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新世界編

ガーライドナイトの消滅(2)

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 モルトゥーレ大森林の神核を前に、グレースとサリザンドはどうすれ

ばこの神核を移動できるか考えていた。ポータルを使ってソレスを呼び

に戻るか、なんならいっそのこと砕いてフレ湖に沈めるか、そんな現実

的ではない事を言い合っていると背後からガサガサと草木が擦れる音が

して、二人は振り返った。



「おんやぁ、この前のお兄さんでねーか」



糸目に眼鏡を掛けた男が現れ、サリザンドに近づくと顔を寄せて確かめ

ていた。



「近い!村長、なんでここに?」

「んん?なんでーってオラの仕事は神送りだでね、今から淀みで浄化の終わった神を天界に還すんだわ」

「おい、なんだその仕事…聞いてないぞ?」



サリザンドは眉間に皴を寄せ、カバンから師匠の残した分厚い本を取り

出し、ペラペラとページを捲っている。

しかし、その様な仕事はどこにも記載されておらず苛立ちを隠さず村長

に噛みついた。


「なんでこの前そんな重要な事を教えなかったんだ!」

「重要な事だからでねーか。オラ達隠し村がなんで隠れてんのか、教えたべ?」

「神獣の役割を担う…そうだったな?」

「んだよー。テュルケット様が権勢を振るっとったときゃーね、毎日が死と隣り合わせだったもんでね、そうそう村の内情は教えらんねス。こん前はソレスの事もあっだし、玄武様から手伝ってやれってお言葉があっだがら、教えられる事は教えて差し上げただね。」

「それどころではないんだ!後1週間もせずにこの世界の結界全てが崩壊する…そうなったらどうなるか分かるか?淀みがこの地上に広がっちまうんだよ!今朱雀や青龍、白虎に玄武が集まって皇帝宮に居る…この神核を使って淀みの浄化、もしくは結界の修復をしないと、この帝国の主神の魂が淀みの浄化の為に使われてしまう!」

「おん?主神ってグレース神だべ?んだら、申す訳ねすがそん神様に縋るしかねすね」

「…オイ、そこの田舎者。さっきから黙って聞いていればいよいよムカつく奴だな。お前、名前は」

「オラ、マーレスっつーだ。それにすても、誰だべぇこの別嬪さん」



不機嫌を限界突破したグレースを背に隠していたサリザンドは、溜息を

吐いて目を瞑った。



「おい、糸目。目ぇ見えてんのかそれ」

「ん?オラの目はしっかり見えとるだよ?かわえー顔もしっかり…ぐぶぉっふ!」



グレースは神力を拳に纏わせ、マーレスの顔を殴りつけた上に腹部に

回し蹴りを喰らわせた。勢い良く横に吹っ飛ばされたマーレスは目を

白黒させている。ズンズンとマーレスに近寄ったグレースは彼の胸ぐら

を掴み上げ吐き捨てた。



「俺がグレース神本人だよ。淀みに堕ちてんのは俺の半身だ」

「あわわわわ、そ、それは失礼な事をいっただね?」

「なんで疑問形なんだよ。いいか?よく聞け、死にたくなければこの神核を淀みへ送る方法を教えろ。もしくは…俺を淀みへ送る方法だ」



サリザンドはグレースの肩を掴むと、驚き声を失った。


何を言っているんだグレース様は…淀みにグレース様が向かった所で

何が出来る?そもそも淀みに堕ちて都と合流できる可能性はどれ程ある

んだ…淀みの大きささへ検討もつかないと言うのに。

相変わらず無鉄砲な人だな…。

しかし…それしか方法は無いのかもしれない。



「あのなぁ、忘れてるかもしれないが俺は一度淀みに堕ちてるんだよ。都と合流さえできれば調和でまた戻ってこれる」



その方法は俺も考えなかった訳じゃない。けれど、あのカイリ殿の様子

を見る限り都が意識を取り戻すのは難しいんじゃないだろうか?



「んー…オラにグレース神を淀みに落とす事はできね。方法が無いわけじゃねーけんど、グレース神は…権能だべ?」



マーレスの言葉にサリザンドは眉を潜め、グレースは何を言っているの

か理解出来ないとぽかんとした表情でマーレスを見ていた。



「ん?俺が権能?」

「んだね。オラ真眼、鑑定神眼もっとるだ。んだから見えとるんだよねぇ。グレース神に人の魂はねぇだ…んーーなんだろねぇ、色々ごちゃごちゃ混ざっとるけんど…なんて字だぁ?オラには読めねぇな」



サリザンドは横たわるマーレスを起こすと、紙とペンを渡し書き写させた。



憤怒・嫉心・大祓い・天光・天隠し



「これ、都が以前教えてくれた漢字というやつなのでは?」

「あぁ…憤怒、大祓い、天光、天隠し…これが俺だってのか?」



グレースは未だマーレスの言っている事が納得できず、あきれ顔で

マーレスを睨み上げた。



「オラは見えた物しか言えねぇだが、グレース神は権能使えるだか?」


その言葉にグレースは目を見開いた。確かに、グレースが使えるのは

神力と調和のみで都の様に権能が使えるという訳ではない事を思い出し

た。



「で、でも!調和は出来る!」

「んー?今出来るだか」

「え?どういう事だよ」

「半身の魂があったから出来たんでねーか?神核や魂に権能は宿るって聞くだが、あんたはそうでねぇんだわ」

「多分、半身の元々持っとった権能やね、それがなんらかの理由で本体の魂から切り離されて人格を持って体に定着しとるんだわ。よかったね?あんたはこの身体からよっぽどの事がねーと抜けられね。珍しい事もあるもんだ、権能が体を持つなんて事普通あり得ねぇだよ」


マーレスの言葉にグレースは地面に座り込み、ぐるぐると今までの事を

思い出していた。


俺はいつから俺だった?

確かに、覚醒したのは天界だった…あそこなら都が持っていた権能を

切り離して人格を与えるなんてこと、造作もなくやってのけるかもしれ

ない。俺と都は…半身じゃなかった事なのか?


目に見えて動揺するグレースの腕を掴み立ち上がらせると、サリザンド

はグレースの顔を掴み、目を合わせて言い含めた。



「グレース様が権能であっても、無くても!都の半身は貴方なんですよ!間違えないでください。いいですか、神核や魂、加護に権能…そんな物関係ないんですよ!都は貴方がいたからこの世界で生きてこられたんです。今もきっと貴方を呼んでいる…悔しいですが、ルーナや私ではないのですよ…分かっていますか?その事を」


必死に訴えるサリザンドの悔しげな表情に、グレースは眉を下げて

可笑しそうに笑った。


「くくくっ慌てんなよ。分かってるよ。俺が悔しいのは、淀みに行けねぇって事だ……でも、何で俺は前に行けたんだ?」

「確かに…ですが、あの時グレース様の身体は消えかけ死の淵にあった…だからでしょうか?神核が産まれたのはその時でしたね」

「あぁ、月読命が神々の神核の欠片を合わせたって言ってたな」

「そういやぁ、テュルケット様の権能にそげなのがあったねぇ」



ウンウンと唸るマーレスは懐から手帳を出すとページをペラペラと

めくり見つけた文字をサリザンド達に見せた。



「相殺…?どう言う意味だ?何と何を相殺させたというんだ」


グレースがチラリとマーレスを見ると、マーレスは首を傾げ答えた。


「さぁ?相殺っていうからには、グレース神を堕とす事で何の罪を打ち消したんでねぇか?これで堕ちた神が結構おってね?神送りの際によーけグチグチと言われたんよ」


「しかし、グレース様がいらした時にはテュルケット神は既に神隠れと神殿や教会も公言していた」


「んー。ならオルポーツ様が引き継いどったんかもなぁ?」


「オルポーツ…あいつか…やりかねねぇな」



三人は結局淀みにどうやっても向かえないという結論から、目の前の

神核を使わずに淀みの浄化が行えるのかと頭を悩ませていた。

マーレスは神核に触れ、神送りをすると突然言い出し手を翳すと魔粒子

を流し出した。



「おんや?麒麟様起きとらすね、何かあっただかね?こら一大事!」

「あんたら、一度オブテューレの泉に行った方が良いかも知れねーよ?麒麟様の記憶はあそこに眠っとるでね、何か話しが聞けるかもだよ?」

「お前はどうすんだよ?」

「オラさ神送りせねばなんねから行けねーだ。ソレスに宜しく言ってけんろ」



神送りを始めたマーレスの姿を見つつ、グレースとサリザンドは一度

本教会へ戻り、そこからオブテューレへ向かう事にした。








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