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閑話

執事達の偏愛

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 侍従や執事、料理人の朝は早い。二交代制ではあるものの、

皆一様にして四、五時間の睡眠で働いていた。朝番は誰もが嫌がる。

斯く言う私、カナムもそうである。

「サリューン様のお目覚めまで一時間もありません、抜かりはありませんか?」

先日、執事長に昇格したトルケンは各持ち場の長を呼び、毎朝申し

送りや引き継ぎを行っている。トルケン執事長と言う人物を一言で

表すならば、誰もが『美しき影』と言う。形の良い頭に毛髪は無く、

切長の紫の瞳に色素が薄く肌色と同じの唇。モーニングコートに

ウィングカラーのシャツ、執事長の飾りの付いたサスペンダーが

チラリと見えるのがまた格好良く見え、皆の羨望の的であった。

そしておしゃれと言えば、最近トルケンが右耳に付け始めた紫色の

魔石を十二色の魔粒子で飾り付けたピアスもメイドや執事、侍従等の

噂になっていた。多くの者達が、何処で買ったのかを聞いてみたが

教えてくれず、恋人から貰っただの陛下から下賜されたのだとか噂

されている。

「先日、グレース様よりクレームが入りました…しかし、この内容はまだリカバリー可能な範囲と推測します。よって、サリューン様へのクレーム報告、匂わせは絶対に行ってはなりません。もしお話がお耳に入る様なことがあれば、皆さんわかっていますね?」

その細い眼差しで見られると皆固まり、動けなくなる。私は密かに、

彼は伝説の見られると石になると言う魔物の子孫が何かだろうかと

思っている。


「カナム、良いですか?決して、サリューン様に料理を作らせない様にして下さい」

「恐れ入りますが、質問をお許し下さい。」

「なんでしょう」

「その…グレース様のクレームと言うのはどの様な内容なのでしょう?それが分かりませんと…なんともサリューン様をお止めできかねます」

トルケンはグッと顳顬に力を入れると、懐から魔道具を出してカナムに

渡した。

「自室で確認なさい、他言無用です。」

「はい、畏まりました」

「では、本日の申し送りは以上です。持ち場に戻ってください」

皆ぞろぞろと部屋を出て、一日の業務が始まった。



「さて、怖いなぁ。グレース様のクレームか…」

魔道具に認証紋を翳し起動すると、咳払いから始まった。

「ゴホンッ!ん。ご機嫌様サリューン様、私はグレースではなく都ですが、お願いがありまして騎士隊のピショットさんに伝言をお願いしました。」

ん?グレース様では無く都様ですか…。

都様は穏やかな方なので、私はこの方とお話しするのが楽しみなん

ですよね。さり気無い気遣いもして頂き、この方と話すとなんだか

フワフワした気持ちになりますよね。

「実は…その…ガーライドナイトに送って頂いているお料理なのですが、こちらの領でも大変美味しい料理を頂いておりまして、サリューン様のお料理と併せて頂くのが少々きつくあります。出来ましたら、帝都に戻りましたらご一緒にお食事をさせて頂きますので、お料理を毎日送って頂けるのを控えて頂けますと大変有難いのですが、如何でしょうか?」

「先日頂きました肉炒めでしょうか?とても美味しく頂きました。料理人の方へ感謝を申し上げておりますとお伝えください。」

遠回しな言い方ですが、料理を送ってくるなと言う事ですね?

肉の炒め物?そんな物を送っただろうか…確か肉料理で送ったのは

パイ包、ステーキ、シチュー、ハンバーグではありませんでしたかね?

…ハンバーグですか?何故炒め物に…?


「都ぉ!はっきり言ってやれよ!クソマジィって!なんだよあれ、兎のフンかと思ったぞ!」

「こら!やめなさい!グレースが上手く言えないって言うから代わりに言ってるんでしょう?なら自分で伝えなさいよ!」

「それに!折角頂いた物にケチ付けないの!あれがお城では美味しい料理かも知れないでしょ!食べたのグレースだから私分かんないけど、作ってくれた人を傷つける言い方はダメ!料理はどんな物でも出された方は黙って食べてれば良いの!嫌ならアンタが作んなさい!作り手の大変さも知らない子はご飯抜きで充分よ!」

……。なる程、グレース様の文句を都様がオブラートに包んで畳んで

送って来たと言う事ですね?

「これは…言い辛いですね。」

頭を掻きながらどうするか考えていると、最後に都様のお声が入って

いた。


「グレースは、モモムの果物やオレベを使ったお菓子が大好きですよ、お肉よりも果物の方が喜びます!頑張って下さいね♪」

「あと、トルケンさんこの度執事長への昇格おめでとうございます」

「サリューン様へのお料理のお礼と併せて、お祝いをお送り致しております。是非受け取って頂けますと嬉しく思います。またら先日のグレースへのお心遣いありがとうございました。次回は私にもお願い致しますね?では、またお会いする日を楽しみに調和をして参ります。」


なんと!都様はサリューン陛下の気持ちにお気付きなのですね!

流石です。しかし、お祝い?羨ましい‼︎何を頂いたのでしょう?

モヤモヤとしていた私の肩を誰かがポンと叩いた。

「分かりましたか?」

「うひゃう!」

振り返るとトルケン執事長がそこに立っていて、飛び上がって変な声を

だしてしまった。

「トルケン執事長‼︎ちょっと何入って来ているんですか!」

「不用心ですよ、扉が開いていました」

「え?あ、はぁ。でも声を掛けてくだされば良いでは無いですか!」

「訓練です。気配を感じる事を意識なさい」

酷い!なんで俺が怒られるんだ!


「そ、そんな事より!都様の御伝言ですが…」

「…何か?」

いや、何か?じゃないですよ!

「何があったんですか?それにお祝いって何を戴いたんです?教えて下さいよ!」

トルケンはフフンとドヤ顔を一瞬したが、咳払いしていつもの澄ました

顔に戻ってしまった。

「そんな事は気にしないで結構。貴方はサリューン様への対応を考えなさい」

「ちぇっ、いいですよ!俺だって都様から男の嗜みだって部屋用の香袋頂いたんですからね!良い香りだから、私服箪笥に隠してますけど!」

その言葉にトルケンはクワっと目を見開き箪笥を開け出した。

「ちょっ!何してるんですか!トルケンさん!」

「どれですか‼︎都様に頂いたという香袋は⁉︎」

物凄い形相となったトルケンは血眼で箪笥を漁り出し、服を放り投げ

出した。あまりの行動にカナムは驚き叫んだ。

「え⁉︎怖っ‼︎トルケンさん顔‼︎怖いですよ!それになんですか突然」

「はっ!これは失礼。で、どれですか?」

「え…?」

「香袋です、どれですか?」

「あ、こ、これですけど…」

トルケンは手袋をした手を差し出して、乗せろと訴えた。

「い、嫌ですよ!都様からの頂き物なんですから!」

「俺だけの香りだって…え…トルケンさん顔!シワシワになってますって!」

苦悶の表情が、見る者を恐怖の谷底に叩きつける。そんな眼差しに

流石のカナムもたじろぎ交換条件を出した。

「分かりましたよ!代わりに都様から頂いた物教えて下さいよ!」

「チッ…仕方ないですね。これです。このピアスです、余りの美しさに私は思わず都様を追いかける所でしたよ」

まさか!このピアス、陛下と同じで都様の手作り!羨ましい!

「陛下と同じ色だと思ったんです!陛下は24色で翠が基調ですが、
流石都様ですね!」

「えぇ、本当にあの方は神として崇拝してもし足りぬほど神々しい」

うっとりとピアスを撫でるトルケンの微笑みにカナムはドキリとした。

「あ、えと、これが頂いた香袋です!」

「おぉ!!それですかっ!お願いします、少し嗅がせて頂けませんか?」

「えぇ、どうぞ」

香袋を渡すと、トルケンはスンッと香りを嗅ぎ、顔を上げた。

「カナムさん、これ…」

「え?どうかしましたか?」

「都様の下着の香りと同じです…」

「……え?」

何故それを知っているのか?その答えにカナムは恐怖した。

「いえ、以前グレース様が皇帝宮の庭先でビクトラ殿と睦み合っておられたのですが、下履きが汚れ替えが無いかと聞かれたのです。その際、新しい物をお渡ししたのですが、どうも履き慣れなかったようで、転けてしまわれたのですよ。で、腰を強打され動けずにいらっしゃったので、揉んで差し上げたのです。それを気に入って頂けた様で…嬉しい事です。」

何やってるんですかグレース様…。皇帝宮でヤるなんて、本当あの方は

オープンと言うか、はしたないというか、あけすけというか、ビッチと

いうか…。それより、都様もマッサージして欲しいんだ。

俺も習おうかな、専属セラピストになりたいかも…。

「その際、お預かりした服の中に下着もありまして。なのでこの香りが同じ物だと分かったのです」

何やってんだこの人…嗅いだのか?嗅いだんだな…?

「…執事長。アウトですよ、それ。」

「何を言いますか、執事ともあろう者が主人の体調も香り一つで分からなければどう体調管理をすると言うのです?」

「いやいやいや!匂い要らないですよ、それに貴方の主人はサリューン陛下でしょう?」

「サリューン陛下は都様、グレース様の庇護を頂いております。故に我らが主人でもあるのです!」

何て強気なこじ付け‼︎怖いわー…この上司本当やだぁ~。

「さて、今夜はお食事を送らないように陛下にお伝えするのですよ?」

では、とトルケンは部屋を後にした。

カナムは呆然とトルケンの後姿を眺め、何が『美しき影』だよ、

只の変態じゃないか…そう心で呟いた。

「はぁ、ピアスいいなぁ…俺にも作ってくれないかなぁ」

トルケンのピアスやサリューンのネックレスにばかり目が行くカナム

は、いつも通りに食事をガーライドナイトへの輸送ポータルに運んだ。

翌日、カナムはトルケンから罵詈雑言を浴びせられるのだが、彼はまだ

知らない。















































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