
「そ、その……当時警備に途中駆り出される可能性が高くてな……」
「まぁ!折角の夜会ですのに」
幾ら軍人とは言え、爵位を持つ参加者が当日警備に回されるという事などあり得ないが、事情を良く知らないエリアリスはウィリアムの吐いた咄嗟の嘘を疑ってはいない様であった。
「あぁ、シャペロンとして参加して貰いたいのだ」
「私がシャペロンですか?私の方が年下ですが……」
「だが、社交界の経験は貴方の方が経験豊かだろうから」
「ですが……」
そう、彼女は第二皇子の元婚約者だ。夜会に出れば口汚い者どもの餌食となるかもしれない。しかし、この機会にメルロート家が後援となっている事を知ればその様な噂は直ぐにでも断ち消えるだろうし、もし私とダンスをしている姿を見れば私のパートナーと考える者も出てくるかも知れない。そんな噂が立てば、彼女も少しは私の事を意識してはくれるのでは無いだろうか?
「頼む……メリーはあんな性格だ。皇太子の主催する夜会で何かしらしでかすのでは無いかと気が気ではないのだ」
「まさか。メリー様は立派な淑女ですよ……そんな事は」
そう言って、レナウスとエヴァンのガーデンデートをニヤニヤとしながら物陰から眺めては、何かしら悪巧みをしているであろう顔をしたメリー。ハウスメイドと従者の三角関係を暴いては首を突っ込み、口を尖らせ文句を言う彼女をエリアリスは思い出した。
「ふふ……」
苦笑いを見せるエリアリスに、ウィリアムは『だろう?』とでも言いたげに軽く笑って見せた。
「ですが、ドレスもありませんから……今からでは間に合わないかと」
「そこは任せてくれないか?」
「いえ、それは」
「あいつの相手をしてくれるならドレスの一着や二着、大した事では無いよ」
「ですが」
頼む‼︎頷いてくれ。
その美しい唇から『ノー』の言葉は聞きたくない。
私の希望を掛けた夜会に、君が居ないなんて事考えたく無い。
「貴女が居てくれたら、私は安心してメリーの手を離せるのだがな」
シュンとして、まるで散歩を断られたゴールデンレトリーバーの様な姿のウィリアムに、エリアリスは暫く考え込んでいたがコクリと頷いた。
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