上 下
197 / 200
閑話

この子どこの子⁉︎

しおりを挟む

 これはまだ、グレース達がガーライドナイトへ発つ前に起きた騒動。



 騎士棟東門側の病院で特務隊医務官のルーナは重篤患者の回診を

行なっていた。この国に医師は存在せず、魔粒子を介して治療を行う

事の出来る医務官が医師代わりとして、交代制で病院を周り治療して

いる。

「はい、もう大丈夫ですね。治療後は抵抗力が下がるので再発する方が多かったんですよ。グレース様のお陰で空気中の魔粒子汚染量が減ったのが救いでした。」

ルーナは患者の手を取り、色のバランスを考えた作られた白魔粒子を

魔道具から出すと患者に流し込み治療を終える。

そして医療用魔道具の入った鞄を持ち、ルーナは病院の備品室へと入る

と、使用した治療用魔粒子の補充を行い始めた。

半分程備品や治療薬、ポーション、魔粒子を補充した所で、忙しない

足音が通路に響く。


「ルーナ医務官!こちらでしたか!」


備品室の扉を勢いよく開けて病院事務員が駆け込み、ルーナの肩を

掴むと、前後に揺さぶった。


「うぇ⁉︎何、何事⁉︎」


ガシャ‼︎

ルーナは思わず魔粒子の入った瓶を落としてしまった。


「…ちょっと‼︎これ最後の灰色だったのに!」

「それどころじゃありませんって!来てください‼︎」


事務員に手を引かれ、隊員仮眠室横の応接室にルーナは通された。

部屋に入ると、そこにはバチバチと火花を散らし睨み合うビクトラと

獣人の子供が三人いた。


「何、この状況」

「ちょっと、こちらへ!」


コソコソと事務員がルーナを扉近くの本棚の影に連れ出すと、耳打ちし

て教えてくれた。


「あの子供達、グレース様の慰問日調べてきたみたいで、突然グレース様に突っかかったんですよ。それを見た大隊長がキレちゃって」

「うん?意味が分からないよ。どういう事?」

「あの子達、自分達の父親は大隊長だって言うんですよ!名前は知らないけど騎士隊でホワイトタイガーだって母親が言ったと…」

「えっ‼︎マジかよ」


ルーナは三人を見た。

一番大きい子は黄に黒の縞を持ち、真ん中の子は白地にブルーグレーの

縞、一番小さな虎の子は上の兄と同じ柄…モコモコの毛を逆立て

チリチリと微弱な静電気を纏う姿を見ると、大隊長の隠し子と言われて

も仕方が無いかも…瞳は真ん中の子以外は茶色だけど。うーん…

あり得ないはずなんだけどな。


「大隊長は否定してますけど…真ん中の子、どことなく似てません?
黄虎、白虎、黄虎…虎人族って数少ないですし、有り得ますよね…騎士隊の種馬、ビクトラ様なら…」


うっ…たしかに。大隊長の絶倫振りは有名だし、ホワイトタイガーは

特にライディ一族を彷彿させるよな…けど、やっぱり大隊長に三人は

無理だろ。毎年の肉体検査で俺は知ってる…大隊長の精巣と魔粒子の

回路は弱いから、子供は出来なくは無いが難しいって。

大隊長もそれをわかっているからキレてるんだろうな…。


「おい、小僧。くだんねぇ妄言吐いてっと頭から食っちまうぞ」


ビクトラは大人気なく敵意を剥き出しにし、銀髪が逆立つままに

子供に噛み付く。そんなビクトラに臆せず一番奥に座る子虎が

吠える。


「おい!お前、父親としてのせきにんをとれ!」

「とと、かかないてるの。はやくかえってきて」

「とと、かか、なく…とと…かかのこと、きらい?」

「いい加減な事言うと燃やすぞ‼︎」


子供相手に良くあそこまでキレられるもんだと、ルーナは笑いを堪え

つつ、後ろでニコニコするグレースを捕まえた。


「ちょっと、グレース様!なんとかしなくて良いんですか?」

「え?なんで?面白いじゃん」


あぁ、こういう方でしたね。グレース様…


「なー、お前らさ、何でヴィクが父親だと思うんだ?会ったことねーのに」


グレースはドサっと子供らの座るソファの端に腰を下ろし、一番小さな

子虎の頭を撫で回し始めた。


「おい!ビークに触るな!」


一番上の黄虎の子供がグレースの手を叩き落とすと、ガウッと

威嚇した。


「うゎーー!かーーわいい!ガウ!だって!ほら、もっかい鳴いてみな!」


噛み付かんばかりに唸る子虎をグレースはニコニコといなし、小さい子

虎の顎を摩る。

クルクルと喉を鳴らし始めた子虎の可愛さに、都がグレースを押し退け

現れた。


「わぁーー可愛いねぇ僕。お名前は?」

「ぼくビクトーラ。さんさい、ちっちゃいにーにはごさい、おっきいにーにはじゅっさい。ぼくも鳴けるよ」

「ぐあーぐあー」


小さな牙をなんとか見せて大きな口を開けるビクトーラに、大人たちは

思わずほっこりとしてしまい、それがビクトラの怒りに火をつけた。


「都っ!こっちこい、俺の横に座れ!」

「ん?ビクトラさん、何で怒ってるの…」


おずおずとビクトラの横に腰掛けた都を、ビクトラは抱き寄せ思い切り

キスをした。


「んんっ!ちょっ!子供の前で何やってるんですか!」

「都、ほら舌出してくれ。吸ってやる」

「いやいやいや!こらっ!良い大人が何ムキになってるんですか!お父さんなんでしょ⁉︎ダメですよ。情操教育に良くありません」

「俺が父親なワケないだろ!番以外は常に結界はってますぅ!いいか、ガキ共俺の番はコイツだけだ。母ちゃんにちゃんと父ちゃんの名前を聞いてから来い!」


子供染みた態度に皆、やれやれとこの先の展開に頭を悩ませた。

父親のキスシーンをばっちり見てしまった子虎達は泣き出し、

三人は抱き合いビクトラを責めだした。


「こんなのとと違う!かかだけ大事って言ったのに!」
「うぁーーーーん」
「ウルルルルルルッ‼︎こんなていそうかんねんの無い奴、俺等の父さんじゃない!」

「だから!そう言ってんだろ!」


不毛なやり取りが続き、流石にルーナも止めた方が良いと都に耳打ち

した。


「そうだよね…ビクトラさん疑うわけじゃないけど、なんか事情ありそうだし…ホワイトタイガーの隊員っていないの?」


ルーナはコソコソと都に説明する。


「今いる隊員では、大隊長一人かな。ホワイトタイガーの獣体持ってる家系なんて殆どないし、稀に産まれても生存率めちゃ低いからどこも騎士にはしないだろうなぁ」

「虎の血を持つ家系も三つだけだし。ライディ家、ダレンティア家、フルフォンド分家ソルファーノ家で、ホワイトタイガーの出世報告はないね…市井にも虎の血を持つ物はいるけど、純粋な虎となるとこの三家かな…」


ルーナは子供達をみながら、血の混じりは無さそうだなと都に伝えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

先生を誰が先に孕ませるかゲーム

及川雨音
BL
複数ショタ×おっぱい有りマッチョ両性具有先生総受け おっぱいとおしりがデカいむちむちエロボディー! 強姦凌辱調教洗脳脅迫誘導だけど愛があるから大丈夫! ヤンデレ気味なショタたちに毎日日替わりで犯されます! 【書いていくうちに注意事項変わりますので、確認してからお読みいただくよう、お願い致します】 *先生の肉体は淫乱なのですぐ従順になります。 *淫語強要されます。 *複数プレイ多め、基本は一対一です。ギャラリーがいるのはプレイの一環です。ある意味チームプレイです。 *詳しい女性器・生理描写が有ります。 *ゴミを漁る、トイレ盗撮、ハッキングなど犯罪とストーカー行為をナチュラルにしています。 *相手により小スカ、飲尿、おもらし、強制放尿有ります。 *相手により赤ちゃんプレイ、授乳プレイ有ります。 *パイズリ有り。 *オモチャ、拘束器具、クスコ、尿道カテーテル、緊縛、口枷、吸引機、貞操帯もどき使います。 *相手によりフィストファック有ります。 *集団ぶっかけ有り。 *ごく一般的な行動でも攻めにとってはNTRだと感じるシーン有ります。 *二穴責め有り *金玉舐め有り *潮吹き有り

優等生の弟に引きこもりのダメ兄の俺が毎日レイプされている

匿名希望ショタ
BL
優等生の弟に引きこもりのダメ兄が毎日レイプされる。 いじめで引きこもりになってしまった兄は義父の海外出張により弟とマンションで二人暮しを始めることになる。中学1年生から3年外に触れてなかった兄は外の変化に驚きつつも弟との二人暮しが平和に進んでいく...はずだった。

イケメンエルフ達とのセックスライフの為に僕行きます!

霧乃ふー  短編
BL
ファンタジーな異世界に転生した僕。 そしてファンタジーの世界で定番のエルフがエロエロなエロフだなんて話を聞いた僕はエルフ達に会いに行くことにした。 森に行き出会ったエルフ達は僕を見つけると……♡

不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う

らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。 唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。 そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。 いったいどうなる!? [強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。 ※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。 ※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。

転生したらBLゲームの攻略キャラになってたんですけど!

朝比奈歩
BL
ーーある日目覚めたら、おれはおれの『最推し』になっていた?! 腐男子だった主人公は、生まれ変わったら生前プレイしていたBLゲームの「攻略対象」に転生してしまった。 そのBLゲームとは、本来人気ダンスヴォーカルグループのマネージャーになってメンバーと恋愛していく『君は最推し!』。 主人公、凛は色々な問題に巻き込まれながらも、メンバー皆に愛されながらその問題に立ち向かっていく! 表紙イラストは入相むみ様に描いていただきました! R-18作品は別で分けてあります。 ※この物語はフィクションです。

【R18】奴隷に堕ちた騎士

蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。 ※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。 誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。 ※無事に完結しました!

学級委員長だったのにクラスのおまんこ係にされて人権がなくなりました

ごみでこくん
BL
クラスに一人おまんこ係を置くことが法律で義務化された世界線。真面目でプライドの高い学級委員長の高瀬くんが転校生の丹羽くんによっておまんこ係堕ちさせられてエッチな目に遭う主人公総受けラブコメディです。(愛はめちゃくちゃある) ※主人公総受け ※常識改変 ※♡喘ぎ、隠語、下品 ※なんでも許せる方向け pixivにて連載中。順次こちらに転載します。 pixivでは全11話(40万文字over)公開中。 表紙ロゴ:おいもさんよりいただきました。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

処理中です...