上 下
173 / 200
SS 新しい家族

産前の不安

しおりを挟む
「ふぅっ」

 検診から更に1ヶ月が経ち、都の腹部は目に見えて迫り出していた。既に臨月だろうと言われても疑わないその大きさに、皆ヒヤヒヤしていた。

「都、荷物は俺が持つ」

「兄さん。大丈夫、大丈夫」

「いいから」

 その腹に、サリューンの子が居る事が広く世界に公布され、産前産後は王宮で暮らす様に言われた都。流石にそれはと断ったが、サリューンの子に何かが起きては困ると言い含められ、渋々居を王宮に移す事になった。コルとソレス以外は王宮に部屋を取る事となり、家に残ると言った2人を都とカムイは何とも言えない気持ちで残したが、2人が検診後から微妙に都達と距離を置き始めている事に気がついていた。

「よいしょ。はぁ、あっついなー」

「流石に4人も腹に居ては暑かろう」

「うん。最近じゃボコボコ蹴られて寝れないし」

「ルーナの子か?」

「ふふ、だろうね。腹ん中でも飛び跳ねてんだよ」

 馬車に都とルーナ、アガットが乗り込んだ。既に馬車で待機していたサリューンが都を膝に乗せようとしたが、危ないと諭されてしまった。

「さぁ、都様。私が腰を摩ってさしあげますね」

「ありがとうサリューン」

 そっと空いた手を腹部に当てて、サリューンは嬉しそうに耳を当てた。ぽこぽこ、ぐるん。ぽこぽこ。

「子供達が遊んでいるのでしょうか」

「仲良く遊んでいるんでしょうね」

「そう言えば、残りの一体はどなたの子でしょうか」

「……多分、コルでしょうね」

 前回サリューンと睦あった翌日、都はコルの部屋で寝た。激しい夜を過ごすでも無く、ただ繋がっただけ。都を気遣ったコルは挿入した物の、ただ動かすじっと都の中に居た。都にはそれでコルが果てたかどうかは分からなかったが、繋がった体、ただその暖かい体で抱きしめてくれた彼が愛しかった。

「最近、ソレスとコルが辛そうで」

「……仕方ないよ。都とカムイ様は2人しか居ないんだから、全員平等に想うなんて出来ないだろ?」

「……そうでもないよ。みんな違った部分で唯一だ。ソレスと居ると、何にも考えずにただ笑顔でいれる。それってとっても得難い存在だし、コルは……導なんだ。いつだって彼の中には0か100しか無くて、心が迷う時、失敗するかもって不安になっても彼が離れないと言えばそうなんだと思えた。だからいつも安心してたし、信頼してるんだ。でもいつの間にかそこにいて当たり前だって思ってた」

「もし、2人が出て行くって言ったらどうするんだよ」

 俺にそれは止められない。でも嫌だ。
我儘なのは分かってる。

「そうだなぁ。一度手放して取り戻すかな……俺は優しいだけの神様じゃ無いんだって教えてあげる良い機会かもなぁ」

そう、離れても離さない。
いつの間にかサリーの思考が移った様だ。
コル、俺は君に返さないといけない物があるんだ。でも、それを返せば君は俺の側から離れて行くんだと思う。だから、悪いけど……俺が死なない内は俺の物でいて。今は好きにさせようと決めた。

「欲張りになったもんだな。俺も」

 これから先、俺は皆んなの死を看取っていく事になる。そんな事を想像する度に気が狂いそうになって、俺は体で繋がりを求めた。そう、それはまるでカイリの様で吐き気がした。

 またこの世界に生まれ変わった俺。でもそれに付随した役割は呪いの様にも思えてならない。

「ルーナ」

「何?」

「俺が人間になる方法ってあると思う?」

「え?どうしたの急に」

「……何だろう。空気の香りを感じたいのかな」

 本来俺に呼吸なんて必要ないし、食事やセックスだって必要ない。子供だって神魂から生み出せるんだ。だけど俺は受肉したこの肉体を使って生活しているし、これからもそうするつもり。でも、たまに分からなくなるんだ。今嗅いでいるこの香りが、口にしている物の味が本物なのか。

「ねぇ、コルはさ。神魂を返納してる。でも獣人として生きてる……ならそれも可能なんじゃないの?」

「四神と神とは違うんだ。そもそも四神は役割であって、存在では無かった。人々が迷わぬ様、運命の導として存在しているのが四神。彼等がその役割から逸れた場合、その神魂は次代に引き継がれ役目を終える。彼等はその中で番って子を成す事に成功したんだ。その子供らに役割は無いけど、神魂の欠片を引き継がせる事は出来た。コルはそれをする前に神魂を返納してるし、次代の朱雀はコルがこの世界に来た時には役目を引き継いでるから……俺は同じ様にこの世界の命として生ては行けない」

「ねぇ、そうなるとさ。子供達に……神魂が出来る事ってあると思う?」

 考えなかった訳じゃない。その可能性は大いにあるし、もしそうなったら俺はこの世界でカイリの二の舞になる。子を産めばその子は神の力を持った獣人として生ていく。寿命も無いかもしれない。

「……無くは無いよ。俺が恐れてるのはその一点だけだ」

「都…」

「そんな事を今心配して何になります。この世界に君主制が無くなった時、子供達が手を取りあって守って行くなら……悪い事では無いでしょう?」

「彼等には自分で人生を作って欲しい。義務や責任に囚われる人生は与えたく無い」

「都、それは酷と言う物ではないか?」

「兄さん?」

「一体どれ程の獣人が、己に義務があれば、責任があれば良いかと嘆いているかしっているか?」

「え?」

「自由と言う言葉は美しい。だが、その中で一体どれ程の命がその自由に悩んでいるかわかるか?己の進むべき道を見出せず、ただ消費するだけの日々に苦悩し、何故生まれたのか。そんな無意味な問い掛けに苦しむ。それを考えれば、成すべき事のある生程……羨ましい物は無いんだ」

 俺はいつの間にか忘れていた。
過去世の神居都としての人生で、やりたい様に生きていたつもりがそうでは無く、無意味な選択の連続で、それが人生だと諦め受け入れていた事。都度都度そこに幸福はあってそれに満足もしていたけれど、もしも歩むべき道があったなら。そしてそこに夢を抱けたなら……これ程有意義な人生は無いだろう。

「そうか。なら、もしかしたら俺は子供達に最高のプレゼントを用意してあげられるのかもしれないね」

 神魂の譲渡。それは神の死。その先で俺はまた人としての人生を歩めるのだろうか。

「都様、不安は母体に悪影響です。今はただ楽しい未来を考えましょう?」

 優しく、愛しい夫達。まるで草原に寝転ぶ様な清々しい気持ちで俺はサリューンの膝に頭を預けた。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

強制悪役令息と4人の聖騎士ー乙女ハーレムエンドー

チョコミント
BL
落ちこぼれ魔法使いと4人の聖騎士とのハーレム物語が始まる。 生まれてから病院から出た事がない少年は生涯を終えた。 生まれ変わったら人並みの幸せを夢見て… そして生前友人にもらってやっていた乙女ゲームの悪役双子の兄に転生していた。 死亡フラグはハーレムエンドだけだし悪い事をしなきゃ大丈夫だと思っていた。 まさか無意識に悪事を誘発してしまう強制悪役の呪いにかかっているなんて… それになんでヒロインの個性である共魔術が使えるんですか? 魔力階級が全てを決める魔法の世界で4人の攻略キャラクターである最上級魔法使いの聖戦士達にポンコツ魔法使いが愛されています。 「俺なんてほっといてヒロインに構ってあげてください」 執着溺愛騎士達からは逃げられない。 性描写ページには※があります。

目覚めたそこはBLゲームの中だった。

BL
ーーパッパー!! キキーッ! …ドンッ!! 鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥ 身体が曲線を描いて宙に浮く… 全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥ 『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』 異世界だった。 否、 腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。

処理中です...