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リハーサル
メルロート公爵家の策—レナウスの失敗
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引き続き、メルロート公爵家次男レナウスがお送り致します!
さて、前回までのお話ですが、先月兄上の落とした一目惚れしたと言う爆弾発言に、父上の混乱。そして従姉妹の人参による殺害未遂。結構あの場は混乱したのですが、それよりも僕は父上がエリアリス嬢に一目惚れした。という事に大層驚かれていた事の方が気になったのです。
「父上、兄上がそのエリアリス嬢に一目惚れしてはなりませんか?」
「そ、そりゃそうだろうレナ!だってあれよ?第二皇子の婚約者だよ、彼女!」
そうです!妃教育を受けているという事は、婚約者、もしくは婚約候補者と言う事で、父上が仰るには既に5年もの間、エリアリス嬢は妃教育を受けてらっしゃると言います。しかも、あの第二皇子が婚約者と言うのですから、僕はエリアリス嬢を不憫に思いました。
「なっ!レオリオ?本当ですか父上⁉︎」
「……ウィル。お前はとても賢い。その歳で帝国軍参謀補佐連絡長になったのだからな……だが疎すぎやしないか?」
そうです。兄上は、若干20で帝国軍参謀局に入局し、連絡長になったんです!あれ?参謀じゃ無いのかってがっかりしましたか?ふふっ……現実はこんな物です。家柄人良し顔も良し、なんて人そうそういませんし、25で参謀など、どれ程の知恵や武功があってもなれなません!実力で連絡長となった兄上は凄いのです!
「疎い……ですか?」
「側妃の数に名前、来歴、婚約者に婚約者候補の名前と数。これ位貴族なら知っておいて当然だろう?」
「いえ……私の職務には関係ありませんし」
「無くは無いだろう!隣国から嫁ぐ妃も居る。それは国際的駆け引き、引いてはそこに争いの火種がある事を意味するんだよ?それを知らないじゃ国は守れやしないだろう」
「は、はぁ」
女性に全く興味の無い兄上にとっては、他人事だったのです。しかも、兄上のご学友でもあった第二皇子の婚約者に一目惚れと言うのですから、兄上の混乱は相当なものでありました。しかし、醜聞塗れた第二皇子相手ですから、兄上さえその気になればエリアリス嬢は兄上に振り向いて下さるのでは無いでしょうか?
「しかし、第二皇子かぁ……悪い事は言わないからさ、諦めなよ」
「……出来ません。何度も諦めようとしました……ですが」
「出来なかったっての?そっかぁ…いい子だもんねぇエリアリス嬢」
「父上は彼女をご存知なのですか?」
「勿論だよ。社交界にも顔出してるし、伯爵は僕が、んんっ。私が唯一信用している人だしね」
何故艶っぽく『私』と言い直したか分かりませんが、父上はご令嬢の事を良く知っている様でした。そして、兄上も第二皇子の事を良く知っているからなのか、引けないと言ったのです。
「父上、兄上。お相手は第二皇子ですよね?破談になるのでは無いですか?」
「んー……まぁ、無くも無いだろうけど、皇妃がそれを許さないだろうね。彼女を選んだのは皇妃だし、陛下も皇妃には逆らえないからなぁ」
「……婚約者、という事はまだ2人は顔を合わせてはいない」
「まぁねぇ。会ったら落ちるだろうなぁ。エリアリス嬢。だって世界で一番の美男だって言う人もいるんだよ?釣書避けにあんな似顔絵書かせてるけどさ」
そして、私は知ってしまったのです。第二皇子の醜聞は全くのデタラメで、その美しさと賢さを隠す為にあの様な愚かな醜聞を自ら流しているのだと。お母上の皇妃様はそれはそれは強欲な方だと父上は言っていましたから、てっきり第二皇子もその様な方なのだと思っていました。兄上も、その事をご存知なのでしょう。だからあんなに焦っていたのだと、その時僕は気付いたのです。
「ならば、会わせなければ良いのでは?」
咄嗟に思った事を口にするのは僕の悪い癖で、この悪癖が僕自身を崖っぷちに追いやるなんて思いもしなかったのです。
「レナウス、お前に何か良い案があるのか?」
「先程、『皇妃に嵌められた』と父上は仰いましたよね?と、言う事は破談になる可能性はかなり高いのではと思うのです」
「なんで?」
「父上、考えてみてください。自分が嵌めた相手の子が嫁に来るんですよ?どれだけ心臓に毛が生えていようとも、安心してはいられませんよね?報復だって有り得るわけですし」
「そうかなぁ?だってあのテルメールだよ?そんな事しないって踏んでるんじゃない?」
「だとしても、第二皇子はそうでは無いかもしれないでは無いですか」
「レオリオは学内でも、他を気遣い別室で授業を受けていた。それを知らぬ者達は皇族だから我々平凡貴族とは同じ空気を吸いたく無いのだろうと揶揄していたが……確かに、彼女がレオリオに会えば……結婚を心待ちにするだろうな」
兄上は、それまでの強気な態度は何処へやら。急にしゅんとして席に着いてしまいました。それ程、アリエリス嬢の事がお好きなのだな、と僕は思ったのです。
「ならば、助けて差し上げてはどうですか?どの様に嵌められたのかは存じませんが、お困りなのですよね?」
その言葉を聞いた兄上は、何か心に強く思う所があったのか、その青い瞳が燃え立った様に僕には見えました。そして、僕はまだ知りませんでした。まさか、兄上が本当に父上から爵位を引き継ぎ我が家の当主となってしまう事を考えているだなんて。
爆弾発言の晩餐のあった日から一週間が過ぎた頃でした。またもや我が家に爆弾が降ってきたのです。
「レナウス、アナスタシア、メリー。私は本日を以てメルロート家の当主となった」
こんなこったろうとはどこかで想像していたんです。常日頃冷静な兄上が一人の令嬢に熱を上げる。そうなったらどうなるか?周りが見えなくなる……。別に当主が父上から兄上に代わっただけならば良いのです……ですが、ここでまたもやとんでもない事をこの兄上は仰ったのです。
「そして……必ずやアリエリス嬢を私の妻にする!皆、力を貸して欲しい」
僕は、とんでも無い事をしたのかもしれません。
<寝た子を起こすな>……そして、<眠れる獅子を起こしてはならぬ>
誰が言ったのかは存じませんが、まさしくこの日、兄上は覚醒したのです。
僕は失敗したと、後悔しました。何せ、この二つを同時に実行したのですから。
さて、前回までのお話ですが、先月兄上の落とした一目惚れしたと言う爆弾発言に、父上の混乱。そして従姉妹の人参による殺害未遂。結構あの場は混乱したのですが、それよりも僕は父上がエリアリス嬢に一目惚れした。という事に大層驚かれていた事の方が気になったのです。
「父上、兄上がそのエリアリス嬢に一目惚れしてはなりませんか?」
「そ、そりゃそうだろうレナ!だってあれよ?第二皇子の婚約者だよ、彼女!」
そうです!妃教育を受けているという事は、婚約者、もしくは婚約候補者と言う事で、父上が仰るには既に5年もの間、エリアリス嬢は妃教育を受けてらっしゃると言います。しかも、あの第二皇子が婚約者と言うのですから、僕はエリアリス嬢を不憫に思いました。
「なっ!レオリオ?本当ですか父上⁉︎」
「……ウィル。お前はとても賢い。その歳で帝国軍参謀補佐連絡長になったのだからな……だが疎すぎやしないか?」
そうです。兄上は、若干20で帝国軍参謀局に入局し、連絡長になったんです!あれ?参謀じゃ無いのかってがっかりしましたか?ふふっ……現実はこんな物です。家柄人良し顔も良し、なんて人そうそういませんし、25で参謀など、どれ程の知恵や武功があってもなれなません!実力で連絡長となった兄上は凄いのです!
「疎い……ですか?」
「側妃の数に名前、来歴、婚約者に婚約者候補の名前と数。これ位貴族なら知っておいて当然だろう?」
「いえ……私の職務には関係ありませんし」
「無くは無いだろう!隣国から嫁ぐ妃も居る。それは国際的駆け引き、引いてはそこに争いの火種がある事を意味するんだよ?それを知らないじゃ国は守れやしないだろう」
「は、はぁ」
女性に全く興味の無い兄上にとっては、他人事だったのです。しかも、兄上のご学友でもあった第二皇子の婚約者に一目惚れと言うのですから、兄上の混乱は相当なものでありました。しかし、醜聞塗れた第二皇子相手ですから、兄上さえその気になればエリアリス嬢は兄上に振り向いて下さるのでは無いでしょうか?
「しかし、第二皇子かぁ……悪い事は言わないからさ、諦めなよ」
「……出来ません。何度も諦めようとしました……ですが」
「出来なかったっての?そっかぁ…いい子だもんねぇエリアリス嬢」
「父上は彼女をご存知なのですか?」
「勿論だよ。社交界にも顔出してるし、伯爵は僕が、んんっ。私が唯一信用している人だしね」
何故艶っぽく『私』と言い直したか分かりませんが、父上はご令嬢の事を良く知っている様でした。そして、兄上も第二皇子の事を良く知っているからなのか、引けないと言ったのです。
「父上、兄上。お相手は第二皇子ですよね?破談になるのでは無いですか?」
「んー……まぁ、無くも無いだろうけど、皇妃がそれを許さないだろうね。彼女を選んだのは皇妃だし、陛下も皇妃には逆らえないからなぁ」
「……婚約者、という事はまだ2人は顔を合わせてはいない」
「まぁねぇ。会ったら落ちるだろうなぁ。エリアリス嬢。だって世界で一番の美男だって言う人もいるんだよ?釣書避けにあんな似顔絵書かせてるけどさ」
そして、私は知ってしまったのです。第二皇子の醜聞は全くのデタラメで、その美しさと賢さを隠す為にあの様な愚かな醜聞を自ら流しているのだと。お母上の皇妃様はそれはそれは強欲な方だと父上は言っていましたから、てっきり第二皇子もその様な方なのだと思っていました。兄上も、その事をご存知なのでしょう。だからあんなに焦っていたのだと、その時僕は気付いたのです。
「ならば、会わせなければ良いのでは?」
咄嗟に思った事を口にするのは僕の悪い癖で、この悪癖が僕自身を崖っぷちに追いやるなんて思いもしなかったのです。
「レナウス、お前に何か良い案があるのか?」
「先程、『皇妃に嵌められた』と父上は仰いましたよね?と、言う事は破談になる可能性はかなり高いのではと思うのです」
「なんで?」
「父上、考えてみてください。自分が嵌めた相手の子が嫁に来るんですよ?どれだけ心臓に毛が生えていようとも、安心してはいられませんよね?報復だって有り得るわけですし」
「そうかなぁ?だってあのテルメールだよ?そんな事しないって踏んでるんじゃない?」
「だとしても、第二皇子はそうでは無いかもしれないでは無いですか」
「レオリオは学内でも、他を気遣い別室で授業を受けていた。それを知らぬ者達は皇族だから我々平凡貴族とは同じ空気を吸いたく無いのだろうと揶揄していたが……確かに、彼女がレオリオに会えば……結婚を心待ちにするだろうな」
兄上は、それまでの強気な態度は何処へやら。急にしゅんとして席に着いてしまいました。それ程、アリエリス嬢の事がお好きなのだな、と僕は思ったのです。
「ならば、助けて差し上げてはどうですか?どの様に嵌められたのかは存じませんが、お困りなのですよね?」
その言葉を聞いた兄上は、何か心に強く思う所があったのか、その青い瞳が燃え立った様に僕には見えました。そして、僕はまだ知りませんでした。まさか、兄上が本当に父上から爵位を引き継ぎ我が家の当主となってしまう事を考えているだなんて。
爆弾発言の晩餐のあった日から一週間が過ぎた頃でした。またもや我が家に爆弾が降ってきたのです。
「レナウス、アナスタシア、メリー。私は本日を以てメルロート家の当主となった」
こんなこったろうとはどこかで想像していたんです。常日頃冷静な兄上が一人の令嬢に熱を上げる。そうなったらどうなるか?周りが見えなくなる……。別に当主が父上から兄上に代わっただけならば良いのです……ですが、ここでまたもやとんでもない事をこの兄上は仰ったのです。
「そして……必ずやアリエリス嬢を私の妻にする!皆、力を貸して欲しい」
僕は、とんでも無い事をしたのかもしれません。
<寝た子を起こすな>……そして、<眠れる獅子を起こしてはならぬ>
誰が言ったのかは存じませんが、まさしくこの日、兄上は覚醒したのです。
僕は失敗したと、後悔しました。何せ、この二つを同時に実行したのですから。
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