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神話編

脱兎

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 ヤルダとの邂逅から、ジジは城門近くの物陰に隠れて認識阻害結界の

中にいるソレスとグレースのコピーをどうやって回収するかを考えてい

た。時間を置いて回収しに行くか、一騒動起こして近くにいる隊員を

誘き寄せ、目が逸れている間に回収するか、どちらにせよ来た道を

戻ることとなり危険度が上がる。ジジは自身に認識阻害結界を張ると

壁伝いにゆっくりと進む。

ちょうどヤルダを見送った角まで来て、通りを確認するとソレス達が

いる木の根元付近にある排水溝がガタガタと動いた。

サッと隠れたジジは目を凝らし、何が起きるのかを見ていた。


ピョコン

真っ白な兎の耳が排水溝から飛び出し、次にヒクヒクと鼻が出て匂いを

嗅ぎ分けている。耳は周囲の音を探るように動きだし、ピンクの瞳が

そっと警戒する様に現れた。

ジジは、敵か味方か分からなかったがその様子から内部から抜け出して

きたのだろうと察して、捕縛の呪法で兎を縛り上げると認識阻害結界で

囲った。

「‼︎」

ジジは耳を掴んでもち上げると、声を落として問いかける。

「お前、隊員か?何故抜け出した。ヤルダの部下か?」

「…お前こそ誰だ?俺は急いでいるんだ…離せ‼︎」

暴れる兎の首には24色の魔粒子がオーロラの様に煌めくペンダントが

二重巻きに付けられていて、その魔粒子を見たジジは顔を近付けた。

「お前…都の者か?」

その言葉に兎はジジを見上げ、手をバタつかせる。

「お前…今、都と言ったか?」

「あぁ、俺は都を皇城に居る本体に戻すために探りに来た」

「あいつの依代は俺が消してしまったから、今仮の身体に魂を入れているが、本体に戻すにはポータルを敷かなきゃならない。入り口を探っていたら城の内部からお前が出てきた…中に入れる道を教えろ」

「都は生きているのか?」

「あぁ。四聖獣の宿った身体とソレスはそこにいる。都は俺の家に隠れている」

「都が…生きてる、生きてるんだな?」

兎はポロポロと涙を零す兎を地面に下ろすと、着いてこいとジジは

ソレスとグレースのコピーを抱き上げ踵を返した。




「ここなら大丈夫か」

城の東門に程近い廃墟となった建物に入り込んだジジは、認識阻害の

結界や呪法を解いて姿を現した。

「初めましてかな、俺は西のモルトゥーレの隠し村で薬師やらなんやらをしているジジだ。お前は?」

「…、俺はルーナだ。特務所属の医務官ルーナ。都は俺の恋人だ…都は生きているんだな?結界が戻ったって聞いて…せめて何か…残っていればって…西に向かうつもりだったんだ」

ジジはソレスに気付け薬を嗅がせながら笑い出した。

「ハハッ!そうか。あいつに恋人がいたんだな、大分箱入りだと思ったが」

ルーナはソレスに近づくと、魔粒子を探り状態確認をする。

「ソレスはどうしたんだよ…なんでこんなに魔粒子の属性が活性化されてる」

「あぁ、都の魅了に当てられた」

「魅了?都にそんな権能はなかったはず…加護か?」

ジジはここまでの経緯を話し、何とかしてグレースの本体の場所まで

行きたい事を伝えた。

「分かった。言いたい事は山程あるけど、後にするよ。今グレース様は教会に居るが、そこに転移するのは危険だから俺の部屋に都を転移させてくれ。で、あんたらは怪しまれない様に総局長の指示ポイントに行ってくれ。これが座標だよ」

ルーナは医療道具の中から包帯を出すと、座標を刻みジジに渡した。

「良いだろう、だが都の魅了の力は生半可な制約や呪法では防げない。
急に転移するとお前も、周囲も危ないぞ。キツめの制約でも構わないなら俺がしてやるがどうする?」

「…俺は既に都に魅了されてるから、要らない。もう、大分狂ってるからね。」

ルーナの、さも当然とばかりの態度にジジは可愛い孫を見る様な眼差し

を向けた。

「そうか、しかしな…あれは強すぎる。四聖獣ですらコレだ。せめてこの呪法は付けておけ」

ジジは陣をルーナの胸元に描くと古代呪法を掛けた。

「これは?」

「魅了の呪法だ。都の物の力と比べると雲泥の差だが、反発しあって影響も少ない筈だ。意識は保てるだろう」

「…そうなると俺…他の奴等に言い寄られたりすんの?」

「………さぁ、一度出直しだ。家に戻って都を迎えに行くぞ」

「おい!俺、大丈夫なんだよね?都以外に言い寄られたくないんだけど!ねぇっ‼︎」

ルーナが問い詰めるも、さっさと簡易ポータルに入り込んだジジは

合掌し姿を消した。

「嘘だろ?」

ブツブツと文句を言いながらも簡易ポータルに入り込み、ルーナは自身

の中から溢れる喜びに涙した。


都に会える…無事、なんだよね?

良かった、良かった…都が生きていてくれるだけで、俺は幸せだ。


















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