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最終章

最終話 命の旅に祝福を

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 都の復活の知らせはその日の内にサリューンに伝えられた。

失意を抱えたまま皇帝という鎧に生かされ、気を抜けば立ち上がる事も

出来ぬ状態だった彼は、その報告にカナムの肩に手を置き床を

見つめた。


「誠…なのだな?誠、都様は復活なさったのだな…カナム…」

「はいっ!陛下!誠なのです!夢にまで見た…都…ふぐっうっ
都様がお戻りなのです!」

「陛下、今すぐ参りましょう。我々も…お会いしとうございます!」


跪き、トルケンは呆然としているサリューンを涙を溜めた瞳で

見上げた。

サリューンは肩に置いた手に力を込めると、深呼吸の後カナムの

抱える礼装に手を掛けた。


「参るぞトルケン、カナム!!」

「「はいっ!」」


 迅る気持ちを抑えていたつもりだったが、歩む足は次第に駆け

足となりサリューンの後を着いていたカナムやトルケンも、気が付けば

その隣を駆けていた。

王宮から神殿への長い回廊を走っていたサリューンと執事、侍従、近衛

騎士達15名は神殿の入り口に立つ神力に溢れた都の姿を見つけると、

立ち止まり各々が心に溢れる感情に、皆夢か幻でも見ている様な、

そんな気持ちになっていた。


「サリューン!」



 都なのかカムイなのか。

そもそも二人で一人だった者が同化していて、

目の前に居るのは都なのかカムイなのか分からなくなった。

だが、どちらも皆が愛した男であった事は変わらず、サリューンは

城へ向かう道を歩きながら腕に乗せた都の手をずっと握りしめている。


「都様、いえグレース神…よくぞ、よくぞお戻りくださいました」

「サリューン!いや違ったサリューン様。都で結構ですよ。それに俺、
いや…カムイか…いや俺かな…えと、迷惑ばかり掛けましたよね」


マルスを抱えていたビクトラは騎士に彼を預けると、サリューンと歩く

都の姿を見つめた。


俺が惚れたのは間違いなくカムイだった。けれど、今目の前に居るのは

カムイであり都なんだな。

俺はもう二度と同じ過ちを繰り返さない。

もし、都が望んでくれるのならば彼とカムイの側に居たい。

カムイは彼の中で生きている…姿形が変わってもそれは変わらない…

なら、その全てを愛せばいい。

ビクトラがそう思うように、リャーレやアガットも同じ様な気持ちで

いて、それまで都に嫉妬していたリャーレですらなぜかこれが本来の

あるべき姿だったのかもしれないと心穏やかに二人を見ていた。


「都様…貴方が居ない10年は本当に辛かった」

「ははっ!俺が居なくて困ったのはカムイ位ですよ。
俺が居なくても世界は回りますから」

「そう言う意味ではありませんよ」

「?」

「分かりませんか?」


サリューンの幼さの残る顔しか覚えていない都は、いつの間にか

精悍さが加わった美しい顔を見上げ、感慨深い気持ちになった。


あぁ、大人になったんだなぁ。まるで甥っ子か弟そんな風に

サリューン様を見ていたけど。そりゃそうか。

10年も経ったんだ…俺にとっては昨日の事の様だけどさ。

何となく分かってるんだ…俺だけがまだあの時のままだって。

皆んなはこの10年を、色んな物を抱えて生きて来た。

もう俺の知らない人達なんだ。


「分かるはずないですよ…俺は一度…いや、二度人生を終えたんです」

「…」

「俺はマルスさんの中で目覚めた時、どうしようも無く怒っていたんですよ…」

「え?」

「何で俺はまだここにいるんだ…いつか違う何処かの世界で…皆んなじゃ無い皆んなと会えたら…そう思っていました」


そう。俺は完全に淀みに呑まれたあの瞬間。悔しかったけど、

転生した時の様に色々考えるのが辛くなって…受け入れたんだ。

死ぬ事を。

だから、マルスさんが器となり受け入れてくれた時…

記憶の俺は俺に怒ってた。

性懲りも無くまた命を強請って何がしたいんだ…そう腹を立ててた。

でも、今度は諦めたり手放したりしないよ。俺の人生だ。


「まだ、お辛いですか?」

「辛く…はないです…やっぱり嬉しいんです。だって、昔の人生でもこんなに誰かを愛した事も、必要とした事もありませんでしたから。うん…やっぱり俺は嬉しいんです」

「なら、お分かりになるはずです。この世界が、皆が、そして私が…貴方様をどれ程求めていたのかを」


ん?どういう意味だ?

神として失って悲しかったって事?それとも、

もしかしてサリューン様。

恋愛対象として俺を見てたって事言いたいの?

いやいや、ないない。カムイならまだしも、俺じゃないだろ。


「私は皆がガーライドナイトに行ってから…いつかまた戻って来て、
この城で共に生きて行けると思っていました…ですが、貴方様を失い、
兄の様な皆が去った城は空虚で、何故私はここに居るのだろうと思った物です」

「サリューン様…」



皆を引き連れながら、都達が神殿と城の間に設けられた禊の間に入った

時、サリューンは跪き都を見上げた。


「私が未だ正妃を定めず生きてきたのは…都様とカムイ様。
貴方様達を想っているからです。私と、皆と…共にここで生きては
下さいませんか?神であっても人生はある筈です…その長い時の中に
私という男を受け入れて欲しい。貴方様達がビクトラ殿達を伴侶と
定めているのは知っています…だが、私とて辛く長い孤独を
貴方様達を想い生きてきた…慈悲をお与え下さい」


おぉ…マジか。アイスダブルでって感じ?

そんなノリじゃないのは分かってるけどサリューン様。

うん素直に喜べない…いや間違っては無いよ。

カムイは俺で、俺はカムイだ。

でも、サリューン様の愛ってかなりあれだよね。

懐が深いと言うか…何と言うか。

ビクトラさんやリャーレさん、兄さんは俺を受け入れない。

それは俺が受け入れられなかった俺自身の側面カムイを欲していて、俺が俺と

認識している面はルーナ達が受け入れてくれた。

でも、サリューン様はそのどちらも愛してるって…事だろ?

それってすごい事だよね。

いやいや、他人事みたいに考えてるけど俺、しっかりしろ!

俺にはまだやる事があるはずだろ?

まずは受肉しないとカムイを出してはやれないし、ラファエラだって

顕現させてやらないと。とりあえず、ルーナ達やサリューン様は

後回しだ。そうしよう!


「サリューン様…あの…」


何と言ってこの場を収めようか。都は起きたばかりの思考で

色々と考えていたが、一向に言葉が出てこず目を瞑った。


「陛下。都はまだこの世界に戻ったばかりです、今後の事は
追々話をしませんか?我々も寝耳に水、鷸蚌之争。いや、
トンビに油揚げ…どちらにせよ、我々の許可を得て頂かなくては」


ゴゴゴと不穏な呪法を片手に纏い、サリザンドはサリューンの

肩をギリギリと掴むとニコリと微笑んだ。


「サリザンド殿…今ここでお答えを頂かなくては…ガーライドナイトの
時の二の舞いになってしまう!」


皆、サリューンの気持ちを知っていたのかその言葉に

返す言葉が見つからず無言となり、その場は沈黙に包まれた。

遠く教会で子供達が歌う賛美歌が風に乗って響いた。


「陛下、都はこの世界の唯一神として戻って来たのです…そう、
陛下も含めて我々の唯一なんです。…彼がこの世界で生きて行くには
我々の全てが必要なのですから…全身全霊を捧げ愛しましょう」


その言葉に、都は振り返った。そして信じられない光景に顔を

歪めている。

そう、そこには兄や初恋の人、憧れの人だった三人ではなく、

カムイに向けていた様に、甘く優しい笑顔を湛えるビクトラ、

リャーレ、アガットがいた。


「う、うそだぁ…やめてくれよ…お、俺…ル、ルーナやサリザンドの
重っったい愛と…すぐ拗ねちゃう面倒臭い子供みたいなコルとさ…ペット枠だったソレスをなんとか男として見ないといけ…ふぇっ…なのにっ…嘘だよ」

「ちょっと都!重たいのはサリザンドだけでしょ?俺のは重たくない!」

「重くて何が悪いんですか…もっと重くしなくては…これ以上逃げ回られたら身がもちませんよ」

「我は…面倒臭くないはずだ。身の回りの事は自分でできる…」

「ペット枠…嘘だべ!!オラ、ペットだっただか?オラ…いっぺぇ頑張ってただ…」


サリザンド達の漫才の様なやり取りを、カムイの介護生活を共にして

精神的に大人になったビクトラ達は、弟達を見守る様な眼差しで

見つめていた。


「ルーナ、サリザンド、コル、ソレス…それに陛下も。都はグレース神になるんだ…俺達だけの物にはなれないだろ?なのに俺達が奪い合ってどうするんだ」


ビクトラは都の前に立つと、思い切り抱き寄せ額に口づけをした。

それは優しく、あの頃の様に刺々しく拒否するでも、上辺を繕う様な

形だけの物ではなく、ビクトラの心からの愛を与え、また都を求める

様なキスだった。



欲しい。

こんなに欲にまみれた自分が神だなんて笑わせるなよ…そう思ってる。

でも、欲しいんだ。彼等が。

一度は素直に表に出した気持ちも、結局は受け入れて貰えなかった。

だから本当の気持ちに蓋をした。

ビクトラさん、リャーレさん、兄さん…兄さんなんて言いながら、

兄なんて思った事なんかない。

カムイ…カムイならどうする?久しぶりに心が痛いんだ。


聞こえない声、いつもなら『受け入れようぜ!面白いじゃん』そんな

事を言ってくれる筈なのに。

ほら、俺は変われてない…またそうやって答えを誰かに委ねてる。

決めなきゃ。変わらなきゃ…愛して欲しいなら俺が変わらなきゃ。

ちゃんと、カムイと皆んなと生きていくんだから。



 暫く讃美歌は響いていた。まるで都の背を押すように。

そして都は皆の手を摘む様に手繰り寄せると、其々の目を見て

聞いた。


「俺は命が欲しい…神にならなきゃだけど…ここにいる皆んなの
為だけに生きる命が欲しい…俺にみんなの…その…愛…をくれないか?もう、惰性で生きる人生も簡単に諦める様な人生も送りたく無い…だから…この世界に生きる意味を皆んなにしたい…良いかな?」



 何度命を始めて終わらせても、求めてしまうのは『存在意義』。

簡単に見つかりはしない。神でさえ与えてくれるのは一時の事。

だから俺は作るよ。俺の存在する意味を。

神は人無くして存在できず、また人も神無くしては導を見出せず。

今の俺にはその意味がよく分かる。

愛を知らずして愛は与えられない、だから沢山愛してよ。俺は

命を愛し守る神になるから。


『グレース神の仰せのままに』


信仰も無く、自我も乏しい自分だったが、己こそが導となる事を決めた

都。いや、グレース神は命を求め、育む新たな旅の一歩を踏み出した。









これにて、『神々にもてあそばれて、転生したら神様扱いされました。』は完結致しました。
ブックマークを付けて頂きました方々、また読んで下さった皆様に
感謝致します。初めての作品で読みづらく、ダラダラと続きましたが、
お付き合い頂きありがとうございました。

今後一話より修正や、閑話にてグレース達を描ければと想います。
今後とも、どうぞ宜しくお願い致します。

別作品にて、白兎を出す予定ですのでそちらも読んで頂けると嬉しいです。










































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