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最終章

愛の終わらせ方

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 グレースは大ホールに集まり跪くサリューン達と向き合うと、咳払い

をして話し出した。


「知らせておくべき事がある」

「俺達がここにくる前に…淀みから溢れた魔獣擬きを見た…そいつは、俺が淀みで会ったアマルマ神の成れの果てだった」


その言葉に、誰もが言葉を失った。

かつて、この世界の神の一柱であり皇帝であったアマルマは堕天したと

教わっていたが、その様な古代神がまさかまだこの世界にあって魔獣化

しているとは誰も思ってもみなかったからだった。



「結界の崩壊を待たずに…淀みはこの世界を覆い尽くすかもしれない。俺に出来る事はやろうと思っているが、祭祀と並行して民の命をここに居る皆で守って欲しい…調和された源泉からの水だけでは淀みを浄化する事は難しいだろう」


「浄化の出来る者、黒魔粒子を扱える者は俺が神力を与える…それを使って今すぐ各地へ赴き出来るだけ泉から離れた場所に住人を移動、保護してくれ」


ビクトラを筆頭に騎士隊達が立ち上がると敬礼して歩き出した。

もしかしたら皆と会えるのは最後かもしれないと、足に力を入れ必死に

その場に立っているグレースの横を通り過ぎ、退出する騎士隊員一人一

人の肩に触れ、神力を纏わせた。

最後に朱雀がグレースの正面に立つと深く一礼して通り過ぎた。


「お前等‼︎…お前等の命は俺の物だ。勝手に死ぬなよ…必ず神殿に帰って来い」


「「はいっ」」

騎士隊員は誰もが覚悟を決めて大ホールを後にした。


「朱雀!」

呼び止められた朱雀は、扉の入り口で止まるが振り返らなかった。


「お前に名前をやる…コル

「コル…これよりはコルと名乗ろう」

「俺のコルはお前だ…忘れるな」

「?」

朱雀はコルの持つ意味が理解出来ず、そのまま歩き出した。

「コル!…最後だっ…愛してる…愛してるよ」


旅が終わるまでは告げないと約束した言葉が朱雀の心に突き刺さった。



今、その言葉を言うのだな。

我はずっと愚かで従順でいれば、いつかは我だけを愛してもらえると…

高を括っておった。

しかし、グレースよ…お前はいつも我を誰かの代わりにしておったな。

ビクトラ、アガット、リャーレ…時にはコレットやガットにまで嫉妬し

たぞ。いつからか…期待する事をやめて、ただグレースと都の望む様に

してやろうと思っておった。どう小僧等に見せつけられようとも、

旅が終われば、我が元に来るのだと…あの天界での約束だけを信じた

からだ。

なのに…その約束は二度と果たされる事はないのだな。権能が…神に

など成れる訳がない。信仰により上神すれば神体という器にお前は

なるだけで…もうグレースというお前は存在出来なくなる。

忘れるなだと?

未来永劫、この生涯を以てしても忘れられる筈もない程にお前が憎い、

憎い、憎い……誰よりも愛したお前に捨てられた…側に居ろと言う事も

無く…お前は我を捨てたのだ。なのに…何故、お前を奪い去りたいと

今でも思うのか…本当に憎らしい。


「さらば、我が唯一神」


朱雀はもう泣かなかった。そして焔を散らして前へと歩き出した。


朱雀、悪いな。

お前を側には置けない…きっとお前は俺と共にあろうとするから。

神体化すれば、俺はお前を抱く事も、愛を囁いてやる事も出来なくなる

から…約束を破ってしまうけど、許して欲しい。

気付いていたよ。お前がいつからか、俺と寝なくなった事…ヴィク達に

腹を立てていた事もな。

甘えていたんだ…お前だけは離れない…離さないでいられるって。

けどきっと…俺はこの為に生み出された人格なんだろうと思う。

離したくない…裏切りたくないよ、もう一度お前の羽根に包まれて

眠りたい。朱雀、朱雀、朱雀…俺の可愛い小鳥。

必ず帰って来い…俺の代わりに都を愛してやってくれ。




グレースは、コルの言葉に嗚咽を堪えながら、それまで繋いでいた

皆の隷属と真名を解放した。


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