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東のガーライドナイト領

鉱山の姿

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 領主屋敷にマルスがグレースを抱き抱えて戻ってきた。

ビクトラがマルスからグレースを受け取ると、マルスはハァハァと

息を荒げてその場に座り込み、カラーを外す。

アガットは動けないマルスの腕を引き上げ、部屋まで送ると言って

マルスの部屋へ歩き出した。

「アガット隊長。貴方はグレース様を神として敬われておいでか?」

マルスはアガットの顔を見ず、息を切らしながら問う。

「ククッ。マルス神官長殿もグレースに煽られましたか。」

「ええ。御二方を信仰し、抱け。と言われました。私はもう、あの方を神として見る事が出来ぬやもしれません。」

マルスは苦々しい顔をして壁に手をつきながら歩き、アガットに同意の

言葉を期待するもその希望は砕かれた。

「そうでしょうな。私も彼を神として見ていない。」

「そう、、、ですか。では、グレース様は何でしょう。悪魔の様に私には見えてしまった。」

アガットはもう可笑しくなって立ち止まり声を上げて笑う。

「あっは!ふっ!確かに!あれは悪魔だ。神官長の読みは正しい。」

「彼は淫欲に支配欲ありとあらゆる欲の塊。その尽きぬ欲望に従順ですからな。」

マルスはその言葉にアガットに回していた腕を外して彼の顔を

愕然として見上げている。

「何故、それを分かっていて受け入れたのです?彼は神ではない!」

アガットはその厳つくも迷いの無い顔をニヤリと歪ませ言い切る。

「そうですな。悪魔とて神だ。しかし、彼が神か悪魔であろうとも私は崇拝する。それに、グレースと都様は我々の持つ欲と理性を分けて生まれたお方。」

「誰しもが隠し目を逸らす物から生まれたグレース、慈愛で周囲を満たし、自我を抑制する都様。どちらも我々の持つ姿だ。」

マルスはその言葉に更に眉を顰め、自身の求める神が人と同じであると

いうアガットの厚顔無恥な言葉に拳を握る。

「神は人々を導き癒してくださる存在。だがグレース様は導く先を堕落に定めておいでた。人としてあっても、堕落の先には何もない!それを分かっていて何故皆彼に溺れる!」

アガットは更にニヤける口を押さえて笑う。嘲笑とも憐れみとも取れる

その顔に、マルスの怒りにさらなる油を注いだ。

「何が可笑しいのです!彼は本当に、この世界を救えるのか?」

「あんたも大概だな。では聞くが、何故我々を作った神はあんたの嫌う欲望を我々に与えたんだろうな?それに神官長は神が神がと仰るが、
テュルケット神など欲望以外何も持ってはいないではないか。」

「彼はただ素直なだけだ。幼児と同じ。腹が減ればイラ立ち、眠たければ眠る。」

「これをあんたら神官は堕落だという。では聞くが、それらを我慢して何とする?彼は人を殺めたい、世界を壊したいと望んでいるわけでは無い。世界を優しさや愛で満たしたい、満たす事で己が満たされる。それだけを望んでいる。」

アガットの正論に、マルスは顔を赤くして激昂するしかなかった。

「詭弁だ!彼は欲望を満たす事のみを求め世界を愛で満たそうなどとは考えていない!信仰すら否定し馬鹿にして尚も我々を求める、そんな神は存在しない!してはいけない!」

「そう、思いたいんだろう?自己否定はしたく無いものな。」

「もし、彼があんたの言う悪魔なら、この世界には来てないさ。彼はテュルケットの被害者だ。ヤルダ殿も神官長殿もテュルケット神を信奉しているが、何故テュルケット神のした事に目を背け彼を非難する。」

「彼はテュルケットに子供を殺されかけ、代わりに己が命を失った。」

マルスは口を歪めて一時でも惹かれた自身の羞恥を隠すかの様に

グレースへの嫌悪を吐き捨てた。

「それこそ悪魔への天罰であろう⁉︎」

「グレースに人格を与え、顕現させたのは神官長も見た神々だぞ?
いい加減に自身の理想を神にまで押し付けるのは辞めた方がいい。
神官長が苦しむだけだ。彼に溺れている私は、初めて息を深く吸えている。醜く目を背けたい物があっても、彼は目を逸らさず受け入れそれすらも愛していると包み込むからな。」

アガットはマルスの腕を掴み、歩きながらグレースを想う。

マルスをグレースには近付けたくは無かったが、それがグレースの

望みならばアガットにそれを不服に思う理由はなかった。

「彼が神官長にああ言ったのは、その性格を見抜いたからだ。」

「彼の誘惑を心の解放の言い訳にして良いんだと、彼は言ったんだろうな。神の僕である事を誇りとするならば、その意図を深く探り理解するのだな。」

マルスにはもう、アガットの言葉は届いていない様に思え、流石の冷静

沈着なアガットも我慢をやめた。

そして部屋へ入るマルスにアガットは自身の怒りの一端を見せた。

「欲も、罪も、穢れも知らぬ者がどうやって神の慈悲を理解できる?そしてそれらが本当に罪なる物か、貴方はどう判断した。次に彼等を愚弄した時、神殿も教会も無くなり跪く場所を失うと思われよ。」

アガットの熱風に吹き飛ばされたマルスの身体は壁に打ち付けられ、

衝撃と混乱でマルスは呆然と部屋の入り口に目をやった。

そこにはゆっくりと閉まる扉越しに此方を射抜く赤の魔粒子で染まった

アガットの悪魔の様な瞳だけが見えた。



 グレースが部屋に入ると、待機していたルーナとサリザンドが急いで

魔粒子の補給を開始した。都も、自分の弱さに辟易して篭ったがルーナ

とサリザンドに求められ、やっと自身を許す事ができた様で半日程の

巣篭もりで済んだ。

すったもんだでやっと眠りに着いた彼等は、どこからともなく起こった

爆震によって夜明け前に叩き起こされた。

「な!!!なんじゃこりゃーーー!」

慌てて外に出た都は、大股広げて両手を天高く突き上げ叫んだ。

「嘘!これ何!?」

領主屋敷からでも見えた鉱山は、山肌の土を振い落としてオパールの

塊の様な姿を見せていた。そして、そのサイズまでも変わって天に

届きそうな程の山へと変貌。また領地には狂い咲いた花々や大木と

なった木々で砂地が覆われていて、領地の民を驚かせていた。

「「えぇぇぇ。何ですかこれ。」」

都は山を指差してサリザンドの服を掴んで叫んだ。

「これ!ねぇ、サリー!調和の所為?ねぇ!」

サリザンドも眼鏡を外し目頭を押さえながら唸る。

「んんんんん、、、で、しょうね?」

「あーーー!なんでー?これってトラップ発動した感じ?やばい?」

頭を抱えて都は唸る。皆これが調和により齎された正しい姿なのか、

トラップ踏んで起爆装置を生み出したかのどちらかは分からないが、

間違いなくグレースの所為であろうと確信した。

無言で皆、明け始めた空を切り裂く様に浮かぶその異様な光景を見つ

め、深い溜息と共に立ち尽くしていた。






































  
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