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リハーサル
メルロート公爵家の悪魔
しおりを挟む「兄様。私に考えがありますの」
我が従姉妹殿は、その銀髪の縦巻きロールを靡かせながら、ピンクの瞳に炎を湛えていた。普段は人畜無害な相貌が、今や悪魔の様に見えて仕方無い。
「ど……どの様な策なのだ?」
「もし、このまま縁談申し込みを行ったとします。きっとテルメール伯爵はお断りなさるでしょう。なので、外堀を埋め、外聞を気にせず当家へお越し頂くのです」
「だから……どの様にすれば良いのだ?」
「共同経営者の件、私すでに陛下への根回しは済んでいます」
は!?レオリオが破断の爆弾を落としてからまだ数日しか経っていない!しかも、つい先程共同経営の話を私は聞いたのだぞ?なのに……陛下に既に話が通っている……だと?まだカルカンダのオットー経理主任に話すら通しておらぬと言うのに!恐ろしい……恐ろしすぎるぞ従姉妹殿!
余りの展開の速さに、私だけではなくレナウスも、アナスタシアの顔も引き攣り青ざめていた。それはそうだろう……たった2週間の間に第二皇子と彼女を破断させた挙句、伯爵家の窮地を救う策を立て……その下準備までやっていたのだから。なぜ、ここまで彼女は力を貸してくれるのだろうか。
「メリー。ちょっと良いか?」
「なんですの?」
「なぜ、そこまでしてくれる」
「……なぜって」
何処から出して来たか分からぬが、従姉妹殿は扇子をファサファサと仰ぎ、口元を隠していたが……その目は厭らしく笑っていた。怖い‼︎
「ゴシップは私にとって……娯楽ですから。フフフフ」
娯楽!私の切ない恋心が娯楽!
何という事だ。従姉妹殿は自分の享楽の為に私に力を貸していたというのか!
ぐぬぬぬぬぬ!帝国軍に属する私がこの様な策に頼って良いのだろうか?いや、良くない!軍人たる者、正々堂々と正面からぶつかるべきであろう!
「メリー!純粋に……伯爵家を助けるという事には賛成なのだがな、暗躍して彼女の逃げ場を無くすような真似は公爵家としての品位が…」
「黙らっしゃい!」
「はいっ!!!」
「良いですか、既に伯爵家は詰んでおりますの。あの鉄道は買い手がつきますが、海運業に買い手など居ようはずもありません。負債がただ増える一方ですわ。ベルモンド家は一切手助けをするつもりは無いようですし。……そうなれば、負債をなんとかするには領地売却をするしかありませんの。ですが、鉱山の無いあの領地を購入する貴族も商人も……いませんわ。下手したら伯爵家の三姉妹が身売りでもして日銭を稼ぐしか、彼等の生活は成り立たないでしょう」
「‼︎」
「ですから!品位に欠けようが、悪魔の手を借りようが!彼女を救いたいのであれば公爵家が介入するしか手はありませんわ。それに……少し気になる人がおりますの」
「気になる人?」
「はい。兄様、イーラン王国の商人が最近この国で商業権を得た事はご存じ?」
何処までも情報通!!
それ、国家機密ではないのか?武器弾薬取引の為、表立っては商業権取得許可だった筈だが。どうやってその情報を掴んだのだ!
「あ……あぁ」
「その商人の中に、どうやら末席の様ですが王子がいらっしゃるようなのです。最近その王子、伯爵家へ足繁く通っている様なのです」
「?……どういう」
「どうやら、伯爵家と縁戚関係を結ぼうとしているのではないかしら。年頃で言えば、エリアリス様と丁度良いかと思うのです」
何……だと!?まさか、私以外にも彼女を見初めた奴がいると言うのか?
いや、それはそうだろう。あの様に美しい人なのだ。私の様な男が恋に落ちたのだから、当然もっと良い男からのアプローチだってあるだろう。
「遅れをとっても宜しいの?兄様」
「……」
「どうします?私の案……実行しますの?しませんの?」
二択を迫られた私は混乱した。彼女に私を知って欲しい、助けて差し上げたいと思うのに、この悪魔の様な従姉妹殿の手を取ったなら……私は彼女に顔向けが出来ないのではないか?そんな事を考えた。
「あ、兄上。と、とりあえずその案を聞いてみませんか?」
ナイスだレナウス!そ、そうだ。とりあえず案を聞いてみようじゃないか!
「まぁ、宜しいですわ。まず、共同経営についてですが、突然共同経営者になりますと言って、疑わない方はおりませんわよね?ですので、伯爵家には当家へエリアリス様をガヴァネスとして迎え入れたいと伝えるのです。丁度、淑女としてマナーを学ぶべき年齢のアナスタシアもおりますし、レナウスも彼女から学業を学べば宜しいわ。妃教育を受けた女性をガヴァネスとして招き入れる事などそうそう出来ませんから、決して大袈裟な援助ではありません」
なんと!その手があったか!
確かに、それであれば下心丸出しの援助では無く、対等な申し出なのだと彼方も思ってくれるだろう!
「そして……今の兄様ではエリアリス様は恐怖を感じるでしょう。まるで飢えた狼の様ですもの」
「は!?私が飢えた狼だと?」
「そうですわ。もし、ここにエリアリス様が居たとして、距離を縮める事もせず求婚まっしぐらとなりましょう?」
確かに。今の私はかなり焦っている。
彼女はガヴァネスとして真剣にレナウスやアナスタシアに向き合うであろう。そこに私が迫ったとして、彼女は受け入れてはくれないかもしれない。
「ですので、人畜無害。手を出すつもりは毛頭ない!そう思わせるのです」
「どうやってですの?メリー姉様……兄上に別宅で暮らしてもらうの?」
「いいえ。婚約者のマナー教育も頼むのです!」
「「婚約者!?」」
いやいやいや、私は彼女に婚約者となってもらいたいのだ!
「私がその役を致しましょう。そして、エリアリス様が当家に馴染み、兄様の事を知って好感を抱いた時……真実を話すのです!決して強引に彼女を迎え入れるのではなく、心が兄様に向くまで待つ!そして二人は結ばれるのです!なんて素敵なロマンスでしょう!政略でも無い貴族同志の恋愛結婚……どうです?兄様」
完璧だ!完璧だぞ従姉妹殿!……だがしかし、何故か一抹の不安を感じるのは私だけであろうか。
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