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新世界編

駆け引き

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 ソレスを抱えたジジは、ヤルダに指定されたポータル座標に転移地を

定め、先に出発した。



ジジさんとは互いに、通信用魔道具を耳裏に仕込んで連絡が取れる様に

もしているから、なんとかなるよね?でも不安がやっぱり拭えない…

ヤルダさんは何を企んでいるのか…そして、ビクトラさんはヤルダさん

をどう思っているんだろう。



ルーナは何やら考え込んでいる都の腕を掴むと、顔を覗き込んだ。

「大丈夫?」

「…だいじょばない。不安しかないよ、ルーナ」

「俺も側にいるよ…ずっとね?何とかなるさ」

ルーナは、グレースの身体よりも小さくなったカイリの身体を抱き

寄せて、キスをした。

「久しぶりの都とのキスだ…やっと、俺は安心できたよ…」

「ごめん、もうルーナとサリザンドの側を離れないよ。こんな事は俺も二度とごめんだ…」

眉を八の字に下げながら微笑むルーナは、コツンと都の額に額を重ね

都を見つめた。

「そうだよ…都は忘れちゃ駄目だよ?都がいないとおかしくなる男が居るって事をさ…」

「…うん。俺も同じだ…ルーナとサリザンドがいないと…不安しか無かったよ」

ルーナと都は笑い合い、抱きしめ合うと未だ倒れて目覚めない四聖獣の

依代となっている身体を抱えて、ルーナの部屋へとポータルで向かっ

た。



 「ジルジード殿!」

ポータルに現れたジジの姿を見て、ヤルダが駆け寄ってソレスの

獣体を抱き抱えると、頭を下げた。ジジも恭しく礼をすると、ヤルダの

後ろに立ち、ソレスを受け取ったサリンジャーに視線を向け相手の戦力

を探った。

「ヤルダ様?こちらグレース様のお部屋なのでは?」

ジジは辺りを見渡し、ヤルダ配下の者達の顔を記憶してゆく。

「いえ、色々と混み合った事情にて、お部屋を変えさせて頂いたのですよ」

「左様でしたか。実は、一度宵闇様にお会い出来るのでは?と少々下心を抱いておりました物で、いや、お恥ずかしい限りでございます。」

ジジは自然な笑みでヤルダを見ると、それではと挨拶をしてポータルへ

戻った。

「其方の隊員様は当家にて治療を致しましたが、当分身体は動かさぬ方が良いかと。是非安静にして下さいませ。では、これにて失礼致します」

深々と頭を下げた瞬間、ポータルの座標が打ち消された。

「おや、おかしいですね。ポータルが起動致しません…」

ヤルダはその言葉に、下げた頭を上げ近寄った。

「なんと、ポータルが…停止でごさいますか?」

ジジは腰の後ろに当てた左手で、座標の刻まれた魔道具を握り砕き

さっとズボンの後ろポケットに欠片を隠した。

「え、えぇ。起動致しません…もしかしたら何者かが当家のポータルを壊したのでしょうか…」

ざわつくヤルダ達を尻目に、ジジは「はて、困りました。この後、

旦那様をお迎えに行く予定なのですが…」と嘯き、このまま部屋を

出て歩いて帰る旨をヤルダへ伝えた。


「少々お待ちを。こちらにて準備致しますので、ポータルをご使用ください」

ヤルダは焦らず、隊員に簡易ポータルの準備を指示した。

「ヤルダ様、当家のポータルは現在二つ…一つは旦那様の部屋の物と、正門設置の物二つでして。今回正門の物を使用したのですが…其方が破壊されていましたら、もう一つの座標は使用時に設定する為、分から無いのです」

「それは…困りましたな。現在こちらの騎士棟は封鎖予定でして…正門よりお出し出来ないのです」

「申し訳ないが、ダレンティア邸付近の騎士隊駐屯地にお繋ぎしても宜しいか?」

ジジは、懐中時計を見てフムと考えた。


後もう少し粘るか?都達も戻っているだろうがここでヤルダを

彼方へ向かわせる訳にはいかないし…


ジジは懐中時計を内ポケットに戻すと、ニコリと微笑みポータルから

出た。


「宜しければ、旦那様の執務室控えにお繋ぎ頂けますか?入室制紋はありますので」


ジジの質問に、ヤルダは一瞬苦々しい顔をしたが、すぐに表情を戻し

ニコリと微笑んだ。


「申し訳ないのですが、警備上城への接続は出来ぬのです」

「どうしましょう。では、城門前までお願い致します。改めて入城手続きをいたしまして、主人の執務室へ迎えに参りますので」

ヤルダも、これ以上転送可能場所を伝えるのは得策ではないと考え

髭をなぞり考えた。


「では、カバラーク殿にこちらから連絡致しますのでお待ちを」


ヤルダは部屋を出ると向かいの小部屋に入り、通信係を呼んだ。


「こちら皇帝執務室」

魔道具から返事をする通信係に、ヤルダはカバラークを出す様に

言った。


「…なに用だ、ヤルダ総局長…嫌、反逆者よ」

「はっ、何も出来ぬ者が吠えるで無いわ」

「今お主の侍従、ジルジード殿がこちらにおるが、其方の声を聞かねば城に入り込む勢いでな…余計な事を言えばサリューンを殺す。良く良く考え屋敷へ戻る様、言い含めるのだな」

「ジルジード…だと?」

その言い方に、ヤルダは眉をピクリと動かした。


ジルジード…だと?  と言ったか…?侍従なのだろうにその反応…


「なんだ?…もう本家より戻っておったか。仕方ない、私からそう伝える…代れ」

カバラークの言葉に、気のせいか?と疑問を感じたが、ジジを向かいの

部屋から呼び出し、魔道通信具の前に立たせた。


「旦那様、ジルジードに御座います。申し訳ございません、ポータルが何故か起動せず、ヤルダ様にご迷惑を…」

「いや、構わん。ジルジード、屋敷に戻っておれ。私は皇帝と摂政、宰相補佐、内務大臣殿達との仕事が残っておる。そろそろあの方のお目覚めの時間だ。私の事は良い、あの方のお世話をしっかりとする様に。お食事はいつも通り、妻の部屋に運んでおけ。彼方の遣いが受け取りに来られるだろう」


拘束されているのはサリューン陛下、摂政、宰相補佐、内務…か

これは完璧に城が落ちたな。さぁ、どうする?

黄龍を起せと…ふむ。まだ早いのではないか?カバラーク…

しかし、それほど切羽詰まっているのか。


「畏まりまして御座います、旦那様。それでは私はお先に屋敷にてお戻りをお待ちしております。あっ!忘れておりました!昨夜、我が妻が目覚めまして、旦那様へ真っ先にご報告致しますつもりが…申し訳ございません。治療の手配から何までお世話になりましたのに…」

「なっ!そ、そうか!それは良かった!そうか、目覚めたか…して具合は?」

「えぇ、変わらずに美しく…いつまでも私を致します」

「そ…そうか!そうか……それは、私も会いに行かねばなるまいな…」

「えぇ、妻もカバラーク様へのご挨拶がしたいと言っておりますので、また後日連れて参ります」

「あ、あぁ…楽しみだ」

明らかなる動揺に、ヤルダは眉間に皺を寄せてジジの背中を睨んだ。

「では、私はこれにて失礼致します」

「気を付けて帰れよ…ジルジード」

「はい、旦那様もご無理致しませぬ様に」

通信が切れ、ジジはうっそりと微笑むとヤルダに向かい礼をした。


「それでは、お手数お掛けいたしますが宜しくお願い致します」

「えぇ、では参りましょうか。して、奥様はご病気で?」

「はい、黄龍様の元で永い眠りについておりましたが、先日ようやっと目覚めました。故に本家より参ったのです、旦那様と黄龍様の繋がりは深うございますれば、お力添えを頂きましてなんとか」

「左様でしたか。いや、おめでとうございます。私も一度奥様にご挨拶したいものですな」

「本当でございますか?是非!妻は白虎様の武勇伝が大好きでして!喜びます!」

ヤルダはニッコリと微笑むと、ポータルの座標を設定してジジを

見送った。



「サリンジャー、ソレス隊員を神殿泉に繋いでおいてくれ。私は出てくる」

ヤルダは不可視の結界と認識阻害の結界を張ったマントを羽織ると

部屋を出た。


ジルジード•フィルポット…ただの侍従ではないな?

あいつが作戦の綻びとなってもらっては困る。仕留めておかねば…

ヤルダはポータルを起動すると、ジジの転移先付近に転移した。






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