狼と人間、そして半獣の

咲狛洋々

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太陽の国 獣語

秘密(2)

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 ドーゼムにより、シュンとファルファータの間にヤリハーンという

息子がいる事が詳らかにされ、シュンはヤリハーンを守る為に否応なし

にドルザベルの手足となりロードルーに派遣される事となった。


「ドルザベル王よ…貴方に従おう。だが、ファルファータをロードルーへ連れて行く事は出来ない」

「何故だ」

「ファルファータの中では未だにリンド達は生きていて…我の嘘に気付けば自死もあり得るだろう」


ドーゼムはリルドの話を思い出していたが、ファルファータの状況が

その様に重いものには思えなかった。


「どんな嘘を吐いたんだ」


「…リンド達の死から、あいつは身近な者達の死についての記憶が死ぬ前で止まっている。だから、あいつにはリンド達がまだロードルーに居ると言ってある…それでも…毎日の様に潰れて廃墟となった商会へと足を運んでは…目に見えぬ誰かとずっと話している…」

「なら、尚更良い医者の多いロードルーで診てもらった方が良くはないか?」


「国外の医師にも見せたが…治すには同等のショックを与えねばならないと言われた…そうなればあいつは…死を選ぶだろう」


「しかし、ファルファータ事務次官が仕事で問題を起こしたという報告は上がってないが?」

「あぁ、死に関して以外は全くもって普通だ…しかし、ロードルーだけは駄目だ。家族のいる場所と認識してしまっている…嘘の写真ですら家族と認識する程だ…」


ドーゼムはファロの事を思い出した。

そう言えば、今ナナセはファルファータと会っているんじゃないか?

まぁあの二人の事だから、荒っぽい事はしないと思うが。


「なれば…子を作れ…」


ドルザベルの言葉に、ドーゼムとシュンは口をあんぐりと開け固まっ

た。シュンは、未だ破滅願望から抜け出せず呆然とした頭で色々考えて

みるも、やはり理解が出来ずにドーゼムを見た。


「いや、俺を見るなよ…俺も理解が…」


「過去を思い出す暇を与えなければ良い」

「子を成し、育児に専念させろ」

「いや、無理だ。あいつは俺を敵としてしかみていない」

「それに…我は妻を忘れず…未だ伴侶はあ奴だけと思っている」

「…ならば共にロードルーへ赴き、ファルファータの苦難を共にするのだな。それが贖罪となろう…」

「…どうなっても知らんぞ」

「そこを何とかするのも宰相の仕事だ…いや、これからは、ザーナンド領主代行殿だな」


ドーゼムが頭を掻きながら、クロウに会いたいとぼやきそうになった

時だった。


「ドルザベル王…失礼します」


カサムードが扉を開けて王の間に入ってくると、ドルザベルに何かを

耳打ちするとドルザベルの「分かった」という言葉を聞いて、一礼

してから出て行った。


「どうした?」


ドーゼムが耳を掻きながらドルザベルを見ると、ドルザベルが立ち上

がり「会談はここまでに」と言って部屋を出て行った。


「何だぁ?急だな」

「んじゃ、お開きって事で。あんたはとりあえず沙汰が下されるまで家で大人しくしておいてくれ」

「……分かった」



ドーゼムもまた、シュンをその場に残して王の間を後にした。











「ファロ…父さん」

「何だ」

「大丈夫でしょうか…カサムード侍従長は…厳しいお方ですので」

「気にしなくていい。一対一なら俺が勝つ」


ファロがクロウとバシャの手を引き通路を歩いていた。

護衛達は先程のやり取りを見て、ファロと共にいる事でバシャは心穏や

かで居られると感じていた。

暫く歩いて行くと、剣のぶつかり合う音や掛け声などが聞こえ始め、

クロウは興奮気味にファロの手を引っ張って急かした。


「クロウ、ここが修練場で、あそこが闘技場だよ。クロウはどんな武器が好き?」

「う?くろうままみたいなけんがいい!」

「ナナセ母さんの?」

「そう!ピカピカでかちゃんってして、かっこいいんだよ」

「そうなの?私ももう一度見たいな」

「ナナセを呼ぶか?もうファルファータ殿との話も終わった頃だろう」


ファロは、近侍の狼の獣人にナナセを呼ぶ様に伝えると戦士団の

訓練を見始めた。




動きが鈍いな…それに、剣でしか戦っていない。これでは冒険者にすら

勝てないだろう。まぁ、獣人はその本能と身体が武器だし、武器の扱い

はあまり得意でないのは分かっている。だが、なれておく必要もある

だろう。この中で一番マシなのはあの兎族ラビターだな…。

ナナセの動きに近い、まぁかなり荒削りで先を読めていないが…上手く

育てば良い戦士となるだろう。


バシャとクロウは柵に身を乗り出し、戦士達の訓練を嬉々とした表情で

見つめていた。

獣戦士達も、バシャとファロが見ている事に気が付いて皆浮き足立ち、

剣を握る手に力が入った。すると、思い切り振り下ろした豹族の剣が

その手から抜けてバシャとクロウの方へと飛んできた。


「「危ない‼︎」」


戦士達と護衛が声を掛けだが、目前まで剣は物凄い速さで飛んできてい

て、皆目を瞑った。

バシッ

バシャはクロウを抱きしめぎゅっと目を瞑ったが、全くぶつかってくる

気配が無く、恐る恐る目を開くとファロが片手で剣の刃を掴んでいた。


「ぱーぱ!おてて!いたくなーい?」

「あぁ、問題ない。これくらいの速さならナナセの剣で慣れている」

「まま?ままのけんはやい?」

「あぁ、目で追うのは難しい程な」


ファロは剣を片手でくるりと回して柄に持ち直すと、豹族の男の足元に

剣を投げた。豹族レオパーナの男の足の間にトスッと剣が刺さ

り皆呆気に取られている。


「手首に力が入りすぎだ。それに腰が浮いている、重心を落とすといい」


豹族レオパーナの男は呆然としつつも頷き、刺さった剣を引き

抜いた。そして、戦士団の隊長が駆け寄りバシャとファロの前で跪いて

頭を下げた。


「申し訳ございません!バシャ王子、ファロ殿、そしてファロ殿の御子息を危険に晒しました。罰は何也と!」


ファロはバシャを見ると、任せると言いクロウを抱き上げた。


「隊長、私は大丈夫です。ファロ殿が守ってくださった」

「はっ!誠に申し訳ございませんでした」

「クロウは私の弟です、何かあれば許しは致しません。次はありませんよ…訓練を続けて下さい」


「「はっ!」」














「ナナセ、で、いつ頃から自由に行き来出来るんだろう?」

ファルファータの期待に満ちた表情に、ナナセは引き攣った笑みを

浮かべている。


しまったー!うっかりした…どうしよう。

どう答えるべきなんだろう?ここで濁したとして、私ではない別の人に

聞かれたら…きっとファルファータさんは直ぐにロードルーへ向かう

かもしれない。



「私も…正式な日程は知りませんが、そうなるだろうと聞いています」



嘘じゃない…私もいつから自由に行き来出来る様にのるかは分からな

いし。



「そうかい!シュンにでも聞こうかね?あぁ、楽しみだね」



参ったな…うぅ、居辛い。何か話を逸らさなきゃ…何か…。


ナナセが脂汗を垂らし出した時、部屋に侍従が訪れた。


「はいっ!どうぞ!」

「恐れ入りますが、ナナセ殿。ファロ殿が獣戦士の訓練所へお越し下さいとの事です」


ナナセはこれ幸いと立ち上がり、「分かりました」と返事をすると

ファルファータに頭を下げて立ち去ろうとした。


「ナナセ?どうしたんだい」

「いえ、ファロが来て欲しいと連絡を寄越しまして」

「ふむ。なら私も行こうかな?クロウ君と私も話がしたい」


えぇ⁉︎参ったな…子供の姿がまたファルファータさんの記憶を呼び起こ

す様な刺激にならないと良いけど。


「で、ではご一緒に訓練所へ参りましょうか?」

「うん、そうしよう」





















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