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新世界編

齎された吉報

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地下水路の先の制御室では、バタバタと隊員達が情報を集め指示を出す

など、忙しなく動いている。そして一際温度の低い部屋の奥では、壁側

に設置された監視魔道具をビクトラは睨みつけ、オルポーツ達の様子を

伺っていた。


「後十五分で部屋の確認に見回りが来ます、大隊長そろそろ移動準備をしてください」


清掃員の格好をした隊員がビクトラに声を掛け、掃除道具を抱えてポー

タルに入ると転送位置を設定し始める。マラエカはゆったりとしたロー

ブだけを羽織って、さも今から眠るだけといった格好で、頭をぐしゃ

ぐしゃと搔き乱しながら眼鏡をはずした。


「大隊長、どう睨んだってあの阿呆には届きませんよ…さぁ行きましょう」

「あぁ…分かっている」



マラエカはビクトラの姿に小さく息を吐くと目頭を押さえ、

あの日からの事を思い返した。

都様の消失を知ってから三日が過ぎ、大隊長は笑う事も冗談を言う事が

無くなった。まぁ、暴れないというだけマシなのかもしれないが…。

朱雀殿は散々暴れまわって結界でヤルダ殿の配下に捕縛されてしまい、

今は教会の牢に繋がれているし、アガット隊長は部屋から出てこなく

なり「作戦の邪魔はしない、俺は別行動する」とだけ言って作戦に参加

もせずに個別で何やら動いている。

しかし、誰もそれを咎める事はしない…いや、出来ない。

サリザンド殿は一度作戦室に来たけれど、オルポーツ様達の動きの

確認をすると直ぐに部屋を出てしまって、それからの動きが掴めて

いない。まぁ、あの方の事だ…こちらの不利なるような行動はしないと

信じている。

何よりも問題なのがルーナ医務官だ…都様の残した物を探しに行くと

言って城を抜け出した様だが…一枚岩だったはずの騎士隊はオルポーツ

派とグレース派に分かれてしまい、俺達も纏まりを失った…。

愛とは本当に面倒な物だ、俺は幸運だったのだろうな…あのお二方に

懸想する事が無かったからこそ、唯一冷静でいられた。

はぁ、本当に神様というのは救いでもあるが、害でもあるな。



そんな事をマラエカが考えている内に、ポータルが起動し大隊長室に

転送された。隊員それぞれが隊長室に設置された簡易ポータルで各々の

持ち場へとさらに転移していく中、大隊長室控えの部屋にある浴室の

ポータルの起動音にその場に居た隊員達は身体を強張らせた。

ビクトラは、足首に忍ばせた魔導銃を取り出し構えると控え部屋の

扉の影に体を隠し、室内の音に耳を動かした。


「あーーっ、重い!なんだよ、都はこんなに重くないって言うのに、四体分か?四体分の重さなのかよ!?」


ルーナの声に、ビクトラは目を見開いて扉を開けた。中に入り込むと、

その勢いでルーナはグレースのコピーの下敷きになって倒れてしまった。


「おいっ!ルーナ!何をしている!」

「大隊長!ちょっと、なんですか急に扉を開けるなんて!すみません、このグレース様のコピーどかしてくれませんか?」

「あ…あぁ」


ビクトラとマラエカ達に助け出されたルーナは、満面の笑みでビクトラ

達を見つめて抱き着いた。

ビクトラとマラエカは驚いて顔を見合わせたが、状況が掴めず固まって

いる。


「大隊長、大隊長!生きていたんです、都は生きていたんですよ!」


ルーナの言葉にビクトラは動けず、視線を宙に彷徨わせたまま立ちす

くみ口元を震わせ、マラエカは頭を抱えてふらふらとベットへ歩くと

ドサッと倒れ込んで枕に顔を埋め叫んでいる。


「……う、嘘、嘘だ…」

「いえ、嘘ではありませんよ!俺が都の事で嘘を吐くはずがないじゃないですか!」

「ソレスの知り合いに助けられたというか、依り代が崩れたのはその人の所為なんですけど、今は別の身体を依り代にして都は生きているんです!」

「そうか、そうかよっ!良かった、良かった。都は生きているんだな…」



部屋にいた隊員達は、ルーナの言葉に顔を見合わせ抱き合ったり、

拳をぶつけ合い喜んでいた。マラエカも、慌ててベッドの上で寝ころん

だまま作戦室や独自通信回線の繋がっている隊員達へ都の無事を

伝えた。





「で、都は今どこにいるんだ!」


ビクトラはルーナの肩を掴み揺するが、ルーナはどう説明するべきかと

溜息を吐いて執務室の方へと移動した。

執務室に防音結界等を張り直し、ルーナはソファに座りゆっくりと状況

説明を始める。


「…という訳なんです。今、俺の部屋に居ますが結界で隠しています。それに、都の魂はグレース様のコピーではなく、元天帝正妃でありこの帝国の初代皇帝のカイリ様の復活した肉体にあって…その、これがまた厄介な点でもあるんです…」

「厄介?」

「その肉体にはかなり強力な加護…いや、オートモードな権能がついていまして…」

「あ?なんだ、そりゃ…それよりそのジジって奴は信用できるのか?大分胡散臭ぇぞ」

「えぇ、俺も完全に信用している訳ではありませんが、カイリ様の肉体を都が持っている以上、都に危害を加える事は有り得ないと思います」

「そ、そうか…なら良いが」


二人のやり取りを聞いていたマラエカが、渋い顔をしつつルーナに向き

合い「話をもどさせてくれ」と言い話の腰を折った。


「その、権能ってどんな物なんだ?そこまでお前が口籠るなんて、よっぽどだろ。厄介なのか…?」

「…魅了…です」

「「魅了!?」」


ルーナはチラリとグレースのコピーに目をやると、ビクトラとマラ

エカ、他の隊員達もつられて視線をベッドへ向けた。


「まさか…魅了にやられた…のか?」


「はい…俺は事前に軽い魅了の呪法と結界をかなりきつめにかけているんで、気合入れている間は…大丈夫です。気を抜くと、ヤバいですよ…このコピー…ほぼ半日以上この状態のようですし」

「だけど、この呪法を掛けられるのはジジさんしか俺は知らない…もしサリザンドが知っているなら…と思ったんですよ。あの人…どこに居るんですかね?」

「…さぁな。どうせこの状況じゃ表には出られない…いい所で禁書庫か教会書庫だろう」

「なんとか…連絡がつけられないでしょうか」


ルーナが溜息を吐いてマラエカを見るも、マラエカも首を振って『無理だろう』と言った。


「まぁ、なんだ。ウダウダ言っていても始まらねぇ!見張り時間をやり過ごした後、リャーレ、ホルー、マロ、ラファエラ、サリンジャー、連絡が取れるこちら側の各班長以上の隊員に連絡取りこの部屋へ呼んでれ」


ビクトラの指示、隊員敬礼して動き出した


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