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王都編

虎は自ら首輪を着ける(3)

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 朱雀の言葉にライディは無意識に冷気を放っていた。怒りとも、悲しみとも感じられる湿った冷気。朱雀は冷気がグレースに触れぬ様翼を開いて冷気を払う。感情のコントロールも出来ぬのかと、嘲笑しながらビクトラに近づいた。試すかの様な目とその細い指で、ビクトラの心臓をツンと突く。ビクトラは朱雀の意図する事を理解した。

———完全なる服従を示せ———

そう、言っているのだと。
ビクトラは朱雀に、さもそれは当然とばかりに睨みつけ笑った。

「見縊るなよ、この焼鳥野郎。」
「良く見ておけ。俺は主人を定めた。」

ビクトラは朱雀の手をはたくと自身の心臓に右手の爪を差し込んだ。

「ライディ家当主、ビクトラ•ハクトゥーレ•ライディの名を以て白虎を枷とする。主を永遠の鍵とし、その言にのみ力を顕現す。俺を縛れ白虎!」

ビクトラは足元に左手で陣を描くと、魔粒子が身体中から抜け出し黒い手となった。そして首を締め付ける様に集ってくる。ぐっと苦悶の表情を浮かべるライディだったが、更なる強い枷とする為に爪をより深く突き刺した。
 
 そして一瞬の発光が終わると、漆黒の縞模様がビクトラの首をグルリと囲んで首輪の様な彫りがそこにしっかりと刻まれていた。
倒れ込みそうな疲労感を耐えつつ、ハァハァと息を整える。

「くくく、あははは!馬鹿だな、本当に白虎というのは。」

朱雀は笑いながら椅子に腰掛けた。

「ぐっ、、、何がおかしい。俺は、これで満足だ。」

朱雀は憐れむ様な眼差しで吐き捨てた。

「主人になってくれたら良いなぁ、ビクトラよ。にな。」

「どういう意味だ。」

ビクトラは朱雀に掴みかかったが、力を制限されたビクトラは軽くあしらわれただけで扉へと吹き飛ばされた。

「追々分かるだろうよ。それよりも主人がもう数刻で目覚める。王都へお連れする為の手筈を整えろ。時間がない。」

ビクトラはハッとして、立ち上がりグレースの足元に駆け寄ると膝を着いて一礼した。そして朱雀を見ずに扉へ向かった。

「手筈はこちらで整える。テュルケット様を大々的にお迎えしよう。」

朱雀は眉をピクリと上げ思案した。
このままテュルケットとして主人を王都へお連れする方が何かと不便は無い、しかし主人の権能はテュルケットとは違う。直ぐにバレるだろう。どうするべきか、こいつにだけは話しておくべきか。
 こいつの忠誠は形を以て示された。主人に牙を向ける事はない。それに、真実の一端でも知らねば、かえって面倒を作りかねない立場にこいつはいる。不満だか仕方あるまい。ビクトラ下僕として認めよう。

「ビクトラよ。お前だけには伝えよう。主人の真実のカケラを。」
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