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閑話

名探偵S 悪魔と鑑定士は探偵には向かない

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 スレイブはダントの魔粒子を追って影を伝いその姿を探した。

現セルギル伯爵邸ではダントが家令に父、フレル•セルギルの所在を

訪ねていた。

「当主は?父様はどちらです!」

「フレル様はバララティに視察へ行かれていますが…」

「今すぐ確認を!」

家令達は慌しく動き出し、ダントはフレルの書斎へと向かった。

「父様…」

ダントは膝をつき崩れた。卓上に積まれていたのは禁忌呪法の禁書

ばかりで、明らかに父が何かしらを行おうとしている事がわかり動揺

している。

「坊ちゃま、フレル様は十日前にバララディを発っていると連絡が!」

あぁ、父様…貴方という人は。そこまで義兄様が目障りだったのです

か?

「分かった…。ダリアン殿を呼んでください」

ダントは書斎のソファに崩れる様に座り込むと目を瞑って思い出して

いた。


 あの日、戦地から戻った義兄を父は殺めようとした。しかし、

私は義兄を逃し、父には私が止めを刺したと言い含めた。もしかしたら

父は知っていたのだろうか?半年前に私達が再会した事を。

心は酷く動揺しているのに、頭では事の真相を理解してしまったと

他人事の様に俯瞰している。

一ヶ月前、私は兄の手紙を読み返してしまった。それが過ちだった

んだ。義兄の強い腕を、眼差しを、匂いを思い出し…抑えたはずの

想いが蘇って…義兄の部屋に残る衣服を導に彼の偽物を作った。

作って直ぐに後悔した…姿は近いが違う者だったのだ。そして、後悔

したのに偽物でも彼を殺せなかった私の弱さ。愛、故では無い…

人では無くとも、形ある物を殺める事が出来なかった。

「あんたの義兄は自殺だったぞ。」

ダントの目の前にサリザンドが扮したスレイブが立っていた。

「サリザンド…殿?」

自殺?義兄が…死んでいた。死んで…いたのか。そうか、そうだな。

あんな状態の義兄にとって、私からの絶縁状は死ねと伝えた様な

物だ…そうか。義兄に会えずとも、偽物でも彼の面影を側に置きた

かった…私の弱さと欲深さが皆を苦しめ傷付けた。

「いや、俺は冥界の使者だ。あんたを迎えに来た。」

「迎えに?」

「あぁ、あんたは禁忌を犯して後始末もせずに理を乱した」

「そう、ですか。父も死んだのですね…」

「あんたの父親は半年前の再会を知って、義兄を殺そうと術者を雇ったが既に死んだ者に術は効かない。あんたの呼び出した怨念を義兄と勘違いして呪法を使った。けど、まぁなんて半端な知識であれを使ったのか…父親は余程義兄を嫌ってたんだな。あの呪法で死んだのは父親と術者だ…咄嗟に止針で逃げたかったがそれも誤り絵に掛けた。逃げる事も叶わず死んだぞ。それでだ、まだ残る呪法アンタが死ねば全てが終わる。術も残らない…さぁ行くぞ」

「夫に…夫に一目会えませんか?」

「そう…マキシムも手紙で伝えた様だが、あんたは突っぱねた。それが自殺の原因だ。分かっていたろう?死ぬだろうと…あんたが自殺の原因だ」

ダントは泣き崩れ王弟オルファンの名を呼び続けた。

スレイブはニコニコとダントの首を掴むと、引き摺りながら窓辺から

半身を押し出した。

「ひぐっ、うっ、うぅ、う。」

「泣きたいのはお前の兄だろうな、クククッ。さぁ、お前の魂はどんな味だろうか?穢れに塗れているのに気付かぬ愚かさは良きスパイスだ!」

突然現れた悪魔に正に殺されかけているというのに、なぜかやっと楽に

なれる、そんな気持ちでいるダントは抵抗しなかった。

「せめて、義兄の元へお願いします」

「どーだろうな?行ってからのお楽しみだ♪」

ハハッ!アイツの魂は都ちゃんが天界へ送った、お前が行く場所は

孤独しかない冥界だ。あー、楽しい!絶望に呑まれるコイツの魂が

更に穢れるのが楽しみで仕方ない!

ズモモモと真っ黒な闇が現れ、その中から無数の手がダントを掴んだ。



「サタン、止めてくれ。これじゃ面白くないだろう?」

ダントの手が何か大きな物に引っ張られて、部屋に戻されてしまい

スレイブはイライラとして叫んだ。

「サリザンド‼︎ 余計な真似をするな!」

「黙れ、下僕風情が口を聞くな。」

スレイブは手をワキワキさせて地団駄を踏んだ。

「事件も解決したんだ、コイツの魂は俺が貰う!」

「その権利はお前に無い。彼は帝国の法によって裁かれる、どうにかしたいのならば死後好きにすれば良い」

サリザンドは気を失ったダントの手を掴むと担いで屋敷を後にした。



「それで、ダント様はどうなるの?」

都は本を読むサリザンドの膝に、頭を乗せてうつらうつらとしながら

ダントについて聞いていた。

「良いとこダレンティアの監獄で禁錮五十年って所ですかね?まぁ、禁忌に手をだすなんて自殺も良い所ですよ。」

片手で都の胸を撫でながら、チラリと見ると都は欠伸をしながら自身の

手首を撫でた。

「そう…早く戻りたい場所に戻れると…いい、、な、、」

手首を掴んだまま眠りに落ちた都を、そっと抱き上げベットへ寝かせ、

サリザンドは部屋を出て、騎士棟裏の林で結界を張った。

「スレイブ出てこい」

「お、角返してくれるんだな?」

サリザンドは袋を投げつけスレイブの足元に陣を敷く。

「さぁ、角を着けてやる。準備しろ」

スレイブは、嬉々として袋を拾い上げると中の物を掴んで出した。

「…あれ、これ何だ?」

「新しい角だ…お前は俺の命令に背いて好き勝手にやったな?」

「お望み通りに死ぬ程の苦しみを与えてやろう」

手に持った角は体内に吸収され、スレイブの額から真っ白な角が

生えた。

「あ゛ぁ゛ぁ゛っ‼︎‼︎なんっ…で…‼︎」

「浄化の力を含んだ角だ、思う存分苦しむといい。態度を改める気になったら教えろ」

ひたすらに身体と魂を浄化されるスレイブは、もがき苦しみゼーゼーと

息を荒げながら抵抗し続ける。

「罪を‼︎暴いてっ、やったのにっ、このっ!仕打ちかよ!」

「それはお前の仕事では無い。それに、お前は前からダント様の事を知っていたな?そして伯爵にマキシム殿の手紙を見せた…この事件もお前の仕込みなのは分かっている。ルキフェルは優秀だよ…お前と違って素直だしな」

「クッソ‼︎裏切ったなルキフェル‼︎」

もがくスレイブを蹴り倒し、サリザンドは呪法を掛けのし掛かった。

「さぁ、どうする?仕置きを受けるか、角なしで冥界へ送られるか…選べこの三下。」

「分かった、言う事を聞く!それで良いだろ⁉︎外せよこの角‼︎」

「あぁ、本当に。折角探偵気分を味わえると思ったのに、お前の所為で興醒だ。」

「ふざけんな!その割にはノリノリで鑑定してたろ!」

ふんッと探偵のつもりで書き殴ったメモを燃やすと嘯いた。

「ふん、やはり鑑定士は探偵にはなれないな。」

サリザンドは叫ぶスレイブに背を向けて、歩き出す。

悪魔を使うとなんでも簡単に行き過ぎるな、今度は一人謎解きに

挑もうと心に決めたサリザンドであった。


















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