38 / 39
第二幕 道化達のパーティー
戦争の機運
しおりを挟むその日、来月の舞踏会用にウィリアムとメリーが用意したエリアリスのドレスや宝飾品のフィッティングをどうするかでウィリアム達は揉めていた。本来ならば外商を来させれば良いだけなのだが、メリーはそれを利用しろと言った。
「お、おい!メリー!店まで行ったらエリアリス殿の美しい姿を店の者や客に見せる事になるではないか!」
「馬鹿ね兄様!フィッティングを言い訳にデートできるでしょ!ついでにあえて買わなかった靴を選んでくるのよ!」
「‼︎」
流石だ従姉妹殿‼︎そうか、その手があった!
だが、なんと言って連れ出すべきか?崖っぷちとは言え伯爵令嬢だ、店の者が屋敷に来るのは当然だと思っているだろう。
「従姉妹殿……して、どうやって店に直接出向かせる」
「そんなの外商担当が他に予定があるとか言えば良いじゃない」
「そ、そうか!では早速明日にでも!」
「急ね。今週の土曜日じゃダメなの?兄様非番よね?」
「いや、その日はモントール殿と予定がある。だから昼休憩に抜け出そうかと思っている」
「そう……土曜って、あの件ね」
「うむ。モントール殿と会う約束をした。あの後エリアリス殿の妹御が使者とお会いしたそうだが、やはりイーランの第四王子だったそうだ」
「マフェット様か~~‼︎あの人相手じゃオットー主任も勝てないなぁ」
「そんなにやり手なのか?」
「そうねぇ。あの人に掛かれば死人が生き返るって言う噂通り……潰れかけの企業ばかり買収して事業転換させた後その市場を独占するって聞くわ」
「そんなにか」
「まさか、皇妃と繋がってないわよね」
「それは無いだろう。繋がっていればエリアリス殿を婚約者に指名して鉱山を得るより第四王子に売った方が早いし、利益配分は変わるが毎月の売上は入ってくる。鉱山を得たとは言え膨らんだ借金返済には程遠いからな。単純に利益とテルメール家を得たかったのだろう」
「うーーん。マフェット様の目的はなんなのかしら」
「それはやはり武器弾薬の輸出だろう」
「だから商業権を取得したっていうの?だったらこの国の海運会社を買うか作った方が健全じゃない?潰れかけの企業を買収までして、武器の輸出なんてしたら当然目を付けられるでしょ」
「自国の目があったのだろう」
「どういう事?」
「あの国は身内同士殺し合わせて残った者を後継者にする。そんな国で他国で商業権を得た挙句に自身を旗頭にして企業なんてしてみろ。その国と手を組んだ、もしくは出奔や叛逆を疑われ王位継承権の剥奪や脱落に追い込まれる可能性もある……まだ買収の方が国内から見てみればマネーゲームを楽しむ放蕩王子と見られるだろう」
「何で買収の方が目を欺けられるのよ?起業も変わらないでしょ」
「大いに違う。世界の商業法で定められている物の中に、起業時において事業主及び代表者の国籍と起業地に相違があってはならない。というのがある。要は他国籍の者が他国で企業してはならないという事だ。もしも企業するならば国籍を変えて起業しろという事だな」
「え?でも他国の人がオーナーの店って結構あるわよね?」
「既に帝国民としての国籍を有していれば問題は無い。もしくは支店であるとかな……だが、金銭の流れや口座情報の全てが帝国管理局で毎日チェックされる。月末には商品点数に売上高、口座残高など店側への許可無く行われるからな。もしも、他国籍の者が帝国籍を持つ者を代表としたとしても、金が登録者以外に流れれば直ぐにバレる。王族なら尚更だ」
「でも、買収したらオーナーが変わるわよね?それに家の海運会社の経営者は代わったじゃない」
「今回は貴族と王族系譜間だから出来た事だ。爵位が保証書の様な物だ。一般的に買収で変わるのは株の保有率と採択権の取得だ。もし自国の企業を買収、もしくは譲渡するのであればオーナーは変わるがな……それより戦争を私は懸念している」
「……ケッセンドルドを落とすってこと?」
「そうだ。だから調べた……ここ5年で第四王子はケッセンドルドの企業を買収しまくってる。それに、事業主の出自を調べたらその多くがイーラン出身だという事だ」
「それって、どこの国でも戦争の火種があると言う事ではないの⁉︎」
「だから帝国では国籍取得のハードルを高く設定している。他国の平民では大凡国籍取得は出来ない。貴族3家門の承認もしくは伯爵家以上の貴族が後見人となる。もしくは2000カルーネ以上の担保金がなければならない」
「そういえば、兄様以前どなたかの後見人になってましたわよね?」
「あぁ。メルファディア•ガヴァドゥ•イーラン……イーラン王国第8王子だった」
「だった⁉︎」
「あぁ。今は名も母方姓に戻しローラン•ドブリュエラと名乗っていてもう長い事帝国民として暮らしている」
「え?まさかテルメール家に通い詰めてたのってその人?」
「まさか。あいつはここでパティシエとして立派にやってるよ」
「でも、マフェット様と関わりがないって言い切れるのかしら」
「そこは大丈夫だ。私の部署の諜報活動の一端をになってくれているのは彼だからな」
「えぇ⁉︎大丈夫なの?その人!」
「あいつは現イーラン国王から逃げてこの国にやってきた。陛下に助けを求めたのは他でもない私だしな」
ウィリアムはドレスのカタログをペラペラとめくりながら、エリアリスがそれらを身に纏った姿を想像した。そして、もしもマフェットがケッセンドルドに手を掛けようとしているのであれば、手を貸すのも吝かではないなと思った。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる