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新生編

別れは突然に

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 帝国教会の地下禁書庫に原書はあった。
何重もの結界と制約の禁呪で保管されていて、閲覧をするには申請を出して、司教に許可申請書を作ってもらって更に、内務局に提出、審査を経て皇帝印を貰わなくてはならいと言う。
この手続きが俺にとって必要が無くても、国として手順は踏みたいと言われた。

「仕方ないな。どれくらいで許可は貰えるのかな?」

ヴィクに耳打ちすると、俺の代わりに聞いてくれた。大司教によると、閲覧希望申請は申請リスト順になるが今回はこちらを最優先して対応してくれるとの事で、2日後と言われた。ついでに陵墓の捜索申請についてもヴィクに相談をしたら、そちらはすでに騎士隊が手配を進めていてくれて、本日中には許可がでるとの事だった。俺が帰ってこなくても信じて行動に移していてくれたんだなって思うと、うれしくなってしまって、柄にもなく大司教や神父に優しい笑みを向けてしまった。
隣に立ってリストや公務のスケジュールを確認しながら渋い顔をしているヴィク。ヴィクは仕事が出来る人間だな。フムフムと顔を凝視してしていると目があって、無駄に微笑みあってしまった。

「なんだ?キスしてほしいのか?」

おい、好感度が上がった途端にこれかい。場所を考えなさい。いや、俺もしたいけれども!

「後でね。やることやってからだ。朱雀!受肉の状態はどう?まだ完全にはなじんでない?」

教会の隅っこで外の騎士達の訓練を見ながら楽しそうにしている朱雀に声をかけ近づいてその背をそっと撫でて見上げる。

「うむ。手や足、羽の一部はなじんで来たように思う。だが、まだ力は使えぬ。」

手をニギニギして感覚を確かめていた。でも1日でこれなら明日、明後日には完全に受肉するんじゃないかな。
そうなると、もう朱雀は神獣として天界には還れない。ごめんと思いながら、地上に堕とした可愛い小鳥を逃がさずに済むと思うとやはり顔が緩む。グレースも朱雀を可愛がってくれると良いな。でも、こんなに可愛いんだ。グレースも気に入るはず。俺らは好みが一緒だからね。

「そっか。楽しみだね。」

朱雀も嬉しそうに笑った。

「なぁ、嫉妬はしないが二人だけでってのはどうよ。俺も混ぜろ!朱雀とキスした仲じゃねーか!除け者はやめろ。」

ヴィクがグレースの肩に頭を乗せて甘えてくる。
この凶悪な虎が甘えてくる姿は思いの他可愛くて思わず大司教や神父のいる前でキスをしてしまった。

「さて、2日の間にすべきことを考えよう。」

ヴィクから最近元皇帝が影を使って皇帝や大臣らに密かに接触しているという話を聞いた。ポータルを使って移動したから、元皇帝に知られるまでの時間稼ぎはしておいた方が良いだろうと、俺たちがここに来た事を大司教や神官の人たちには内緒にしてもらった。元皇帝への信頼は地に落ち、先日愚者の烙印穢れし者ガイシャンと真名を強制変更する刑罰を受けたと聞いた。そんな皇帝派から教会は距離を置く方針を取っているらしい。だから、俺達の要望も快く受け入れてくれた。今回の申請は、ヴィクが個人的な調査として申請を出したことにしてもらっている。煩雑な手続き等々を終えて俺達は部屋に戻った。朱雀の膝枕でソファに寝転がる。朱雀は神獣の頃から体がポッカポカで温い。だから気持ちよくてうつらうつらしてしまった。

「グレース。とりあえず寝るのはもう少し我慢してくれ。明日の行動予定を決めたら寝てもいい。その後俺は候補者を騎士棟と魔導隊で探してくる。もう少しで警邏組も帰ってくるはずだから。」

目がくっついちゃいそうなくらい眠い。
むにゃむにゃしながら俺は明日の予定を伝えた。

「んーー。。俺は受肉が優先かな。ヴィクの選んだ候補者と会うよ。あと、陵墓の許可が早い段階で出たらそっちも見てみたい。」
「それで良い?」

眠さの限界だな。そう思って目を瞑ろうとしたらヴィクが叫んだ。

「グレース!!体が!!」
「グレース!!」
「寝るなグレース!!!!!」


ヴィクや朱雀が遠くで何かを叫んでるけど、俺にはもう全然何も聞こえなかった。
明日、可愛がってあげるから。寝かせて。

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