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獣語 躍動編
ウィラーとボルチェスト家
しおりを挟む「あぁぁぁぁぁぁ!」
孝臣の落とした落雷がウィラーを直撃し、咄嗟に防御スキルを使うもそれを破られたウィラーは地面に膝を付きガクガクと痙攣している。孝臣は、ウィラーを殺すつもりでスキルを発動させたが、尚も目を見開き睨みつけるウィラーに驚きを隠せないでいた。
「しぶてぇな。でも、次でお前を俺は倒すぞ」
「ケード!やめてくれ!ウィラー様を殺すな‼︎」
ウィラーの前に立ちはだかるアルハイドに、孝臣は眉を顰めた。
「なんでそいつを庇う⁉︎」
「ウィラー様はこの世界の呪いを解く為に界渡を探しているのだ!」
「ふざけんなよ!何人殺した!呪い⁉︎こいつこそが呪いみたいなもんじゃ無いか!」
多くの界渡が殺された。そして、関係の無いこの世界の住人も多く犠牲になっている中で、ウィラーが正義だと言わんばかりのアルハイドの態度は、孝臣の怒りに油を注ぐ物であった。
「確かに、ウィラー様は……私達は犠牲者を出した。それも必要な犠牲なのだ!」
「なら何でお前達が犠牲にならない!何がしたいんだよ!」
「この世界は呪われている」
「どうでもいいよ……呪われていようとながろうと、普通に生きている人間や獣人、半獣を殺しまくってる奴の言葉なんて聞く耳を持たないよ俺は」
「考えた事はないか?」
「あ?」
「何故魔獣が生まれるのか、何故獣人が存在するのか、何故界渡が現れるのか」
「……知らねぇよ。それがこの世界の摂理なんだろ」
アルバイトは、背後で蹲るウィラーをちらりと見ると、白いローブを脱いで、服の袖を捲った。そこには、蛇の様な黒い痣がぐるりと巻きついているかの様な真っ白な腕があった。
「我々がウィラー様に付き従うのは、呪われた民だからだ」
「は?」
「我々はイブルロンソ」
「イブルロンソ?なんだよそれ」
「神の国……それがイブルロンソだ」
「それと、界渡を殺す事に何の繋がりがあるんだよ」
アルハイドの服を掴み、ウィラーはよろよろと立ち上がると彼を突き飛ばした。そして『何も言うな』と言うと手を翳し孝臣の周囲を結界で囲った。もう形振り構っては居られないと判断したウィラーは、有無を言わさず彼を捕まえる事にした。
「少々遊びが過ぎるぞ小僧」
「ぐっ!な、なんだこれ!」
「そのスキル、私に寄越せ」
「ふざけんな!誰がお前になんかやるもんか!」
もがく孝臣。ウィラーは幾つも持つスキルを隠す事なく発動させる。
「エンチャント、マインドコントロール、ルーズコントロール、タイムディストラクション、ロック」
次々に発動させたスキル。神属性の孝臣にはその殆どが不発であったが、唯一ロックが発動後効果を見せた。孝臣の身体は固まり、ビシリと硬直すると石化した様に固まった。
「縁眼」
ヤンから奪ったスキルで、孝臣の持つ力を探るウィラーは、その全貌を把握すると孝臣の頬をそのカサついた手で一撫でした。
「そうか、お主が持って来たか。残念だがスキルでは無く属性としてその身に宿したか」
「ウィラー様。どう言う事でしょうか」
「真眼。それは全ての善悪、力、過去と未来全てを見通し自由に全てのスキルを使える力、神の力だ……本来この者がこれまでの界渡と同じ様に召喚されたのであればスキルとしてこの世界に顕現していただろう。しかし、この者は他の者とは違う様だ……故にスキルとはならなかった様だな」
「それは、この者は召喚された訳ではないと言う事でしょうか」
「で、あろうな。しかし、上手く使えば同様の力を発揮するだろう」
ウィラーは孝臣の身体に触れ、この世界に定着した魂を抜き取ろうとした。
「お待ち‼︎私の男に触れるんじゃないよ!」
孝臣が守っていたサリフの別邸から現れたのは、下腹がふっくらとしたファルファータだった。9本の尾をゆらめかせ、ファルファータはウィラーと孝臣の間に妖力で練り上げた透明な壁を作ると、ウィラーとアルハイドを領事館の裏戸まで吹き飛ばしたのだった。
「私の男に触れたければ私を殺す事だね」
「くくっ、妖狐か。またも妖狐が邪魔をするか」
「あんたが唯一手を出せないのが私達ボルチェストの一族だ。神の末裔たる私達に敵うと思うならやってごらん!孝臣に手を出したその時は世界中に散らばる神の力であんたを殺すからね」
「おぉ怖い。同郷たる私をどうしてそこまで恨む?共にこの世界に堕としたからか?」
「あんたは神の怒りを買ったから地上に落とされたんだ。この世界を繁栄させる為に遣わされた私達一族と一緒にするんじゃないよ!黙って神に寵愛されておけばいい物を、下らない嫉妬で神の国を汚したお前は死ねぬ呪いと共に罪を贖う為にこの世界に堕とされたんだ!今更神の国に戻ったとて、その醜い姿では神に愛される事は2度とないだろうね!」
ボルチェスト家とウィラーの関わりは一体なんなのか。アルハイドは己の知っている、聞かされた事実と違う事に驚きウィラーを見た。そして、その時の怒りに震えるウィラーの姿はどす黒い魔力に、ただれかけた肌。異臭が漂って来そうな程の醜い姿をしていた。これまで自分が見て来た神にも等しい存在であったウィラーは何処にも居らず、一体何が起きたのかと、混乱していた。
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