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SS 新しい家族
いつか、と言う名の希望
しおりを挟む「カナム、残りは」
「はい。この後、税制改革について各領主と財務大臣、内務大臣、文部大臣、騎士団総長を交えた会談を終えましたら、他に予定された政務はございません」
「時間を巻けるか確認してくれ」
「開始時間の繰り上げで宜しいですか?」
「あぁ、2時間程度早められるか?」
「確認致しまして、可能でしたら17時からで進めます」
「頼んだぞ」
サリューンは1分1秒を無駄にするまいと、食事も取らずに政務に取り組んだ。そして2時間の時間を作ると、予定されていた会談時間を早める様にカナムに命令した。
「少しでも長く貴方と過ごしたい……」
サリューンはほぅっと息を吐くと、左指に嵌められた都の神核の欠片で作られた指輪に口付けをした。
「今でも信じられない。神である貴方達がこの腕の中に居ると言う事が」
私が愛したのは都様とカムイ様だ。どちらが欠けても意味が無く、世には節操が無いと言う者もいるが、私の心は2人を愛して初めて満たされる。カムイ様に焦がれる様な支配欲を掻き立てられて、都様には切ない程の恋慕の情を抱く。お2人と共寝をした事は無いが、もしも共にあったなら私は冷静では居られぬかもしれぬ。龍の手で2人を抱きしめ、獣の心と半身で壊れるまで抱き潰す自信がある。はぁ……あの美しい体に肌を重ねる幸せ。早く時が過ぎないだろうか。
「陛下、都様、カムイ様が後、半刻にてご到着にございます」
「‼︎」
な、何と言った?お2人が来られるだと?しかも後半刻!いつもより2時間もお早いお越しだ。
「わ、分かった!皆に部屋を整える様に伝達せよ!あ、後失礼の無い様お迎えする様に」
「畏まりました。アガット騎士教官殿と、リャーレ予科練教官殿がお迎えに城門にて待機されています」
「分かった!2人には今宵城内に留まるか、帰宅するかは任せると伝えよ」
「畏まりました」
助かった。もしもお2人をお相手したなら間違いなくそのお体に傷を付けていただろう。どちらかがカムイ様のお相手をしてくれるならその不安も少ない。
「都様、カムイ様。貴方がたを想うだけで疲れた心が癒される。さぁ、後一仕事終えるとするか」
「カナムに調整は済んだか確認せよ」
「畏まりました」
サリューンは書類を掻き集め、着衣を整えると会談の行われる皇城の会談の間へと向かった。
都は滑らかに走る馬車の中、膝で眠るトルケンの頭を撫でていた。その少ししっとりとしているのにサラサラとした肌、そしてひんやりとしている体温が心地良く、トルケンが眠りに着いてから1時間は撫でていたかもしれない。
「本当に美しい人だな。トルケンさん……あれだよね、若い頃のトヨタツに大女優、岩上志麻の若い頃を足した様なお顔。キエヌ•リーブスにも似てる。そんでもって綺麗意外に表現出来ない。うーん、あっちの世界の芸能人は今どんな人が流行ってるか分かんないけど、トルケンさんなら絶対有名になってるよ。流石蛇の獣人。確かサリンジャーさんも蛇の獣人だったよね?サリンジャーさんも美人さんだもんな」
ぶつぶつと独り言を言いながら、外を眺めつつ都は彼の頬を無意識に撫で回していた。
— あぁっ!このまま死んでしまいたい!都様に撫でて頂けるなんて!母上に感謝致します。私は母の遺伝を色濃く受け継いだが故に毛髪が一切ありません。色素は薄く、肌も薄い為に軟弱に見えるこの容姿をが嫌いでした。だが、そんなコンプレックスも忘れてしまう程嬉しい。
「トルケンさんの恋人は自慢したいだろうな。こんなに美しい恋人がいるって」
— 恋人などいた事はありません。誰も私など相手にしてくれませんから。
トルケンはあまりに美しいが故に、周囲が畏れ多いと遠巻きにしているのを、本人は自身が毛髪も無い醜い蛇の獣人であるからだと思っていた。そして恋を知らずに大人となった彼は拗らせていた。もしも、自分に執事としての仕事以外に都の伴侶達の様な力があったなら、都に選んで貰えたのだろうかと。
— 私も彼等の様に側に侍る事が許されたなら……死んでも良い。いや、毎日鼻血を出して失血死しているかもしれないですね。ですが、不相応な願望を抱くのは辞めておきましょう。きっと自身の浅ましさに己を憎むでしょうから。
ガタンと皇城の敷地内に入る為の門を潜った所でトルケンはその身を起こした。
「都様、申し訳ありませんでした。いつも甘えてしまいまして」
「俺は神様ですよ?皆を癒す事も仕事ですからね。それに、夫を支えて下さってる方を膝枕程度で癒せるなら安い物です。いつも欲しい物は無いかと聞いても答えてくれませんし。なので、気にしないで」
「……もしも、願いがあると言ったなら都様を困らせるでしょうね」
「困る様な願いって?」
「いえ、お忘れ下さい」
「?」
トルケンは静かに微笑むと、窓を開けて外を警備するガットに速度を上げる様ハンドサインを出した。速度を上げ城門までの坂道を駆け上がる馬車。そして辿り着いた場所にはカムイの伴侶2名が立っていた。
「カムイ、起きて」
「んん?あれ?俺、何で寝てたんだろ」
「さー?」
トルケンは馬車の扉を開けると先に降りて、ステップを出して恭しく頭を下げた。アガットとリャーレは満面の笑みで近づき手を差し出した。
「都、体はきつく無いか?」
「兄さん、大丈夫だよ。兄さんこそ疲れてない?」
「特務だった頃に比べればなんて事は無い」
「あぁ、嬉しいです。カムイ様とここでお会いできるなんて」
「何言ってんだよ。家で毎日会ってんだろ?」
「それでも、久しぶりに外でお会いするのは新鮮で嬉しいのですよ」
リャーレはカムイの手を取ると、その手にキスをして抱き上げた。3年前までは抱いていなくては移動もできなかったカムイ。彼を抱き上げていた癖が抜けないリャーレは3年経った今も彼を抱き上げていた。
「なー。お前らどうすんの?帰んのか?」
「都は帰るのだろう?」
「うん。明日の食事の用意もあるし、サリーが居ないと何かあった時対応出来ないしね」
「そうですか。アガットと私は陛下に泊まっても良いと許可を頂いていますが、流石にカムイ様が陛下のお相手をしているのを別部屋で待つのは耐えられないですからね。都様と帰りましょうかアガット」
「そうだな」
「別にみんなでやったらいいんじゃね?家に居たってかわんねーじゃん。俺とヴィクがやっててもお前ら普通に入ってくるし、都とリャーレがやってたらヴィク入ってくんだろ?サリューンもそろそろ受け入れてやったら?」
「カムイ。流石に、主君を俺達と同様に見る事は出来んぞ」
「ははっ、流石カムイ様と言った所ですかね。私も無理です」
そりゃそうだろう。そう都はうんざりした目でカムイを見たが、カムイは訳が分からないと言ってリャーレの腕の中で欠伸をした。
「都様、カムイ様。お待ちしておりました。皇宮へお入り下さい」
サリューンの侍従に案内されて、都達はサリューンの自室へと案内された。そして慣れた手付きで荷解きすると、サリューンが使う備品や消耗品の補充を始めた。
「シャンプーにトリートメント。あぁ、黄色の魔粒子減ってるね、補充しとこ。後、新しい部屋着に持ち帰りの洗濯物、獣体用の保護剤に……あ。カナムさんとトルケンさんに渡す荷物もあったんだった」
「なによ。あいつらに渡す物って」
「んー?内緒」
「何だよ、俺にも秘密にすんのかよ」
「茶化すでしょ」
「内容次第」
「だからダメ」
「いーもんね!あいつらに聞くし!」
「もー!やめなよ。いつもサリューンのお世話をしてくれてるお礼なんだからさ」
都はそれを抱えて部屋を出た。そして執事や侍従達の控室に向かった。
「なー。アガット、リャーレ。どう思う?」
「どう、とは?」
「カムイ様、それは都様があの2人を好いているかも?と言う事ですか?」
「うん。なんっか怪しいんだよなー。何がって聞かれたら分かんないだけどさ、サリューンの世話してくれてるからって毎朝飯食わせたり、贈り物したりするか?だってそれがアイツらの仕事だろ?」
「都は気遣いに長けている。単に陛下の伴侶として周囲を気遣って居るだけだろう」
「アガット、もしもよ?お前の指導を受けてる隊員の伴侶がさ、お世話になってるからって毎日飯を食いに来いって言われたらどう感じる。ただ感謝からの誘いだって思うか?毎日だぞ?」
「ですが、あのお二人はカムイ様と都様を崇拝していますから、お顔を拝見出来る機会があれば社交辞令でも飛び付くと思いますよ?」
「崇拝ねぇ。だったら普通畏れ多いって拒否しねぇか?」
「「確かに」」
「俺に対する態度と、都への態度は全然違うしな。崇拝っつーか、売り込みの機会を狙ってる様に思えるんだけどな」
その言葉に、アガットはカムイの横に座ると質問した。
「都があの2人を伴侶に加えたいと言ったらどうする?」
「んー。いいんじゃないか?別に。俺は何人と寝ようが都が一番だし、お前達以外はツマミみたいなもんだ。食事には成り得ない」
「はぁ。私は嫌ですよ、サリューン様がお2人の事でお苦しみになっていた事を存じてましたし、その、都様をお好きなのだと思ったから共に、と思いました。それに、陛下は皇城の主ですから共に暮らす事はありませんしね。ですが流石にあの2人と暮らすのはちょっと」
リャーレはカムイの膝に頭を乗せて、その滑らかな脹脛を撫でた。
「んー?ならあの2人がここで過ごしつつ、都が相手する分には良いのか?」
「……それも嫌ですね。カムイ様を想う気持ちとは違いますが、都様も私の愛する人です。今ではサリザンドを信頼して甘える姿に嫉妬すらしているのです」
「お前、朱雀と都の共寝の日は必ず邪魔しに行くよな」
「‼︎」
「気付いて無いと思ったかよ。アガットも毎晩明け方に都の様子見に行ってんだろ?別にコソコソせずに堂々と行きゃいいのに」
「はぁ。気付いて居られたとは」
「折角欲望を溜め込まずに発散出来るんだ。好きに生きたら良いのに」
「俺は都を抱いてない」
アガットは憮然とした顔でカムイを見たが、カムイは溜息を吐くと都に言った言葉を2人に言った。
「黒豹の子供に、エルフの子供。都にそっくりな顔に猫耳や羽が生えた子供は死ぬ程可愛いと思うんだけどな。今度生まれる子は梟か兎か、朱雀か龍か。はたまた白虎か麒麟の末裔か。可能性が高いのは兎だろうけど、お前達は自分の子供が欲しくねぇの?俺はお前達の子供が欲しいけどな」
2人は可笑しそうに笑うと、カムイの手を取った。
「私達に子供は必要ありませんよ。貴方を独占するのは私達だけで良い。そうでしょう?」
「子供はルーナ達に任せれば良い。俺達4人は親には向いていないだろ」
彼等の言葉に、カムイは「俺が欲しいんだけど」と言って2人を困らせた。
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