狼と人間、そして半獣の

咲狛洋々

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獣語 躍動編

言い訳に縛られて

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「悪いことかだって⁉︎」


ナナセの言葉にドーゼムはドスドスと歩み寄るとナナセの胸ぐらを

掴んだ。


「それでも母親か⁉︎」


ナナセは目を逸らさずドーゼムを見上げた。


「はい。私は何があってもクロウの母親です」

「将来、孤独になると分かっていてもか!」

「何でそうだと決めつけるんですか」

「そうだろ?」


ドーゼムはその金の髪を揺らして、普段の理性的で大人の色香を

纏う姿からは想像出来ない程荒れていた。


「クロウが人化して、繁殖出来る様になるのに後10年から15年。俺は115歳だ…200まで生きれたとしても、俺が死んだ後…100歳に差し掛かったクロウに…しかも運命の番が居た男に…新たに番を作れると思うか?」


「…ドーゼムさん。もし、ファロが今、死んだとして…私はファロと違う相手と番っていれば…そんな事を思うと思いますか?愛し合った記憶が、私を苦しめると…思いますか?」

「苦しむだろ!俺は…耐えられない」

「私は逆だと…思います」

「ドーゼムさん、この刀…妖刀だと…言いましたよね?」

「…あぁ」

「この刀には、私の親友の記憶が、魂が宿っていたんです。妖刀では、無かった…彼は、私が幼い頃から共に剣を学んだ友でした。この世界に来てから、彼方では13年の月日が流れ、私を探し続けた彼は…死んでいました」

「……それは…辛いな…」

「…えぇ、残機の念に耐えません。彼の想いも知らず…私はこの世界で満たされて、幸せになったのですから」

「けれど…魂となった彼は…親友である私はどこかで生きていると探し続けて、死後この刀に宿ったのです」

「今回、彼方の世界に呼び戻されたのは、彼の記憶と同じ記憶を持つ私が…その記憶を忘れていたから…刀の力が弱まり、記憶の元である彼方の世界に呼び戻されたんだと思います」

「私が居なければ、出会わなければ…そんな想いは彼の記憶の中には有りませんでした。ただ、幼い頃笑い合い、共に学び、共に泣いて肩を組み合った…そんな記憶ばかりで…彼を失っても、私は取り残されたなんて思わない、記憶が…いつまでも側に居てくれる」



刀を撫で微笑むナナセに、それでもドーゼムは立ち位置が違うから

そう思えるのだと思ったが、もしもクロウを一人残したとして、

クロウにそう思われるのは嫌だと思った。


「…俺は…嫌なんだ…クロウを残して逝くことが…クロウが心配だと言いながら…俺は…過去の男になりたく無い…俺じゃ無い誰かに慰められるのが嫌なんだよ!」


やっと本音を吐露させたドーゼムを、ファロとナナセは抱きしめた。

「だから最初からバシャに任せようなんて思ったんですか?」


ファロは溜息を零してドーゼムの背中を叩いた。


「ギルマスで無ければ喜びも、悲しみも与えられないとまだ分からないのか?」

「そうですよ。そんなに嫌なら長生きしましょ?」

「出来る事ならそうしてぇよ」


苦虫を噛み潰したような顔でナナセ達を睨むドーゼムに、ナナセは

ニコリと微笑みマジックバックを見せた。


「いい物を買ったんです。彼方の世界で」

「?」

「味噌に納豆菌、ゴーヤの青汁、アミノサプリにビタミン剤、プロテインにビフィズス菌のサプリを山程ね」

「なんだそれ…」

「長寿大国日本が誇る物ばかりです!」

「そんなんで長生きできんのか?」

「私が腕を奮ってドーゼムさんとファロを長生きさせますから、まだ先の未来に恐怖しないで、クロウを沢山愛して満たしてあげて欲しいんです」

「あの子が既にドーゼムさんを自分の物だと定めたのなら、私達はそれを応援します」


ドーゼムはナナセから手を離すと、考えさせてくれと言って

また酒を煽った。



どじぇむのおじちゃん

ねんねしないとだめなんだよ?

ほねのおばけがたべにくるって!

だからけーどのにーに いっしょにねんねするって

どじぇむのおじちゃんとねんねしたいけど

くろういいこだもん

がまんできるよ?

どじぇむの…おじちゃん

だいす…き…


寝付く間際の独り言か、ドーゼムへの呼び掛けか。

クロウは無意識に鎖から思念をドーゼムに飛ばしていて、

ドーゼムは慌てて立ち上がると歯を磨き、タオルを濡らし身体を拭き

始めた。


「ドーゼムさん?どうしたんですか!?」

「クロウが呼んでる!それにっ!ケードが添い寝してやがる!」

「くそ!なんだこれ!あぁ!イライラする!」


その言葉にファロはニヤニヤしながらドーゼムを見ていた。


「ギルマス、俺達はここで寝るがいいか?」

「好きにしろ!俺はあっちに行ってくる!」


慌てて出て行くドーゼムを見送ると、ナナセ達は抱き合い

ひとしきり笑った。


「素直になればいいのに。あれだよね?今、確実にドーゼムさんクロウに鎖つないだよね」

「くくっあの本能に動かされている感じからそうなんだろうな?でも理性があるから受け入れられないんだろう。下手に大人になるのも考え物だな」

「そうだね、ドーゼムさんは理性の人だから」

「俺は本能に従ってもラグには惚れなかったけどな。何なんだろうな?運命の番とは」

「関係ないよ」

「ん?」

「きっと…あるべき形を繋ぎ止めるのが番なんだよ」

「俺達もか?」

「私達だからだよ」

「番じゃないと知った時の絶望は…今でも忘れられないけど、ファロじゃないとダメだったんだ。これって運命でしょ?」

「あぁ、俺もナナセが消えた時の恐怖が今も忘れられない。怖い…お前を縛り付けても消えられたら俺は……」

ナナセを抱き締める腕に力が篭り、ナナセは身を捩った。

「ファロ…」

「もう彼方には帰れない。帰らない」

「何でわかるんだ」

「分かったからだよ…この世界に来た意味と、戻された意味がね」

「あの時きっと、私は私を必要とする場所を求めたんだ。誰でもない私を欲してくれる世界を…」

「もう、元の世界に私を求める人は居ない…ファロだけなんだ求めてくれるのも、求めるのもね」

「俺は…安心してもいいのか?二度と消えないと、信じていいのか?」

「信じて…ここで一緒に生きてよ」


二人はただ抱き合い、ナナセはファロの柔らかで暖かい漆黒の毛皮に

顔を埋めて眠りについた。











































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