没落寸前の伯爵令嬢、トキメク恋愛世界の住人を観察する

咲狛洋々

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第二幕 道化達のパーティー

戦争の機運

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 その日、来月の舞踏会用にウィリアムとメリーが用意したエリアリスのドレスや宝飾品のフィッティングをどうするかでウィリアム達は揉めていた。本来ならば外商を来させれば良いだけなのだが、メリーはそれを利用しろと言った。

「お、おい!メリー!店まで行ったらエリアリス殿の美しい姿を店の者や客に見せる事になるではないか!」

「馬鹿ね兄様!フィッティングを言い訳にデートできるでしょ!ついでにあえて買わなかった靴を選んでくるのよ!」

「‼︎」


流石だ従姉妹殿‼︎そうか、その手があった!
だが、なんと言って連れ出すべきか?崖っぷちとは言え伯爵令嬢だ、店の者が屋敷に来るのは当然だと思っているだろう。


「従姉妹殿……して、どうやって店に直接出向かせる」

「そんなの外商担当が他に予定があるとか言えば良いじゃない」

「そ、そうか!では早速明日にでも!」

「急ね。今週の土曜日じゃダメなの?兄様非番よね?」

「いや、その日はモントール殿と予定がある。だから昼休憩に抜け出そうかと思っている」

「そう……土曜って、あの件ね」

「うむ。モントール殿と会う約束をした。あの後エリアリス殿の妹御が使者とお会いしたそうだが、やはりイーランの第四王子だったそうだ」

「マフェット様か~~‼︎あの人相手じゃオットー主任も勝てないなぁ」

「そんなにやり手なのか?」

「そうねぇ。あの人に掛かれば死人が生き返るって言う噂通り……潰れかけの企業ばかり買収して事業転換させた後その市場を独占するって聞くわ」

「そんなにか」

「まさか、皇妃と繋がってないわよね」

「それは無いだろう。繋がっていればエリアリス殿を婚約者に指名して鉱山を得るより第四王子に売った方が早いし、利益配分は変わるが毎月の売上は入ってくる。鉱山を得たとは言え膨らんだ借金返済には程遠いからな。単純に利益とテルメール家を得たかったのだろう」

「うーーん。マフェット様の目的はなんなのかしら」

「それはやはり武器弾薬の輸出だろう」

「だから商業権を取得したっていうの?だったらこの国の海運会社を買うか作った方が健全じゃない?潰れかけの企業を買収までして、武器の輸出なんてしたら当然目を付けられるでしょ」

「自国の目があったのだろう」

「どういう事?」

「あの国は身内同士殺し合わせて残った者を後継者にする。そんな国で他国で商業権を得た挙句に自身を旗頭にして企業なんてしてみろ。その国と手を組んだ、もしくは出奔や叛逆を疑われ王位継承権の剥奪や脱落に追い込まれる可能性もある……まだ買収の方が国内から見てみればマネーゲームを楽しむ放蕩王子と見られるだろう」

「何で買収の方が目を欺けられるのよ?起業も変わらないでしょ」

「大いに違う。世界の商業法で定められている物の中に、起業時において事業主及び代表者の国籍と起業地に相違があってはならない。というのがある。要は他国籍の者が他国で企業してはならないという事だ。もしも企業するならば国籍を変えて起業しろという事だな」

「え?でも他国の人がオーナーの店って結構あるわよね?」

「既に帝国民としての国籍を有していれば問題は無い。もしくは支店であるとかな……だが、金銭の流れや口座情報の全てが帝国管理局で毎日チェックされる。月末には商品点数に売上高、口座残高など店側への許可無く行われるからな。もしも、他国籍の者が帝国籍を持つ者を代表としたとしても、金が登録者以外に流れれば直ぐにバレる。王族なら尚更だ」

「でも、買収したらオーナーが変わるわよね?それに家の海運会社の経営者は代わったじゃない」

「今回は貴族と王族系譜間だから出来た事だ。爵位が保証書の様な物だ。一般的に買収で変わるのは株の保有率と採択権の取得だ。もし自国の企業を買収、もしくは譲渡するのであればオーナーは変わるがな……それより戦争を私は懸念している」

「……ケッセンドルドを落とすってこと?」

「そうだ。だから調べた……ここ5年で第四王子はケッセンドルドの企業を買収しまくってる。それに、事業主の出自を調べたらその多くがイーラン出身だという事だ」

「それって、どこの国でも戦争の火種があると言う事ではないの⁉︎」

「だから帝国では国籍取得のハードルを高く設定している。他国の平民では大凡国籍取得は出来ない。貴族3家門の承認もしくは伯爵家以上の貴族が後見人となる。もしくは2000カルーネ以上の担保金がなければならない」

「そういえば、兄様以前どなたかの後見人になってましたわよね?」

「あぁ。メルファディア•ガヴァドゥ•イーラン……イーラン王国第8王子だった」

「だった⁉︎」

「あぁ。今は名も母方姓に戻しローラン•ドブリュエラと名乗っていてもう長い事帝国民として暮らしている」

「え?まさかテルメール家に通い詰めてたのってその人?」

「まさか。あいつはここでパティシエとして立派にやってるよ」

「でも、マフェット様と関わりがないって言い切れるのかしら」

「そこは大丈夫だ。私の部署の諜報活動の一端をになってくれているのは彼だからな」

「えぇ⁉︎大丈夫なの?その人!」

「あいつは現イーラン国王から逃げてこの国にやってきた。陛下に助けを求めたのは他でもない私だしな」


ウィリアムはドレスのカタログをペラペラとめくりながら、エリアリスがそれらを身に纏った姿を想像した。そして、もしもマフェットがケッセンドルドに手を掛けようとしているのであれば、手を貸すのも吝かではないなと思った。








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