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新世界編
皇帝として(2)
しおりを挟む父が反旗を翻し、私を殺そうとするであろう事は即位してから
ずっと覚悟していた事だ。皇族として生まれながら、神と民への想いを
蔑ろにしてきた報いだと、父が蟄居する事が決まった際は思った。
しかし、騎士隊に見せられた父と叔父達のやり取りを見てしまってから
というもの、私の中にある疑問が常に浮かんでいる。
何故…
何と愚かな者であろうかと口を開いてしまえば侮蔑の言葉が突いて
出る。しかし、私も父の血を受け継いでいたのだと、グレース様が
ガーライドに行ってから思い知らされた。
神を妻に娶る、そう決めてから私の行動の全てがグレース様の為の
物であったと、この城が占拠されて初めて気が付く程に私は熱に浮か
されていた。
責務を忘れた訳では無かった。しかし、本能に任せた行動をとっていた
事は言い訳のしようも無い事実だ。そのツケを払う時が迫っている。
「陛下、オルポーツ様より面会要請が届いています。如何致しますか?」
「…分かった。日時を定め離宮へ行くと伝えてくれ」
「…はっ!畏まりました」
ザッカリーは頭を下げると執務室を出て行った。そして、入れ替わる
様にウォーレンが入ってきて、目通りを許して欲しい者を連れてきたと
言った。
「…この状況で誰を連れてきた」
「はっ…実は…ヤルダ殿でございます」
「ヤルダだと?はっ、今更何用だ」
「お会いして頂けるとお分かりになられるかと…それと…ロンベルト様の事をお伝えした方が宜しいかと…」
「ロンベルト叔父上…叔父上が危篤だったというのに、その妻はどこで何をしていたのやら。神を復活させるなどと世迷言に浮かれた挙句に叔父上をグレース様に看取らせるとは…何と出来た妻であろうか」
サリューンは魔道具を机に叩き付けると立ち上がり、控えの間へと
向かった。
「連れて参れ」
「は。しかし、驚かれるかと思いますので先にお伝え致します」
「…?」
一体何だというのだろうか、驚くような事がヤルダの身に起きたのか?
全く想像がつかないな。本来ならば顔すら見たくない…なんなら今
ここで首を落とされても奴は文句も言えないのだと分かっているのだ
ろうか?
「姿が全く別人になっております…驚かれませぬようにお願い致します」
そういうとウォーレンは控えの間を出て行った。そして、暫くして
扉がノックされた。
「入れ」
「失礼致します」
ウォーレンが執務室控の間に改めて入室すると、その背中にすっぽりと
隠れていた老人が顔を見せた。
サリューンは組んだ手を緩め、呆然とその姿に釘付けになってあんぐり
と口を開けている。
「サリューン…様…ご無沙汰しております。ヤルダでございます」
「……その姿、どういう事だ」
「……お恥ずかしいのですが、呪いを受けました」
「呪いだと?お前が掛けたの間違いでなくてか?」
「…お戯を」
「はっ、ははっ、あはははははは!くっくっくっ、しでかしたツケを
払ったか!あははは!良い気味だ」
「……笑い事ではございませぬ。この呪いをかけたのは…ジジ•フィルポット本人ですぞ」
「そうか、それで?」
サリューンはニコニコと笑うと、怒りに青銅色に変わる瞳でヤルダを
見つめた。サリューンにとって、誰がヤルダに呪いを掛けたかなどは
どうでも良かった。それよりも、帝位簒奪、国家転覆、国教侮辱、
グレースの暗殺未遂などを図った事の方が問題だった。故に、過去に
存在した人物が生きていて、その者が天に代わり犯罪者に罰を与えたと
して、何が問題なのかサリューンには分からなかった。
「‼︎ それで、ですと?分かっておられるのですか?ジジ•フィルポットが動いた、それは黄竜が動いたということですよ?東の結界が壊される可能性もある!」
その言葉にいよいよサリューンは可笑しくなって、机を叩いて笑い
出した。
「はっ、ははっ、あははははははははっ!馬鹿者っ!お前こそ何をその口で言ったか分かっておるのか?」
「は、は?」
「お前達には好都合ではないのか?西の神殿と本教会の泉を繋いで結界を緩めたのはお前達ではないか!今更何を殊勝な事を言っている?なんであったか?澱みを神体に流し込む…であったか?西の結界が復活して慌てておったな」
オルポーツ達と準備してきた事の全てをサリューンが知っていた事に、
ヤルダはその朽ちかけた身体を震わせその場に座り込んだ。
「ご、ご存知だったのですか?…全て…」
「あぁ、ずっと思っておったのだ。合わせて齢約1000歳の年寄りは集まってもボケているのだなと…父上達との密談、何処で行なっておった?…離宮とはいえ、皇城の中だぞ。しかも蟄居中の犯罪者だ。全てが監視されておるとは思わなかったのか?ずっと、この密談すらも謀りではないかと裏を読んでいたが、まさか、まさかだ!本気で誰も見ておらぬと思っていたのだな?」
サリューンは膝をパンパンと叩きながら腹を抱えて笑い転げた。
ヤルダはワナワナと締まりの悪い唇を震わせ、口の端に泡を溜めながら
叫んだ。
「何が分かるっ、何が分かるというのだ!お前がのうのうと玉座に座り、アバズレの尻を追いかけまわす事が出来たのは誰のおかげだと思っている!ロンベルトを含め、我々四聖獣の子孫が命を削り結界を守っていたからではないか!神核持ちが偉そうに下々を蔑みながら力を使えるのは、我々がお前達の代用品として…獣の命を差し出しているからだ!」
ゴホゴホと、咳き込みながらヤルダはサリューンを睨み、床に爪を食い
込ませた。
静まり返った控の間に、鐘の音が響いている。
サリューンは天を仰ぐと息を吸い込み話し出した。
「ならばなぜグレース様の力に頼らなかった。ただ奪われ続ける事を忌避するのならば、差し伸べられた手を取るべきであっただろう」
「一体、いつ手が差し伸べられと言うのだ‼︎」
「…グレース様が皇城の神殿にて覚醒された時、我々に神が手を差し伸べて下さった瞬間だったはずだ。調和が齎され、大地が蘇り、澱みが浄化されたなら…結界は無用の物となったのではないのか?現に帝都以外の地には純粋な黒魔粒子による自然界への魔粒子供給が行われていると報告が上がった。なぜ、帝都には届いていないのか…分かっているな?」
「我々の所為だとでも言いたいのか?」
「其方らが白使いを使いフルフォンドと何をしようとしていたのか…何をしたのかも知っている。それよりも、眠る神々の怒りを呼び覚ましたお前達の尻拭いにこちらは対処しなくてはならなかった。だから何も言わなかったし、泳がせていた。」
「フルフォンド…魔粒子爆発は…起きなかったろ?何を言っている」
「帝都の魔粒子濃度低下は其方らが原因だ。フルフォンドの技術でもって自作自演をするつもりだったのだろう?」
ヤルダ達は、帝位簒奪が謀反と国民に捉えられない様に、帝都に連れ
込んだ白使いに浄化をさせまくり、魔粒子濃度を故意に下げていた。
そして、フルフォンドの開発した技術を以って、神による恩恵なくとも
生きていける事をアピールしようとしていた。そして、その技術を
推奨したのがオルポーツであるとするつもりであったのだ。
「全てに勝敗は着いたのだ。」
「…はっ、小僧が、、まだ我々は負けてなどおらぬわ!」
「ウォーレン、勅令を持て」
部屋の隅で、ヤルダを見ていたウォーレンは、心なしか悲しみをその
瞳に宿しサリューンに勅令を渡した。
サリューンは勅令に最後のサインをすると、立ち上がれないヤルダの
目の前に叩きつけた。
「ヤルダ•ティレッカート、オルポーツ·タイレーン二名を国家転覆罪、並びに主神への不敬罪により死罪を申し付ける。異議は認めぬ」
「皇帝として…初の勅令が父と叔母の死罪申し付けになるとは思わなかった…。苦しんで逝くがいい。特務隊員…連行しろ」
部屋の四隅から、視認阻害の呪法を使って姿を隠していた隊員が現れ
ヤルダの腕を掴んで立ち上がらせると、ズルズルと廊下へと引きずり
だした。
「まて!ロンベルトはどうなる⁉︎ロンベルトも共に私と逝かせろ!」
サリューンは右手人差し指を天上に突き上げ、左手で耳後ろに手を
当てると、耳を澄ませろとヤルダに言った。
カーーーン カーーーン カーーーン カーーーン
「…もうすぐで31回だ」
ヤルダは床に倒れ込み、ガクガクと震えながら床を這って何処かへ
行こうとしている。
「感謝するといい……グレース様に痛みを取ってもらい、安らかに逝ったぞ…」
「うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!あーーーーーー!あーーーーーー!
ロンベルト‼︎ ロンベルトーーー!」
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