狼と人間、そして半獣の

咲狛洋々

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獣語 躍動編

閑話 天気雨のち豪雨 最終話

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 爽やかな朝は芳しい花の香りを誘いカーテンを揺らしている。

しかし、屍のように床に倒れている二人はまだ繋がったままだった。


「ん…サリー…はぁ…もう無理」

「俺も…お前の中からもう出れそうに無い」

「いや…抜いてよ」

「なら締め付けるな」


そんなやり取りをして、リンは振り返るとサリザンドと見つめ合い

クスクスと笑った。

何とか二人は起き上がり、ベッドに寝転ぶと今日は何をして

過ごそうか、また昼は何を食べようか。そんな事を話し合った。


「サリー…二人で過ごす小屋でも建てない?」

「ん、いいな。時間を気にせず抱き合える」

「そうだよ…ずっと一日中愛し合えるそんな場所が欲しいんだ」

「なら、今日はその場所を探しに行くか?」

「賛成!」


僕達はホテルで朝食を済ませると、知り合いの不動産管理人の

所に顔を出した。そして幾つかの候補を挙げてもらい見て回った。

どこも市街地内に在って、造も豪華な物ばかりで二人の愛の棲家と

言うには広すぎる。

そして、最後に紹介されたのが旧トルッセン領ルークセンフルーに

ある小屋だった。周りを雑木林が囲み、玄関から望む草原には

丁度月見草が群生していた。

僕は一目見てここが気に入った。

そう、月見草がある場所。それだけで決め手にするには充分だった。


「サリー、明日からは此処で過ごそうよ」



 サリザンドとリンが小屋で暮らし始め5年が経った。

リンは夏の間はカイサンで暮らしていて、互いに仕事と研究を

セーブし、二人の時間を思う存分堪能している。

そして、サリザンドはずっと研究がノリに乗っていた。

リンと暮らし始めてすぐの頃、精神的に落ち着いたからなのか、

それまで自力では展開出来なかった術式や魔力制御がスムーズに

行えたのだ。

その事を、リンに嬉々として語っていた。


「そう!そっか。それは何よりだね」

「あぁ!まさか仮装極聖魔法の崩壊後、再構築まで出来るとは
思わなかった!」


嬉しそうなサリザンドの笑顔は、リンにとって何物にも代え難い

喜びを与えた。


サリー。喜んでる…。嬉しいな。

初めての夜、僕は君に一番大事な物をあげたんだ。

金でもヴァージンの事でも無いよ?

僕の命とも言える魔力の源を君にあげたんだ。

だから、僕を大事にしてね?


「リン、明日は休みだろ?お前を抱きたい」

「ふふっ…毎晩してるじゃん」

「…隠していたが…俺はもっとお前を淫らにしたい」

「ん?どう言う意味?」

「嫌だったら2度としない…今夜は全てを俺に委ねてくれないか」

「え…なんか怖いんだけど」


リンの恐怖の通りにその夜のサリザンドはいつもの様な、優しく

快感だけを与える様な抱き方はしなかった。

痛みを快感に変え、身体を作り変えるような、陵辱といっても

過言ない物で、流石のリンもこの行為を愛だと受け入れるべきか

迷っていた。


「嫌だった…か?」

「怖かったよ…目がマジなんだもん」

「ごめん…でも美しかった」


まだ腫れて、ジクジクと痛む乳首を優しく口に含み、舌先で

サリザンドは舐め上げた。


「ふぅっ…あっ…」


すっかり調教されたリンは、気付けば立派なマゾヒストになっていた。

だが、サリザンドはまだ蓋をしていた。

本当ならば首を締め上げ、腹を蹴り、苦痛に歪むリンを見てみたい。

そんな歪んだ想いだけは決して表に出してはならないと堪えている。

だが、それに気付く筈も無いリンはこれ位ならと受け入れてしまった。


あぁ、真っ赤に腫れて今にもふるふると泣き出しそうな彼の物に

よく似合う…俺の瞳色の魔石で作ったピアス。

青い魔石で作られたピアスは乳首や竿を貫いて、まるでサリザンドの

支配欲の象徴の様であり、リンにそれを理解させる為の物の様だった。


 一つの沼に二人で嵌まり込んだ様に愛欲に耽り、仕事や研究に

穴を空けるようになった二人に、流石に周りが苦言を呈する様に

なった。

リンもその事は理解していたが、サリザンドの瞳を見ると逆らえず、

流れに飲まれる日々が続いている。

何とかしなくては…リンは焦っていた。


「サリー」

「ん?」

「僕来週ロードルーに戻らないといけなくなったんだ」

「辞めろよ」

「え?」

「仕事…辞めて…結婚しないか?もう5年…そろそろ俺の側に
ずっといて欲しいんだ」

「…嬉しい…すごく嬉しいよサリー」

「明日、役所に行こう。俺はお前と離れるなんて出来ない」

「サリー…でも」

「…でも?」

「僕には養うべき者が大勢いる…直ぐには辞めるなんて出来ないよ」

「…分かってる…ならどうする?来年になれば辞められるのか?再来年か?いや、10年?20年?」

「サリー…」


その日初めて二人は喧嘩した。

お互い無言で翌日を迎えたが、翌週になってもギクシャクしていて

リンはそんな日々から逃げ出す様に小屋から出て行った。


このまま、僕らは別れてしまうのかな?

嫌だよ。彼を愛しているのに…でも仕事を辞めるなんて選択肢は

僕には無い。サリザンドは分かってくれるかな?


 ロードルーに帰国する2日前、ギルド協会の会合の為にドーゼムが

カイサンに訪れていた。二人は朝食を共に取り、打ち合わせの為に

聖教区のホテルの会議室に向かっていた。


「リンっ‼︎」


ドーゼムと共にエントランスを潜った所で声を掛けられ、振り向くと

そこには今にも人を殺しかねない程激昂しているサリザンドがいた。


「サリー?」

「誰だその男!リンっこっちに来い!」

「ちょっ!今から会合があるんだっ!話なら後で聞くから!」


腕を振り払ったリンの顔を見て、サリザンドは怒りのままに

魔力を手に込めると闇魔法をリンの腹部に打ち込んだ。

一瞬の内に、リンの視界は真っ暗になり、胃の中の物は全て

吐き出された。それでもサリザンドはリンを殴り続けた。


「全て俺の物だと言ったよな⁉︎」

「サ…リ…痛い…痛い…」


魔力を撃ち込まれた腹部に激痛が走り、リンは蹲り吐き続けていて、

臀部からは血が滲み、足を伝い地面に血の池を作っていた。


「リンっ!おまっ!何やってんだ!どけっ!」


ドーゼムはサリザンドを突き飛ばすとリンを抱き上げ、ドアマンに

部屋を空けろと叫んだ。


「離せっ!俺の男に触れるな!」

「馬鹿野郎‼︎フェフの身体に魔力ぶち込んで殴るなんて何考えてんだ!リンっ!リンっ!クソったれ!見ろ!内臓が傷付いて出血してんだぞ!」


サリザンドは、はっとして足元をみると、靴やズボンが血に濡れて

いた。


 それからの事をリンはベッドの上でドーゼムから聞いていた。

サリザンドは収監され、裁判に掛けられるという事。

魔力の衝撃で子宮が破裂していた。リンの魔力を知らずに上乗せして

使ったサリザンドの闇魔法は、ポーションでも復元出来ぬ程

ぐちゃぐちゃに子宮を粉砕していて、摘出するしか出血を止める事が

出来なかった事を、ポツリポツリとドーゼムは語った。


「リン…こんなのを愛だとは言わない」

「…」

「悪い事は言わねぇから…今すぐ別れろ」

「ドーゼム…僕はね、彼の恐怖が分かるんだ」

「どうであれ、フェフに手を上げる様な奴をお前の男とは
認めらんねぇよ」

「…僕が彼をそうさせたんだ」

「いい加減にしろよ…もう…子供は望めないんだぞ」

「彼が僕の子供みたいなもんだ」

「リンっ!」


駄目だ。リンは一度自分の物だと決めた物が如何に使い物に

ならなくなっても捨てる事が出来ない。

今此処でアイツと引き離さなきゃコイツは駄目になる。

爺さんの言ってた悪魔憑き…こう言う事だったのか?


「支配する以外に彼は身を守る術を知らない」


ベッドの上で、腫れた頬を摩りながらリンは呟いた。

それはまるで自分にそう言い聞かせている様で、ドーゼムは

頭を抱えた。


「…で?支配され続ける気か?お前、自分の負ってる責任を分かってるのか?」

「僕の人生だ」

「お前に人生を託すしか無い者はどうする…」

「じゃあ僕の人生はそいつらに捧げないといけないのか?」

「きっと彼は僕を追いかけてきてくれる。その時は交換条件を出すつもりさ…この代償はきっちり取り立てる」


 投資した物、貸し付けた物。必ず回収する…それが僕。

サリザンドに与えた物は、他の誰とも比べられない程だ。

僕は彼を手放したりはしない。

加虐心を抑え苦しんでいても、僕がそれを満たしてやる。

決して離してなんてやらない!


だが、サリザンドは自身の行った事に苦しんでいた。

最愛の男をこの手が傷付けた事、全てを投げ打って打ち込んだ

研究への熱量は消え失せ手元にはもう何も無くなった事に

絶望した。


「サリザンド君」

「先生…」

「リンオーナーが君への訴状を全て取り下げ、釈放する様取り
計らってくれたよ」

「…」

「苦しいかい」

「はい…苦しくて、許せなくて…」

「…神に縋りなさい。神だけが生まれたままの私たちを受け入れて
下さる」

「先生が言っていた…俺と彼との違い…こう言う事だったのですか?」

「…そうだよ…我々の様な悪魔憑きの人間は人を愛してはいけない」

「ふっ…うぅっ…ふぐっ…」

「苦しみなさい…それが君をいつか正しい道に導くだろう」

「先生…俺は…いつか彼と笑って向き合えるでしょうか?」

「…リンオーナーは今も君を想っている様だ。彼はまだ悪夢から醒めていない…この先、彼の名を聞いても心が動かされなくなったら…向き合ってみなさい」


 サリザンドはフォクスローラボを辞め教会支部に戻り、

学会にも顔を出す事は無くなった。それから20年が経った。

結果捨てられて、彼を諦めてもリンはリンだった。

神経をすり減らす様なサリフとのやり取りで、疼く本能が

サリザンドを求めている。リンはその本能を受け入れ賭けにでた。


手紙を出して、彼が会いに来なければ僕の負け。

回収の見込みは無い…ナナセにちょっかいでも掛けて遊んで暮らす。

だけど、彼は会いに来た。なら、神の元に逃げ込んだ、この男を

今度こそ逃しはしない。

追いかけて来ないなら、僕が追えば良かったんだ。


時を経て、サリザンドに再会したリンは与えた愛を取り立てる

為に、月見草の栞を手に扉を開けてサリザンドの胸に飛び込んだ。


「豪雨は止んだよサリザンド…明日は快晴だ!」









この後、「熱血漢と冷や水」へと繋がっています!
いつか再編成し、わかりやすくするつもりです!
お付き合いの程…宜しくお願いします

































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