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最終章

たとえどんな姿でも

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 サリザンドは王宮の大ホールの真ん中で、皇帝サリューンに魔導学

協会総長の証である勲章を授けられている。会場には、魔導騎士隊員で

あった時の仲間達が、彼の晴れの舞台を一目見ようと駆けつけていた。

そしてその会場の隅で一人の男が涙を目に滲ませながらその姿を見つ

めている。


「我々は都様…グレース様を失いし時より、魔導の新たなる形と姿を追い求めてきた。この世界に溢れる未知なる物は、神の与えし試練なのか…罰なのか。その真実の姿を其方は追い求め、一つの答えを見つけた…我々は神の一端であったとのだ…それ故、魔粒子核を失い堕天となったに等しいこの身を以て困難の日々を送ってきた。しかし魔導を極め、我らの誇りでもある獣体を失わずに済んだのは其方の功績である」

「よって、ここにサリザンド・クレエスカを124代魔導学協会総長に任命する。その広く深い見識を多くの者に伝え、後世に引き継いでくれる事を期待する」


サリザンドは跪き、深々と下げていた頭を上げて、新たに天井に描か

れた太陽と月サンルナサークルの紋章を見上げた。


都…俺が研究を重ね、世界を歩いたのはこの世界に住む獣人の為

じゃない。失われた魂を呼び戻す方法を探した結果だったんだ…。

総長になりたかった訳じゃないけれど、これで俺に閲覧出来ない書物

も、記録も無くなった。ここに来るまでに10年も掛かってしまった…。

都、俺がお前を呼ぶまで別の世界で生まれ変わるなんて事はしないで

くれ…必ず、俺がお前をこの世界に呼び戻してやる。待ってろ…。


 サリザンドは心に新たなる決意を抱き、壇上から姿を現した神体の

グレースを見上げた。

あの日、都を呼び戻す為に渡したペンダントにあった神核だったが、

結局それでも都を取り戻す事は出来ず、渡した神核の一部を返して

もらっていた。しかし、都の神核の大部分を有する神体の持つ神核が

無ければ都を呼び戻す為の呪法は使えない…。

どうやって彼等を説き伏せるか、そんな事ばかりを神の御前だと言うの

に考えていた。

ラファエラと四聖獣の神核を持つ神体グレースは、ゆっくりと壇上から

降りるとそっとサリザンドの頭に手を置いた。


「神とて完璧では無い…無力な神である我から其方に贈ろう」


そう言うと、一枚の紙をそっとサリザンドのジャケットの内ポケットに

差し入れた。


「これは?」

「其方の研究はこの世界の物…神々の世界には通用せぬ…途切れた天界との繋がりをようやっと開く事が出来た故な…」


サリザンドはその紙を取り出し捲った。


北西 マリヤルナ 泉


「…其方の研究を崩す事は何よりの娯楽であった。これを持ち行くが良い」

グレース神は24色に煌めくペンダントをサリザンドに手渡すと、背を

向け神殿へと戻って行った。




 任命式を終え、サリザンドを祝う祝賀会が騎士棟会館で行われて

いた。代わる代わる声を掛けられ、そもそも人付き合いが苦手な

サリザンドは作り笑顔をし続けていたせいか、頬が強張り顎の感覚が

おかしくなっていた。

顎に手を当て、右、左と顎を動かすサリザンドの肩を誰かが叩いた。

振り返ると、そこにはげっそりと痩せて目の周りが落ち窪んだカムイ

達が立ってサリザンド達を見つめている。


「グレース様‼︎ビクトラ殿にリャーレ殿、アガット殿!」

「久しぶりだな、サリザンド」

「この度は総長就任おめでとうございます」

「サリザンド、相変わらずそうで何よりだ」


腰まで伸びたプラチナシルバーの髪を靡かせたビクトラは、相変わらず

厳つい顔をクシャリと歪ませ笑っていた。リャーレはその金髪を短く

刈り込んでいて、以前の様な柔らかい新緑の様な雰囲気は無く、まるで

夏の太陽の光の様な力強さを醸し出していた。そして、アガットは

リャーレとは逆に伸びた髪を一つに纏め、以前の様な孤独を纏っていた

姿は消えて、柔和な顔をしている。

しかし、一番変わっていたのはカムイだった。

漆黒の艶やかに煌めいた髪は白髪で白く染まり、その毛髪も肌も

ボロボロで、あの頃の美しさの面影はどこにも見当たらず、誰も彼が

グレースだと言われても信じる者はいない程変わり果てていた。


「グレース様、お元気でしたか?」

「懐かしいな…グレースか…見ての通りだ。俺は神核も魔粒子核も無くて…獣体もねぇただの人間だから…もうジジイだよ…5年前かな…都に会えなくなってからあっという間にこの姿だ」

「5年前?え…都に会えなくなったってどう言う事ですか‼︎」

「あっ!都っ!」


カムイはバルコニーの先を見つめていたかと思ったら、急によろよろ

と身体をふらつかせながら駆け出した。

その後をリャーレが追いかけて、カムイの肩を抱き寄せ二人でバルコ

ニーへと出て行った。


「ビクトラ殿…どういう…事ですか?」


サリザンドは眉を顰め、何が起きたのか分からないと言った顔をして

ビクトラとアガットを見た。


「カムイは10年前のあの日からずっと都の幻覚を見続けていたんだ…オブテューレの小屋の窓辺から見える庭に都が居ると言って一時も離れる事は無かった」

「…サリザンド…俺達…そんな事も知らずに…」


サリザンドの横に立っていたルーナとコル、ソレスは老け込んだグレー

スの背中を見つめながら涙を目に溜めた。


「5年前、突然カムイがおかしくなってな…都が消えたと泣き叫んで、落ち着くまで更に5年掛かったよ。今でも時々…あぁやって幻覚を見てはふらふらと何処かに行っちまうんだ」


アガットは、それでも彼が愛おしいくて仕方なく、仕事を辞めて

カムイの介護と主夫をしていると言った。


「そうですか…なら…尚更グレース様の為にも早く都を取り戻さなくてはなりませんね」


その言葉に、二人は顔を見合わせサリザンドの肩を掴み揺すると目を

見開き詰めよ寄りその真意を問いただした。


「それは!都を取り戻す算段が着いたと言うことなのか⁉︎」

「えぇ、理論上は…そして本日グレース神より都の神核を返して頂きました…明日にでもと思ったのですが…その前に行かねばならぬ場所があるようです」

「行かねばならぬ場所?」


サリザンドはグレース神に渡されたメモを二人に手渡した。

「北西 マリヤルナ 泉?ここに…なにがあるんだ」

「分かりませんが…都に関わる場所なのでしょうね…明日、良ければ皆さんも行ってみませんか?」

「勿論、行ってみよう…少しでも可能性があるのなら何処にでも行く」

「どんな姿になっても、俺達はグレースを愛している。しかし…もうこれ以上カムイの苦しむ姿を見たく無いんだ…毎夜鏡に映る自分を都だと思って話をしているカムイは…悲しくて…切なくてな…あの日俺達が都を受け入れていれば、そんな事ばかり考える日々を終わらせたい」


老けたとは言え、男盛りをカムイに捧げている男達の姿にサリザンド

達は都の事しか考えていなかった事を後悔した。
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