狼と人間、そして半獣の

咲狛洋々

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太陽の国 獣語

虎の威を狩り尽くす狐(6)

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 まさか、自身の身の内にこれ程までに苛烈な怒りと言う感情があった
事にナナセは驚いていた。本来なら守られ、慈しみの中で子供らしい感情を持って泣き、笑い、怒り、大地を駆け回る、そんな当たり前の環境を子供には与えるべきだし、あって当然だと思っていた。しかし、先程出会ったバシャは子供らしい様子がこれっぽっちも無かった。それはきっと、王子という立場や獣王国という特異な環境が彼をそう育てたのだと、ナナセは思った。なぜ、私はすぐに彼の手を取らなかったのか?もしも、あれがクロウならば?
 
 国を敵に回しても、会談を潰したとしても…あの時私はあの王子を見捨てるべきでは無かった。あんなに小さな体に、どれだけの悩みと苦しみを抱えていたのだろう?


「ナナセさん?震えています…どこか怪我でもしたのですか?」

「私が?まさか」

「で、いつ会わせて頂けるのですか?」

「いや、流石に…内容が内容ですから、直ぐと言うわけには」

「自分の子供が襲われたのに?しかも自分の正妻に…」

「後、10分が限界です。でなければ、城を落とします」

「冗談きつーいにゃーーん」

「……」

「マジですか…」

「後9分です」

「行ってきます‼︎」




 ロイとカシャはイライラしていた。リンから先程のナナセの戦い振りを聞いたからだ。しかも、その内容が2人にとってもムカつきを抑えられない内容だった。


「やっちまえば良かったんだ。そもそも、会談なんて成立しねーだろ」

「そうですね。珍しく意見が合いました」

「珍しくとか言うなよ、寂しいじゃん」

「それより、私はシュン殿が気に入らないのですが」

「確かにな」



王の間に入ってから、シュンは王に一言も話す機会を与えなかった。時折リンがシュンの話を遮り、王に解答を求めるがシュンが間に入り先回り回答をする、それの繰り返しだった。


「ちょっとさ、いい加減にしてくれないかな?」

「リン大じ…」

「それでは、通商条約は現段階では成立成らずと言う事で良いですね?」


「いい事あるかい!お前、少し黙っててくれない?ちょっと王様と話があるのよ、アンタの回答とか求めてないから。最高権力者はアンタじゃ無いでしょ?」


「政権に於いて、最終採決権は私にある。王は心安らかに玉座に座って頂けるだけで良いのです」

「あー…面倒くせぇなぁ。ロードルー王の代行者である僕が、ドルザベル王と話をすると言ってんだよ?シュン、アンタは宰相、王様はあっち!僕とお話がしたいなら、王様になってから話し掛けてくれる?」


「…リン大臣」


ドルザベルは手を上げると、扉に控えている獣人戦士を呼んだが獣人戦士は動かない。はぁ、と息を吐くと徐にドルザベルは玉座から立ち上がり段を降りた。すると、シュンが手を上げ獣人戦士を呼び、ドルザベルを支えながら玉座に座る様にドルザベルを押し付けた。


「ちょっとー、そこの獣君。会談中!邪魔をするんじゃ無いよ」


熊の獣人戦士はリンの言葉に怒りを顕にすると、下がり際にリンの側に
近付くとドスの効いた声で威圧した。


「…黙れ人間」

「あ?」

「黙れと言ったんだ人間」

「あ??言葉を喋ってくれよ、熊語はどこの世界でも理解する奴は居ねーんだよ!★%×⊿⊆$%〒?パピブヒベロベロバー?こんな風にしか聞こえねーんだよね?何つった?」

「黙れ」

「飴くれ?」

「黙れ」

「玉くれ?玉乗りするなら外でやれよ」

「黙れ‼︎」

「嵌めろ?やだよ、僕、体臭キツい奴に興奮できねーんだよ」


散々馬鹿にされた獣人戦士は、怒りのままにリンの首に手を掛けた。その瞬間、ロイとカシャが獣人の首を掴み、後ろにひき倒し鼻っ柱に拳をぶつけた。


「グァぁぁ‼︎あぁぁぁ!」

「はぁ、品の無い喘ぎ声だね。そんなんじゃモテないよ?」

「シュシュ、いい加減にしないとね?お遊びで国を動かしちゃ駄目だよ?オイタが過ぎるよ。そろそろ僕も限界だしね?二択だ、出て行くか、この場で殺されるか」


ギロリと睨んだリンは、それまでのふざけた態度とは打って変わり、獣の様な眼差しに、シュンの本能が逆らうなと警告した。


「それは、こちらの言葉だ。そろそろ人間の世界に帰国する準備をされると良い」

「はぁ、僕が戻るのはロードルーだ。ロードルーは人間と獣人の国。助けを求める獣人を見捨てる国じゃないんだ。僕はドルザベルと会談をしないといけないの。だから、獣だけの世界で生きたいなら国を出て行け、そこで勝手に国でもなんでも作って孤独に生きろよ」

「お前は人間、我々と相容れぬ」

「誰が僕が人間だと言ったんだ?」

「何?」

「僕の名をフルネームで言えるか?」

「何を言っているんだ?」

「僕の名は、リン•バーネスト•ボルチェスト」

「ボ、ボルチェストだと…」

「そうだよ?君の家に一族を殺されたボルチェスト家だと言えば思い出すかい?」

「まさか、お前…白狐族なのか?」

「そうさ、僕は狐の獣人だ」

「今は僕がお前の命を握ってる。さぁ、どうする?黙って出て行くか、殺されるか、どちらにするんだ?」














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