33 / 39
第二幕 道化達のパーティー
キラキラ輝く前に嵐の予感?
しおりを挟む
最近、出番の無かったアナスタシアです!秋も深まり、早朝はケープを羽織っても寒く感じる程です。そう、冬の到来を感じる季節だと言うのに、当家には春が訪れたり、一足早く停滞の季節、冬に突入した者達の地団駄が一日中響いています。
押しに弱いレナウス兄様はエヴァン様とのお付き合いを何とか解消しなくてはと頭で考えながらも、心は順調に惹かれている様ですし、いざメリー姉様とのラブラブごっこを実行しようと腹を括ったのに、何やら助言を兄様に与える人物が現れ、兄様の決意を鈍らせています。そして、甘い蜜のある方にフラフラと行ったり来たりのウィリアム兄様は一瞬でも良い雰囲気となったエリアリス様を口説けず、自分の不甲斐無さに私の部屋にまで聞こえる様な深い溜息をずっと零しているんです。とっても迷惑★さぁ、朝の打ち合わせが始まります。エリアリス様がもし普通の態度だったなら、今度こそ兄様は諦めた方が良いのでは無いかしら?
「はぁぁぁぁぁ」
「兄様……どんだけ臆病なの?」
「煩いぞ従姉妹殿」
「確かに、未だエリアリス様を恋愛モードに切り替えられてはいないけれど、それでも少しは意識させる事位はできるのでは無くて?」
「兄上、それはそうとマーカス様は何と仰ってるんですか?」
「マーカスか?そうだな……とりあえずデートの回数を増やせと」
「まぁ、偉そうに助言などと言って期待させておきながら普通の助言ね!そんな案で落とせるのならとっくに落ちてるし、兄様も落とせてますわ。それが出来ない兄様とエリアリス様が何回デートしたって無意味ですわ!」
唯一の参謀と自負していたメリーだったが、ここに来てウィリアムの腹心が現れた。顔には出さなかったが、内心では腑が煮え繰り返りそうであった。面白おかしいゴシップライフが始まる筈であったのに、万全の策はぬるりと始まり、未だ最初の一歩すら踏み出せずにいるわ、血湧き肉躍る様な高揚感も、お節介魂も沸騰出来ていない。
ぶつぶつと言い合う3人の言葉を横目に、アナスタシアはオレンジジュースをごくごくと飲み干した。そして、ナプキンをテーブルに置くと天井のシャンデリアを見上げ呟いた。
「一体……何がエリアリス様を怖がらせているのかしら?」
「「怖がる?」」
「うん。だって、レナウス兄様達のイチャイチャを見たり、日々兄様とメリー姉様の似非談笑を見ているし、しかも兄様の昨晩の行動は恋愛気分じゃ無かったとしても気付くはずよね……もしかしたらって」
「そうだよね。鈍感な僕だってもし隣のクラスの女子生徒がわざわざ教室にまで来て何があったの?大丈夫?なんて聞いてきたらそうなのかも?って思っちゃうかも」
レナウスはアナスタシアの顔を見ながらウンウンと頷くと、頬杖をついて考えた。やはり、婚約破棄が堪えたのだろうかと。
「怖いんじゃないかなって私は思うんだ。今の私達との関係が壊れる、もしくは領地に戻らなくてはならなくなる……まぁ何と無くそんな事をね」
「壊れるなんて事あります?だって兄様がこんなに好意を示しているのだから、嫌われてる、受け入れてもらえないかも。そんな風に受け取り様が無いじゃ無い。もしエリアリス様が兄様を異性としても、人間としても嫌悪しているのなら別ですけどそうでは無いでしょう?」
「だからだと思うんだよね」
「何がだ……教えてくれてアナスタシア」
「うんとねぇ……なんて言ったらいいかな。もしも先生が兄様が自分に好意を抱いてると思ってたとして、あの先生だから冷静になる瞬間が絶対あると思うんだよね。それで、その好意が自分の勘違いだったら?兄様の好きって気持ちがただの人としての好きだったら?そう考えたらさぁ、私だったら本気になった自分が愚かだって思うかもなぁ……でも期待しちゃう自分がいたりしてさ。だったらこのまま良い関係で居続けたい、いずれ兄様とメリー姉様の睦まじい姿を見て暮らすのなら、踏み止まろうって思うわ」
「何だアナスタシア。やけに話すな……後半話が入ってこなかったぞ」
むかっ!何なの?せっかく協力してるっていうのに!
本当兄様ってこういう人間関係の機微っていうのかしら?疎いを通り越して皆無だわ!何だか馬鹿らしくなってきたわ。
アナスタシアが、ウィリアムの言葉に苛立ち始めた頃。執事のヘイスが何やら手紙を数通プレートに載せて現れた。
「ご歓談中失礼致します。ウィリアム様、皆様にお手紙が其々届いてございます。エリアリス様宛の物もございますが、こちらはテーブルに置いておきますか?」
「あ、あぁ。そうしてくれ……俺に手紙?父上か?」
ウィリアムは金に縁取られた薄緑色の封筒、そして蝋印の紋章を見て慌てて封を切った。
メルロート公爵家 ウィリアム•メルロート様
御当主交代後、初めてご挨拶申し上げます。
私はエリアリス•テルメールが父、モントール•テルメールに御座います。この度は若き当主となられました事心よりお慶び申し上げます。また当家の長女、エリアリスを厚遇して頂いていると聞き及んでおりますも、ご挨拶も致しませんでした事大変失礼致しました。
早速本題を伝えさせて頂きます。実はこの度、両家所有の海運会社【モルフィリオ】に事業売却計画を持ち込んだ者がおりました。そして、その者は事業購入希望者の代理人だと申したのです。その希望者は売却の意思が明確となるまで名は明かせぬと言いつつ、前金として馬車三頭に分け運び込まれた1万ガルは下らぬ量の白金を持参して来たのです。
共同経営並びに運用管理をして頂いておりますウィリアム様に、いち早くお伝えせねばと筆を走らせました。
付きましては、今週末にでもお話が出来ればと思っております。ウィリアム様のご都合をお聞かせ下さい。
乱筆乱文、失礼致します。
テルメール伯爵家 当主 モントール•テルメール
元々がそうなのか、余程焦っていたのかは分からなかったが走り書きされた様なその手紙の筆跡と内容に、ウィリアムは直感的に危険を感じた。
押しに弱いレナウス兄様はエヴァン様とのお付き合いを何とか解消しなくてはと頭で考えながらも、心は順調に惹かれている様ですし、いざメリー姉様とのラブラブごっこを実行しようと腹を括ったのに、何やら助言を兄様に与える人物が現れ、兄様の決意を鈍らせています。そして、甘い蜜のある方にフラフラと行ったり来たりのウィリアム兄様は一瞬でも良い雰囲気となったエリアリス様を口説けず、自分の不甲斐無さに私の部屋にまで聞こえる様な深い溜息をずっと零しているんです。とっても迷惑★さぁ、朝の打ち合わせが始まります。エリアリス様がもし普通の態度だったなら、今度こそ兄様は諦めた方が良いのでは無いかしら?
「はぁぁぁぁぁ」
「兄様……どんだけ臆病なの?」
「煩いぞ従姉妹殿」
「確かに、未だエリアリス様を恋愛モードに切り替えられてはいないけれど、それでも少しは意識させる事位はできるのでは無くて?」
「兄上、それはそうとマーカス様は何と仰ってるんですか?」
「マーカスか?そうだな……とりあえずデートの回数を増やせと」
「まぁ、偉そうに助言などと言って期待させておきながら普通の助言ね!そんな案で落とせるのならとっくに落ちてるし、兄様も落とせてますわ。それが出来ない兄様とエリアリス様が何回デートしたって無意味ですわ!」
唯一の参謀と自負していたメリーだったが、ここに来てウィリアムの腹心が現れた。顔には出さなかったが、内心では腑が煮え繰り返りそうであった。面白おかしいゴシップライフが始まる筈であったのに、万全の策はぬるりと始まり、未だ最初の一歩すら踏み出せずにいるわ、血湧き肉躍る様な高揚感も、お節介魂も沸騰出来ていない。
ぶつぶつと言い合う3人の言葉を横目に、アナスタシアはオレンジジュースをごくごくと飲み干した。そして、ナプキンをテーブルに置くと天井のシャンデリアを見上げ呟いた。
「一体……何がエリアリス様を怖がらせているのかしら?」
「「怖がる?」」
「うん。だって、レナウス兄様達のイチャイチャを見たり、日々兄様とメリー姉様の似非談笑を見ているし、しかも兄様の昨晩の行動は恋愛気分じゃ無かったとしても気付くはずよね……もしかしたらって」
「そうだよね。鈍感な僕だってもし隣のクラスの女子生徒がわざわざ教室にまで来て何があったの?大丈夫?なんて聞いてきたらそうなのかも?って思っちゃうかも」
レナウスはアナスタシアの顔を見ながらウンウンと頷くと、頬杖をついて考えた。やはり、婚約破棄が堪えたのだろうかと。
「怖いんじゃないかなって私は思うんだ。今の私達との関係が壊れる、もしくは領地に戻らなくてはならなくなる……まぁ何と無くそんな事をね」
「壊れるなんて事あります?だって兄様がこんなに好意を示しているのだから、嫌われてる、受け入れてもらえないかも。そんな風に受け取り様が無いじゃ無い。もしエリアリス様が兄様を異性としても、人間としても嫌悪しているのなら別ですけどそうでは無いでしょう?」
「だからだと思うんだよね」
「何がだ……教えてくれてアナスタシア」
「うんとねぇ……なんて言ったらいいかな。もしも先生が兄様が自分に好意を抱いてると思ってたとして、あの先生だから冷静になる瞬間が絶対あると思うんだよね。それで、その好意が自分の勘違いだったら?兄様の好きって気持ちがただの人としての好きだったら?そう考えたらさぁ、私だったら本気になった自分が愚かだって思うかもなぁ……でも期待しちゃう自分がいたりしてさ。だったらこのまま良い関係で居続けたい、いずれ兄様とメリー姉様の睦まじい姿を見て暮らすのなら、踏み止まろうって思うわ」
「何だアナスタシア。やけに話すな……後半話が入ってこなかったぞ」
むかっ!何なの?せっかく協力してるっていうのに!
本当兄様ってこういう人間関係の機微っていうのかしら?疎いを通り越して皆無だわ!何だか馬鹿らしくなってきたわ。
アナスタシアが、ウィリアムの言葉に苛立ち始めた頃。執事のヘイスが何やら手紙を数通プレートに載せて現れた。
「ご歓談中失礼致します。ウィリアム様、皆様にお手紙が其々届いてございます。エリアリス様宛の物もございますが、こちらはテーブルに置いておきますか?」
「あ、あぁ。そうしてくれ……俺に手紙?父上か?」
ウィリアムは金に縁取られた薄緑色の封筒、そして蝋印の紋章を見て慌てて封を切った。
メルロート公爵家 ウィリアム•メルロート様
御当主交代後、初めてご挨拶申し上げます。
私はエリアリス•テルメールが父、モントール•テルメールに御座います。この度は若き当主となられました事心よりお慶び申し上げます。また当家の長女、エリアリスを厚遇して頂いていると聞き及んでおりますも、ご挨拶も致しませんでした事大変失礼致しました。
早速本題を伝えさせて頂きます。実はこの度、両家所有の海運会社【モルフィリオ】に事業売却計画を持ち込んだ者がおりました。そして、その者は事業購入希望者の代理人だと申したのです。その希望者は売却の意思が明確となるまで名は明かせぬと言いつつ、前金として馬車三頭に分け運び込まれた1万ガルは下らぬ量の白金を持参して来たのです。
共同経営並びに運用管理をして頂いておりますウィリアム様に、いち早くお伝えせねばと筆を走らせました。
付きましては、今週末にでもお話が出来ればと思っております。ウィリアム様のご都合をお聞かせ下さい。
乱筆乱文、失礼致します。
テルメール伯爵家 当主 モントール•テルメール
元々がそうなのか、余程焦っていたのかは分からなかったが走り書きされた様なその手紙の筆跡と内容に、ウィリアムは直感的に危険を感じた。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる