狼と人間、そして半獣の

咲狛洋々

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獣語 躍動編

堕ちる神の子、そして燃え尽きる魂

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 俺は全てに絶望していた。
知らぬ世界に、見知らぬ異教徒。全てが俺の神経を逆撫でする物ばかりだった。どうやら、この世界には俺の他にも界渡と呼ばれる異世界から来た人間が居る様だが、俺は会った事が無い。会った事が無い、と言うか外にも出して貰えないのだから、当然会う事等出来ない。

 2日前、彼等に頼み込み、ウィラーの居ない内ならばとこっそり外に出して貰った。外は俺の居た世界とは全く違って、中世か?と思うような街並みに、教会に居る信徒と同じ格好をしている者ばかりだった。


「アマネ。ここは何処なんだ?」

「ここはシチリーナで御座います。神子様」


アマネと言う司教代理が最近俺に付いた。それまで俺に付いていたミハイルは妊娠した為に、今は神の部屋と言う場所に篭っていると聞いた。既に、7人の司教や司教代理が出産の為にその部屋に居ると言う。俺の子供なんだろうが、俺に父親になった実感は無い。それに、出産を終えた司教達は普通に出歩いているのに、子供の泣き声すら聞こえないという事に、俺は『何故子供が必要なのか』それを聞けずにいる。どうせ碌な事はしていないだろうと予想もついたしな。


「この世界にはウィラーの信徒しかいないのか?」

「そうなれば、世界はもっと平和になるのですけどね」

「嘘だろ?本気かよ」

「サイモン様⁉︎ウィラー様をお疑いに?」

「そりゃそうだろ。俺の自由意思も、人権も何も無いんだぞ?それで良く世界平和だなんて言えるぜ」

「お辛いのは良く分かっております。ですが、もう直ぐ神の国への門が開かれるのです……今暫くの辛抱でございますよ」


 俺が認識しているだけで、もう2年は此処で暮らしている。もしかしたら、もっと短いのかもしれないが……俺は長くこの世界で生きている様に感じている。逃げたいと言う欲求が無くなったのもその原因の一つだろう。それまでは事あるごとにに逃げ出しては、引き戻され、その度に仕置きと称した性行為を強制された。今や俺はこいつらに触れられるだけでもおっ勃つ身体に改造された。嫌になるよ、本当に。


「サイモン様、私のとっておきの場所へ…行ってみませんか?」

「……何だよ。どうせセックス部屋だろ」

「はぁ。違いますよ……我々とて、申し訳ないと思って居るのです。ですが、サイモン様のお身体を開門の為に使う訳にはいきませんから……」


その代わりに誰を使っているんだ?そう聞きたい気持ちと、聞きたく無い気持ちがぐるぐると巡っている。その為の出産なのだろうと容易に想像が付く訳だが。


「明日には鍵が揃うと聞きました。サイモン様……良くご辛抱なさいましたね」


優しく微笑むアマネの顔は、他の信徒とは違って卑しさという物が無い。純朴で素直な性格なのだろうと思う。だが、俺はそんな彼を見ても癒されなかった。彼は本当に正しい事をしていると信じて疑っていないからだ。自分達の欲望の為に人を殺しておいて、申し訳ない?世界平和?本当に頭がイカれてるよ。


「なぁ、鍵ってのは俺みたいな地球の人間の事なんだろう?彼等を鍵にした後……俺も殺されるのか?そうか。明日でお役御免。楽にしてもらえる訳だな?」

「まさか!!サイモン様は神光しんこうのスキルをお持ちなのですから、他の……界渡の方々とは……その」

「使えるから残しておくってか?勘弁しろよ……いい加減俺は自殺でもしそうだよ」

「もちろん……私だって……辛く悲しいと思っています。ですが安寧の為なのです」

「くだんねぇなぁ。誰かに与えられる安寧が安寧だと思える奴はどれ程居るんだろうな?俺にはきっと地獄だろうよ」

「……サイモン様」


2人はそんなやり取りをしながら10分程歩き、教会を見下ろす丘にたどり着いた。だが、何を見ても感動出来ないサイモンは、色を無くした瞳でじっと自分の居た教会を見下ろしている。
アマネは、夕日に照らされ今にも消えて無くなりそうなサイモンを見て、得も言えぬ不安からその身体を抱きしめた。


「サイモン様、誰にも己にしか出来ぬ使命がございます。お辛いですよね?抱きたくもない我々に慈悲を与え、暗闇に閉じ込められている……界渡のサイモン様にとって、我々は悪魔の様に映っている事でしょう。ですが、今暫く……ご辛抱ください」

「なんだよ。お前だって俺に抱かれたいのか。腹立つな……分かった風に寄り添いながら、結局これ目当てかよ」

「え⁉︎」

「俺の身体に触れるのは、セックスして欲しいってボタンを押してるのと同じだって事位、知ってんだろ」

「いえ!そ、そんなつもりでは!」

「おら、ケツ出せよ。突っ込んでやるから。でもなーこんな所でだと後々面倒そうなんだよな。やった後汚くてかなわねぇし。水辺ねぇのかよ……でも、まぁ良いか。どうせ俺達は既に穢れてんだ……今更糞まみれになろうがどうって事ねぇよ」

「サイモン様‼︎おやめ下さい‼︎サイモン様‼︎」

頭を押さえつけられ、うつ伏せに地べたに倒れたアマネは暴れながら、その手を払い除け逃げようとしている。サイモンはその哀れな姿にさえも苛立ち、肩を掴み振り向かせた。


「うるせぇぇ‼︎黙ってろ‼︎孕みてぇんだろ⁉︎おら、口開けろよ」


サイモンは強引にアマネの頭を掴み、その指を口内に突っ込み無理やりこじ開け半身を飲み込ませた。ひたすら腰を振り、締まる喉奥に雁首を引っ掛け刺激を味わっている。だが、白人のそれは硬くなるものの、柔軟性があるためか、アマネが首を振るとぶるりと口から飛び出した。鼻水や涙、唾液でぐちゃぐちゃになった顔をサイモンに向けるアマネの表情は悲しげで、サイモンはチクリと僅かに残る良心が傷んだ。

何なんだよ。お前だって結局他の奴等と一緒で、位を上げたいんじゃ無いのかよ⁉︎俺と寝て子を成した奴は皆、階級が上がったとそれは喜びまた孕みたいと強請ってくる。お前も……そうじゃ無いのか?


「はぁっ……はぁっ……もう良い、どっか行けよ。俺を1人にしてくれ」

「ザイ……モンざま」

「消えてくれ!もうお前等の顔も姿も見たく無い」

「ずみっ……ずみまぜん!ずみまぜんっ‼︎うぇっ…うっく、ごめんなざいっ」


縋り付き、座り込むサイモンの背中をアマネは抱き締め泣いていた。


⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘


「すまぬな、ナナセ。儂はな、己が手の中で守る者の数を決めておるのよ」

バシャの姿をしていた何者かは、ナナセの腕の中でその姿を現すとニヤリと笑う。そして驚き後ずさるナナセを見下ろしながら、ナナセのつるりとした卵型の輪郭の先をツツツと指先でなぞりながらも言葉を続けていた。


「そなたも誠、災難よな。この世界に来たくて来たのでは無かろうが、辿り着いたが運の尽き。これも運命と諦めてくれ」

「あ……貴方は……誰です」

「名乗ってやりたいが、今はまだその時ではない故な。後程教えてやろう」


上品なスーツにハットまで……この人はウィラーの手下なのだろうか?これまで現れたウィラーの影達は皆、ある特徴があった。それはミルコ香の香りが本当に薄っすらとだけど地肌から匂っていたという事。でも、この人からは何も匂わない。このご老人は一体何者?恐怖を与える様な威圧感があるのに、どこか懐の深さを感じさせる。
私を攫うつもりなのか?



「貴方はウィラーの手下ではなさそうですが……ウィラーの懐に入り込むために私が必要という事なのでしょうか?」

「ほぅ。思いの他、この状況と己の立場が分かっておるのだな」

「分かっている訳ではありませんが……もし貴方が……ウィラーの手下なのなら、ここまで白昼堂々と私を襲いはしないと思ったんです」

「そうか。そうか……だが、本当にそうか?散々闇討ちして失敗しておるのだ」

「だとしても、昼間に襲うには分が悪すぎます」


後ずさり、医師の机に背が着くとふらふらとナナセは立ち上がり、壁際までその男と距離を取りながら動いた。


「儂と一戦交えるか?」

「いえ……ですが……逃げた方が良いと思います。気分が……ものすごく悪いんです。全てが放出されてしまうかもしれない……」


苦し気に、ナナセはハァハァと息を荒げながら下腹を押さえて天を仰いだ。

お願い!やめて!この子を殺したくない!ベルドゥーサさん!早く来て!


「な、なんじゃそなた!その魔力量どうした!!おい!」

「逃げて……暴走する……ウェッ…ウボォッ…」


苛立ちを押さえつつも、この場をなんとかして収めなくては自身の策も水の泡になると考えた男は、真っ白な尾を12本現すと、その一本を手刀で切り落とし尾から滴る血で円を描いた。そしてナナセの腕を引っ張りその中に押し倒すと、魔法を使った。


「あぁぁ!本当に界渡とは面倒よな!空間領域ワムホルホルラ!!」


血の円は燃え上がりながら、ナナセの身体から噴き出る魔力を異空間へと移して行く。しかし、尚もあふれ出る魔力は男の作った円を炭に変えながら、周囲にあふれ出ようとしていた。


「なんじゃ!なんなんじゃ!えぇい」


轟々と燃える様に天井まで立ち昇る魔力を見ながら、男は胸元に潜ませた小さなマジックバックを取り出し、中に入っていた指輪をナナセの指に嵌めた。キラリと光り出した指輪は、ナナセの体から魔力を吸収しながら次々に魔石を生み出して行くが、一向に収まる気配を見せず、終いには指輪の石が砕け散った。


「お主……どこでそれ程までの魔力を得た……いかんな……このままでは駒として使い物にならんぞ」


すると、どこからともなく刀が現れた。
男は目を疑ったが、確かに自身の影が持つ日本刀とよく似た物が現れたのだ。
その刀は鞘から抜け出すと、そのままその刀身をナナセの体に突き刺して行く。グサリ、グサリと刀は体を貫き、最期には鍔が胸元に飾りの様に収まった。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!ガハッ……あぁ……ファ……ロ」


燃え盛る魔力、そしてナナセの体を貫いた刀。
男は何が起きたのか分からなかったが、ただ刀が意思を持ってナナセを串刺したその光景を呆然と見ていた。
















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